【測量士】
あらゆる土木・建設工事は測量からスタート。
測ることでいのちを守り、くらしを支える
6月3日は「測量の日」。この日に測量法が公布されたことにちなんで制定された。測量とは、国土と環境の位置に関連する情報を正確に計測し、図面に表現して、生活向上に役立てる技術である。社会資本の整備などに欠かせないが、あまりに基礎的なため、その存在は目立たず、広く一般に認識されていない。いわば縁の下の、そのもうひとつ下の力持ち――それが、国家資格に基づいて測量を行う「測量士」である。街中でときどき見かける「何かを測っている人たち」の、知られざる仕事ぶりとは。
大地を測る――復興の槌音をよく早く、高く響かせるために
今年4月14日から断続的に発生した「平成28年熊本地震」の被災地では、多くの家屋や建物が倒壊し、道路などの生活・産業インフラにも甚大な被害が出た。街並みはおろか、地殻変動や地盤崩壊で、大地の姿そのものが一変してしまった場所も少なくない。そうした状況を把握し、復旧・復興へとつなげていくために、真っ先に必要になるのが測量の技術である。地域復興はまさにゼロからの再建だが、そのゼロの部分を担う、基礎中の基礎の仕事といえるだろう。あらゆる建造物の設計・施行は、測量の工程に始まるからだ。
道路・鉄道・空港などの大規模な公共事業から、身近な土地の造成や上下水道の整備まで、土木・建設工事を行う場合には、対象となる土地の地形や建造物の位置関係をあらかじめ把握しておく必要がある。そのために測量を行うのが、専門の国家資格をもつ「測量士」である。ちなみに、測量士は測量計画の作成や実施の責任者であり、測量士が作成した計画に従って、実際に測量の実務を行うのは、同じく有資格者の「測量士補」である。
測量士および測量士補が活躍する場は、民間の測量会社や地図の出版社など。そのほかにも国土交通省や国土地理院、農林水産省、地方公共団体など、幅広く存在する。測量業を営もうとするものは、個人・法人の別を問わず、測量法の定めるところにより、営業所ごとに1名以上の測量士を置き、国土交通大臣に申請して測量業者としての登録を受けなければならない。登録の有効期間は5年。引き続き測量業を営む場合は、更新の登録を受けなければならない。測量業務の目的や性格によって、測量士の仕事は大きく次の三つに分かれる。
一つ目は「土木測量」。さまざまな建造物や道路を施工する際に必要となるもので、民間の測量業者に発注される仕事の大半が、土木測量だといっても過言ではない。測量士は測量法にのっとり、綿密な測量計画を立てたのち、専門的な測量技術を用いて建築予定地の測量を実施し、図面を作成する。建造物の建設条件や性能設計は測量の結果によって決まるため、責任は極めて重大である。
二つ目にあげられるのは、その名のとおり、地図を作成するための「地図測量」。航空写真やヘリコプターでの計測などから得られたデータをデジタル加工することで、紙の地図だけでなく、Web上の地図やカーナビ、スマートフォンなどのアプリにも活用することができる。
そして三つ目が「地籍測量」と呼ばれる測量。これは、個人または法人が所有する土地の面積を計測し、記録する仕事だ。意外なことに、建物が立ち並ぶ都市部でも、土地と土地との境界はあいまいなケースが多く、その所有権などをめぐり、その境界を確定させる必要が生じたときに、地籍測量が行われる。
目立たないけれど地図に残る仕事、現場は体力と忍耐力勝負
街中の道路わきや公園の一角、見晴らしのいい丘陵地や山の頂上付近で、ふと足元の地面を見ると、石や金属で作られた小さな柱状の標識が埋められているのに気づくことがあるだろう。「基準点」である。基準点には、あらかじめその標高がわかっている水準点(全国に約2万点設置)と、緯度・経度がわかっている三角点(全国に約11万点設置)などがあり、測量士はそのポイントを基準として、測りたい場所の標高や位置を測量するのだ。当然、作業の現場は屋外が中心なる。繁華街や住宅街などの街中はもちろん、郊外地や険しい山中、河川や海岸など、ありとあらゆる場所へ出向き、トランシット、光波測距離、GPSといった専門の測量機材を持って歩き回りながら、作業を進めるのが「測量士」の日常である。
