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【遺品整理士】
モノを片付けるだけの仕事じゃない。
命と向き合い、心に寄り添う「遺品整理」

内閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調査」(2011年)によると、一人暮らしの高齢者の五人に一人が「困ったときに頼れる人がいない」という。これでは、“孤独死”が増えるのも無理はない。故人の持ち物を家族に代わって整理する「遺品整理士」の仕事に注目が集まっているのも、そうした変化を映し出す現象といえるだろう。人が亡くなった際に遺族がいない、いても十分に対応できない――人生の最期を巡る厳しい現実を受け止め、少子高齢社会を静かに下支えするプロフェッショナルの実態とは。

需要増大に伴いトラブルも多発、業界健全化を目指して資格を導入

国立社会保障・人口問題研究所の調べによると、50歳の時点で一度も結婚していない人の割合を示す「生涯未婚率」は、1985年には男女とも4%だったが、直近の2010年調査では、男性が約20%、女性が約11%にまで上昇した。この傾向が続けば、30年には男性が30%、女性が23%に達するという。つまり現在30歳以上の男性の三人に一人、女性の五人に一人が未婚のまま老後を迎える計算だ。これに核家族化や離婚率の上昇も加わるため、いわゆる独居老人の急増は避けられない。40年頃には、年間20万人が“孤独死”するというショッキングな推計さえある。人が亡くなった際に連絡が取れる身寄りがいなかったり、いても遠方で疎遠だったり――こうした日本社会のかつてない変容が、結果的に新しいビジネスを創出し、仕事の需要を高めている。「遺品整理業」はその典型といっていい。

遺品整理士 イメージphoto

故人を思いつつ遺品の整理をする――そんな時間を持てることは、現代では贅沢なことなのかもしれない

遺品整理とは、人が亡くなった際に行う部屋や荷物の片づけ・処理のこと。かつては遺族や縁者が故人ゆかりの品々を整理し、形見分けしたり、処分したりするのがごく普通の習わしだったが、ライフスタイルの変化にともない、人手の面でも、時間の面でも遺族だけではまかないきれなくなっているのが現状である。故人と離れて暮らしており、葬儀には参列できてもそれ以上休みを取れない、高齢で作業をすることが困難、遺品があまりに多い、整理や処分のしかたがわからないなど、遺族に「遺品整理を行いたい」という意思があっても実行できないケースや、そもそも故人に遺族がいないというケースも少なくない。そういうときに、依頼主から委託を受けて遺品整理を代行するのが遺品整理業者の仕事である。依頼主は遺族のほか、遺族がいない場合は成年後見人や家主、不動産業者などさまざまだが、最近は「終活」ブームの影響か、子供や周囲に面倒をかけたくないと、自分で生前に遺品整理を予約する人も増えているという。

需要が高まるにつれて、参入業者も拡大。便利屋や運送業者、産廃業者など、全国5000社以上が遺品整理業に携わっているとされる。しかし現時点では、まだ監督官庁もなく、不当な高額料金を請求するなどの不法行為が横行しやすいと言われている。家財を一般廃棄物として処分する際には、整理業者自らが自治体の許可を取るか、許可を得た収集・運搬業者を別途、手配しなければならないが、実際には不法投棄などのトラブルも後を絶たない。こうしたなか、業界の健全化を図ろうと、11年に一部業者や元自治体職員が一般社団法人「遺品整理士認定協会」を設立した。「遺品整理士」とは、遺品整理業界で日本初の認定資格。同協会が独自に実施する養成講座を修了し、試験に合格すれば取得できる。

“供養”の心で遺品を扱う――孤独死の現場やゴミ屋敷に立ち入ることも

遺品整理士認定協会理事長の木村栄治さんが、民間で「遺品整理士」の認定資格を作ろうと思い立ったきっかけは、「父が亡くなったとき、遺品整理を頼んだ便利屋の対応があまりにも機械的だったから」だという。故人が生前愛用した品々は、要る、要らないと、単純に仕分けられるものではない。残された家族や縁者にとって、それはただの“モノ”ではなく、故人の想いが詰まった、その人の生きた証にほかならないからだ。同協会では、資格認定する「遺品整理士」の仕事を「『命と向き合う』こと、『共に生きる』ことの大切さを社会に問い続ける仕事」と定義し、そこに「遺品整理士の存在意義がある」と位置付けている(協会公式サイト参照)。求められるのは、単なるモノの片付けや清掃作業ではない。残された人の心に寄り添いながら、遺品を通して故人の人生の一端に触れ、“供養”の心をもってその品々を適切に取り扱うこと。それこそが遺品整理のプロフェッショナルとしての、あるべき姿なのだろう。

