ASTD2014International Conference & Expo
[ 取材・レポート ] 株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口大輔
ASTD2014に参加された皆さんの声
最後に、今回、日本からASTD2014に参加された方々より寄せられた、コメントを記載いたします。最新の人材開発、組織開発に関する情報をまさに“体感”した皆さまからの、熱いメッセージをご覧ください。
コミュニケーションの「頻度」と「よい聞き手であること」
和光 貴俊さん(三菱商事株式会社 人事部)
2年ぶりに参加したASTDは、全体参加者も1万人を超えたとのことですっかり活気を取り戻した印象でした。今回、11のコンカレント・セッションに参加しましたが、いくつかのセッションで言及されていたのが、「マネジメントが部下と取るコミュニケーションの『頻度』の重要性」についてでした。マーカス・バッキンガムのような中堅どころから、ベバリー・ケイのような大御所まで、「内容もさることながら、フォーマルか、インフォーマルかを問わず、いかに頻度多く、部下とコミュニケーションをとるかによって、エンゲージメントやパフォーマンスが大きく変わる」といった点を強調していました。そして、コミュニケーションの際に、単に指示やアドバイスを与えることよりも、「良い聞き手(グッド・リスナー)」であることの大切さに力点が置かれていたのが印象的でした。また、この「頻度」や「よい聞き手」の話を含め、従来、経験則、ないしは精神論的に語られていたHRのグッド・プラクティスが、ニューロサイエンスの側面から、科学的根拠を持って語られていたのがもう一つの特徴といえます。現状、玉石混交気味のこうした研究が徐々に見極められて、科学的裏付けのある「セオリー」となっていくことに期待したいと思います。
“Change”に向けた”Play”の重要性
小林 陽一さん(三井物産人材開発株式会社 人材開発部 キャリア・ディベロップメント室 室長)
今年のASTDでは、不安定、予測不能、不確実、多様性の環境下(VUCA)での、”Change”が大きなテーマの一つとして取り上げられていました。多くの組織が生き残りをかけ、変革に取り組んでいますが、成功している企業は多くないと思います。こうした中で、本年のASTDの潮流であるニューロサイエンスや学習スタイルの変化等は、大変示唆に富む内容でした。そもそも人は変化を拒むことや、その背景と対策が脳科学的な見地から述べられていたことは大きな収穫でした。仕事等を通じた「経験学習」の重要性やVUCAの環境下でのチームの在り方等、総合的に勘案すると、個々人が主体的に動ける組織こそが変化の成功要因であると認識しました。仕事を楽しむことで好奇心が湧き、それが一人一人の行動変容に繋がり、組織に変化が波及します。仕事のやらされ感からは、決して”Change”は起きません。最終日のケヴィン・キャロル氏の基調講演では、情熱を持って、自分ができることをやり続ければ、素晴らしい世界に変化できること、その実現に向けたPlayの素晴らしが語られていました。“I have no special talents. I am only passionately curious.”彼の講話で紹介されていたアインシュタインの言葉です。「仕事を楽しみ、仕事を遊ぶ」、今後の人材開発の参考にしたいと思います。
日本の職場に昔からある考え方の大切さも再認識
土田 雅之さん(パナソニック株式会社 人材開発カンパニー チームリーダー)
技術マネジメント研修を担当しています。通常は社内の研修が中心で、他社の人と意見交換することはあまりありません。ASTDは世界中のHRD担当者が集まる国際会議で、講演や参加者同士で意見交換をしたり、活字でしか見たことがない著名人の講義を直接聞くことができ、大変刺激を受けることができました。以前より研修効果測定に関心があったのですが、その第一人者であるJack Phillips氏の講義を聞くことができ、また、直接ことばを交わすことができたのが忘れられません。考えさせられたのがMarcus Buckingham氏の講演で「チームリーダーは、年度末に部下の業績を客観的に評価しようと努力するのではなく、日常的に部下の長所を伸ばすような仕事の設定をすることが大事だ」というメッセージでした。業績が低迷している日本企業はアメリカ的な制度やしくみを追っていますが、逆に今回の発表で日本の職場に昔からある考え方の大切さも再認識させられた気がしました。他の講演でも、仕事や業績も大事だが、個人の健康や幸せも大事である、というメッセージが多かった気がします。また、会期中に組織名称が、ASTDからATDに変更になり、会場の看板など一夜にして新しい名称に変更されていたのは圧巻でした。
学習のあり方の変化、「健全さ」の重要性
飯塚 彩さん(株式会社リクルートキャリア インフローソリューション部 )