人里離れた現場も珍しくなく、昼食を摂る飲食店はおろか、一休みする場所を確保することさえままならないといった苦労もあるという。では、街中なら楽かというと、そうでもなく、たとえば夏の炎天下、アスファルトの路上で作業する際の肉体的消耗は想像を絶する。また、測量だけではなく、作業計画の設計や製図などのために残業が必要になることも多い。いずれにせよ、ハードな仕事であることは間違いなく、厳しい条件下でも、計測ミスはけっして許されない。入念な作業を何度も繰り返すことに耐えうる体力と忍耐力、緻密な注意力や計算能力、手先の器用さ、作業全体を効率よく回せる計画性なども、当然求められるだろう。測量の仕事は数人のグループで行うことが多く、トランシーバーなどで連絡を取り合い連携しながら動くので、協調性も必須といえる。
測量士の仕事は、プロジェクトの“ゼロの部分”を担う、基礎中の基礎の役割であるため、その重要性のわりに目立ちにくく、一般にあまり認識されていない。しかしダムや道路、ビルといった建設物は、この先何十年にもわたって人々の命を守り、生活の質を保証し続けるだろう。自分の関わった仕事が目に見える形で残り、地図にも記され、社会的な貢献を果たしている事実を実感できることこそ、測量士の仕事の醍醐味ではないか。
専門性のわりに収入は普通、隣接資格取得で独立の道も
「測量士」になるには、大きく二つの方法がある。一つは、毎年5月に行われる測量士の国家試験を受験して合格し、測量士として登録することである。試験の合格率は例年10%程度で難易度も高めだが、受験資格などは特になく、誰でも受験することができる。
もう一つは、試験を受けずに測量士の資格を得る方法だ。公益社団法人日本測量協会のホームページによると、以下のいずれかに該当する人が対象となる。(1)文部科学大臣の認定した大学、短期大学、又は高等専門学校において、測量に関する科目を修め、 当該大学等を卒業し、測量に関し実務経験(大学は1年以上、短大・高等専門学校は3年以上)を有する方。(2)国土交通大臣の登録を受けた測量に関する専門の養成施設において1年以上測量士補となるのに必要な専門の知識及び技能を修得し、測量に関して2年以上の実務経験を有する方。(3)測量士補で、国土交通大臣の登録を受けた測量に関する専門の養成施設において、高度の専門の知識及び技能を修得した方。いずれかに該当する人が国土地理院に申請して登録されると、測量士の資格を得ることができる。
測量士の資格を取得して独立開業する人もいるが、大半は測量業者に勤務する。測量士は、高度な専門知識や技術を要する仕事ではあるが、給料は一般的な会社員とあまり変わらない。昨今は、平均年収400万円前後が相場だという。測量業者の多くが中小企業であること、公共工事予算の削減にともなう売上減などが理由のようだ。ただ、2020年の東京オリンピックに向けた建設需要の高まりから、明るい兆しも見え始めてはいる。
また、「土地家屋調査士」や「行政書士」など、測量士の仕事とからむ別の資格を取得することで、対応可能な業務の幅を広げられれば、独立開業への道が開ける可能性も高い。たとえ目立たなくても、自分の仕事が豊かな国土を支えていることに、やりがいを見出せるかがカギになるだろう。
この仕事のポイント
やりがい | 自分の関わった仕事が目に見える形で残り、地図にも記され、社会的な貢献を果たしている事実を実感できること |
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就く方法 | 測量士の国家試験を受験して合格し、測量士として登録する大学などで専門科目を修め、規程の実務経験を積んで申請する |
必要な適性・能力 | ・入念な作業を何度も繰り返すことに耐えうる体力と忍耐力 ・緻密な注意力や計算能力 ・手先の器用さ ・協調性 ・作業全体を効率よく回せる計画性 |
収入 | 平均年収400万円前後独立開業への道が開ける可能性も |
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。