遺品整理士 イメージphoto

「遺品整理士」はモノを通して『命と向き合う』仕事なのだろう

もちろん実際の仕事の現場は、時に過酷をきわめる。孤独死で亡くなったまま放置された部屋や、物であふれかえり、ゴミ屋敷のように荒れ果てた現場に立ち会うには、心身のタフさも必要だ。また、遺品整理が必要になるのは、早急に部屋の明け渡しを迫られていたり、肉親を失ったばかりで気が動転していたりと、依頼主に心の余裕がない場合が多い。そうした切実な事情があるからこそ、故人や遺族に配慮を尽くし、供養の念をもって遺品整理にあたることで、依頼主から大きな感謝が寄せられる。それは、何物にも代えがたい報酬であり、この仕事ならではのやりがいに違いない。

供養という形をとるもの、廃棄するもの、リサイクルに回すものと、遺品の状況はさまざま。必要に応じて行政や関係各機関と調整し、法規制に準拠した整理を行わなければならないが、過去には不法投棄をしたり、現場で発見した貴重品を無断で換金、着服したりする悪質業者が珍しくなかった。古物営業法、廃棄物処理法、家電リサイクル法など関係法令の知識とともに、高い順法精神と倫理観、そして何よりも個人や遺族への思いやりが求められるゆえんである。

「遺品整理士」の資格は優良業者の証、1日600人が受講申し込み

「遺品整理士」の資格は、現時点では民間資格であり、遺品整理の仕事に就く際に必須のものではないが、先述した業界の現状を踏まえれば、これを取得する意義は決して小さくない。顧客や雇用先に対して、自らが一定の技術水準に達した、信頼できる優良な業者・人材であることを証明しアピールできるからだ。遺品整理士の養成講座は通信制で、まず専用のDVDとテキストを使って2ヵ月程度学習する。講師は、孤独死を研究する大学教員や弁護士、宗教家などの専門家。学習が完了した後、問題集への回答や課題レポートを提出し、正答率7割以上などの基準を満たしていれば、後日、協会から認定証書が発行される。

「遺品整理士」の有資格者は現在、全国に12000名程度いる。遺品整理を業務の一つとして手がける運送業、清掃業、リサイクル関連の会社や、最近増えつつある遺品整理専門の会社がおもな職場だ。収入は勤務先によって異なるが、月給ベースで20万円~40万円。腕を磨き、実績をあげれば、一般的な会社員を上回ることも十分可能だという。比較的新しい業界であるため、資格を得て独立・起業する人も少なくない。

前出の木村理事長によると、資格講座を開いてから最初の2ヵ月間は、受講者が200人にも満たなかったが、インターネットなどで遺品整理に関する記事が配信されると、その日だけで600人もの受講申込みが殺到するようになったという。遺品整理士への注目や需要は、今後も高まる一方だろう。ある遺品整理会社社長は、自社公式サイトの代表メッセージに「私たちの仕事はないほうがいいと思います」と記している。ないほうがいい仕事が、なくてはならない仕事になりつつある――それが超高齢社会ニッポンの現実なのかもしれない。

この仕事のポイント

やりがい故人や遺族に配慮を尽くし、供養の念をもって遺品整理にあたることで寄せられる、依頼主からの大きな感謝
就く方法遺品整理を業務の一つとして手がける運送業、清掃業、リサイクル関連の会社、遺品整理専門の会社に就職
「遺品整理士」の資格は、現時点では民間資格であり、遺品整理の仕事に就く際に必須のものではない
必要な適性・能力・古物営業法、廃棄物処理法、家電リサイクル法など関係法令の知識
・高い順法精神と倫理観
・個人や遺族への思いやり
・心身のタフさ
収入勤務先によって異なるが、月給ベースで20万円~40万円
資格を得て独立・起業も可能

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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