ASTDでは多くの刺激を受けましたが、特に印象に残っていることは2つです。1つ目は、学習のありかたの変化です。私は人や組織に関するサービスの企画に携わっているため、学習のありかたのトレンドをつかむことが参加目的のひとつでした。多様なメディア・学習コンテンツを組み合わせた事例やそれらを日常に埋め込んでいくようなやり方、ニューロサイエンスの知見を生かしたマネジメントなど、ますます多様になっていく学習のあり方にふれ大変刺激を受けました。2つ目は「健全さ」の重要性です。加速する世界の変化やテクノロジーの進化に適応していくため、個人と集団の健全さが改めて重要になってきているように感じました。アリアナ・ハフィントン氏の基調講演はまさにそうした内容でしたが、スタンリー・マクリスタル氏が語られた自律的で凝集性の高い組織、そしてケヴィン・キャロル氏が語られたPlayを通したタレントの発揮も、健全な個人、そして他者との信頼関係性があってこそ実現されるものだと思います。ASTDからATDへの変化に立ち会えたことも大変貴重で、記憶に残る4日間となりました。
ASTDからAssociation for Talent Development(ATD)へ
中原 孝子さん(株式会社インストラクショナル デザイン代表 ASTD International Japan 理事)
今年のASTD国際カンファレンスでの我々関係者にとってのビッグニュースは、ASTD(もとはAmerican Society of Training and Development)の名称がATD(Association for Talent Development)へ変更になるという発表があったことでした。International Japanの理事としては、やっと日本で定着してきた“ASTD”を ”ATD”として認知していただけるよう新たなプロモーションが必要になるな、と思いました。これはさておき、(1)ASTD ICEの参加者1万人超、そのうち25%が米国以外からの参加者、メンバーも米国以外が増えている。(2)すでに”Training” という限られたインターベンションを実施するのが、「人材開発」に関わる部門の役割ではなくなってきた。という2つの視点から考えてもグローバル化と統合的な人事施策の中で語られなければならなくなった人材開発(Talent Development)を象徴する名称変更であると思いました。
300数十というコンカレント・セッションがはしるASTDICE。トレンドと言っても一言では語ることができませんが、各国参加者からの声を紹介すると、
- “Business Alignment” : 「学習」の効果性だけではなく、経営上の必要性との整合を明確にし、パフォーマンスやビジネスインパクトをしっかりとコミュニケーションしている施策が多い
- “Our field is being disruptively innovated through technology” : テクノロジーの進展によって、過去のコストがかかったe-ラーニングを超えた「学習」への変化が生じている。テクノロジーを含めた新しい「学び」への変化対応の必要
- “Learning and Neuroscience”: 脳と学習構造、効果的な学習を導くための条件の再考
などが多くコメントされていました。個人的には、つい先日亡くなられた我々の業界のレジェンド Donald Kirkpatrick氏のご子息 Jim Kirkpatrick氏のセッションでの言葉「効果測定とは、いかに数値統計ととるかのメソドロジーを語ることではない。」と、Level 4 の ”ROE(Return On Expectation)” の定義、父Donald Kirkpatrick氏のモデルを進化させた“New World of Kirkpatrick Model”が印象に残りました。
人材開発の潮流に触れ、特にLearningの在り方について考えさせられた
上林 周平さん(株式会社シェイク 取締役)
私自身、様々な企業に対してリーダーシップ開発を中心としたトレーニングを提供している中で、これからの人材育成の潮流というものを感じたく、2年ぶりにASTDカンファレンスに参加しました。2年前と比べて今回特に感じたことは、ラーニングのあり方の変化という面です。大きく2点あり、1つは、よく言われる70:20:10(経営幹部に対してどのような出来事が成長につながったかという質問に対して、70[職場での経験]:20[薫陶]:10[研修])というワードが、セッションタイトルでも数多くみられたこと。研修という場だけでなく、いかに職場での経験において学習を促すかという潮流を強烈に感じました。もう1つは、マインド面への後押しという面、すなわち変化をする際に起こる恐れ等を見つめ、それを軽減したり、後押しをしたりする重要性を謳っているのが多かったと感じます。2年前以上に、人自身のマインド面を見ている印象を持ちました。両面共に、日々人材開発の現場で仕事をする中で感じている問題意識とリンクしていることもあり、より自分自身の現場に活かせる示唆が多く、4日間大変有意義な機会でした。