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あの仕事の「ヒト」と「カネ」

【調律師】
華やかなピアノの音色を支える影の演奏者
職人に求められるハイレベルなコミュニケーション

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ピアノを習ったことのある人なら、一度は調律師という職業に憧れたこともあるのではないだろうか。年に一度自宅に訪れる調律師は、冴えないピアノの音色を劇的によみがえらせてくれる。「この音がうまく鳴らない」「湿った感じの音が気になる」などといった要望を伝えたら、あとは待つだけ。調律特有のさまざまなオクターブの音色に耳を澄ませていると、1時間後には魔法にかかったかのように澄んだ音色に生まれ変わっている。弾き手にとって頼もしい存在である調律師。その仕事内容や労働環境をひも解いていこう。

88個の鍵盤と200本を超える弦を扱うプロ仕事

ピアノの鍵盤が全部でいくつあるのかをご存じだろうか。答えは88個。調律師はそれらすべてを何度も叩き、音を確認する。「ド」レミファソラシ「ド」には、高さの違う「ド」が二つある。この距離を1オクターブと言うが、さまざまなオクターブを鳴らし照らし合わせながら、音にずれがないかを確認する。200本以上の弦が張られたピアノの構造は繊細で複雑なため、ギターのように手軽にはチューニングができない。調整が必要な場合は、チューニングハンマーと呼ばれる専用の工具を使って、弦のチューニングピンを回し音の高低を整える。弾き手の好みに沿うように、200本以上の弦をチューニングしていくのは膨大な作業だ。鍵盤の整音が終われば、今度は鍵盤のタッチやペダルなどピアノ全体をメンテナンス。ピアノの置かれている環境に問題があれば、所有者に温湿度などの管理方法のアドバイスを行うこともある。まさにピアノのエキスパートと言えるだろう。

「弘法筆を選ばず」という言葉がある。その道の名人であれば、道具の良し悪しに関係なくどんなものでも見事に使いこなす、という意味だ。ピアノに関しても、まず重要なのは弾き手の技術や表現力だが、さらにピアノがベストコンディションであれば、演奏の魅力が増すことは言うまでもない。音がずれている、鍵盤が重すぎるなどといったストレスは、ピアノに向かうモチベーションに悪影響を及ぼす。ピアノの演奏者にとって調律師は、最高のパフォーマンスに近づくための伴走者なのである。

ピアノ調律の様子

チューニングハンマーを使って200本以上の弦を一本一本
調整していく作業は精神的にも体力的にも重労働だ。

国内メーカーのピアノはほとんどが静岡県浜松市周辺で製造されているが、少子化の影響などもあり、生産・販売台数は長期にわたって低落傾向が続いている。静岡県楽器製造協会の調査によると、統計を取り始めた1992年の国内ピアノ販売台数は11万3500台だったが、2010年には7分の1の1万6356台にまで落ち込んでいる(参考:2013.9.24ビジネスジャーナル掲載「国内ピアノメーカーの苦悩」)。しかし、ピアノは一度購入すると長期間所有され、メンテナンスを必要とするもの。また、いまだに子どもの習い事ランキングの上位にランクインしている。当面、調律師へのニーズが大きく減ることはなさそうだ。

絶対音感より大切なコミュニケーション能力

「音」と向き合いながら、一人で黙々と作業を行う調律師の姿は職人そのものだが、サービス業の要素が強い職業でもある。人によって「音」に関する好みは違うからだ。音を正確に合わせることはもちろん、弾き手の好みを聞き出し、好みの音に合わせていく作業には、コミュニケーション能力が欠かせない。

では、どうすれば調律師になれるのだろうか。一般社団法人日本ピアノ調律師協会により実施される「ピアノ調律技能検定試験」という国家試験はあるが、取得が義務付けられているものではない。かつては調律師に弟子入りし、先輩の仕事を現場で覚えていくことが多かったが、現在ではほとんどの調律師が養成所や専門学校で学んでいる。調律師たちが苦戦するのは、ピアノ一台一台にまったく違った特徴があること。メーカーによる違いや演奏者のクセなどに臨機応変に対応する必要があり、理論ではカバーしきれないところがある。そのため、学校を卒業してもすぐに働けるわけではなく、多くの場合は就職した先でOJTのように実践を積んでいくことになる。

調律師には「絶対音感」が求められると思いがちだが、決してそうではない。後天的に鍛えることができる「相対音感」によって十分対応できるからだ。ただし、家庭内でよく見る、狭いスペースでも設置可能な「アップライトピアノ」を調律する場合、150センチ未満の人には困難が生じる。そのため、養成学校には身長制限を設けているところもあるようだ。また、調律師は「聞く」ことが仕事。聞く機能を低下させることのないように、大音量でヘッドホンを使用しないなど、普段から注意が必要だ。

調律師はとてつもなく稼げるわけではない

調律師の就職先には、楽器販売店や調律事務所、ピアノメーカーや音響メーカーなどが挙げられる。技術が高く、顧客が多い調律師には、独立という選択肢もあるが、正社員として勤務せず、アルバイトやフリーランスとして複数の楽器店に所属する働き方も可能だろう。

コンサートピアノ

弾き手の理想の音を実現するためには確かな
技術と同時にコミュニケーション力も求められる。

調律師の収入はそれほど高くないのが現状だ。先述のとおり、ピアノの販売台数は減少している。プロやピアノ教室と違って、一般家庭ではそう頻繁に調律を行うこともない。マーケットが大きくないのである。また、調律には多くの集中力と体力を要するため、一日に何台もかけもちすることがそもそも難しい。調律料金は1万円~5万円ほどというのが一般的だが、現在は需要に対してやや供給が勝っているため、価格競争も起きている

店舗や企業に所属した場合の初任給は、20万円を超えることの方が少ないといっていいだろう。専門職のため、総合職のような昇給・昇格もなく、年収としては200万円台から300万円台がボリュームゾーン。ベテランになっても、400万円台にとどまりそうだ。お金が仕事のモチベーションだという人には、あまり向いていない仕事かもしれない。調律師にとって一番のモチベーションとは、引き手の好み通りのチューニングを実現し、ピアノが素晴らしい音を鳴らすことのようである。

この仕事のポイント

やりがいまったく違う個性を持つピアノ一台一台との出会いの中で、弾き手の好みに応じたチューニングができたときは大きな達成感を得られる。また、感謝の言葉を直接聞くことができる点もモチベーションにつながるだろう。
就く方法特別な資格は必要ないが、養成学校で理論と実践を学ぶのが一般的。その後はピアノメーカーや調律事務所に所属することで経験を積んでいくことができる。
必要な適性・能力集中力と持続性が必須。さらに、どのような仕上がりを求めるかを顧客から引き出すためのコミュニケーション能力も重要な要素だ。
収入初任給は20万円に満たないことが多い。体力面でもニーズ面でも、1日に仕事を詰め込むことは難しいため、年収は200万円台から300万円台が多くなっている。

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