在宅勤務手当を支給する場合の就業規則についての解説
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、在宅勤務の導入が進んでいます。在宅勤務は通常のオフィス勤務と異なる点がいくつもあり、在宅勤務手当を支給する企業も増えています。
ここでは、従来の就業規則に在宅勤務制度や在宅勤務手当に関する規定がない場合の対応の仕方、また、給与全体に関するルールや在宅勤務で注意すべき「費用負担」について解説します。
1. 在宅勤務手当を支給する場合、就業規則を変更しなければならないのか
在宅勤務を新たに導入する場合、在宅勤務者が負担する通信費などに対して「在宅勤務手当」の支給を検討することになります。従来の就業規則にはない在宅勤務手当を出す支給する場合、就業規則にはどのように規定すればよいのでしょうか。
在宅勤務手当を支給する場合は、就業規則を変更する必要がある
在宅勤務でも、労働時間をはじめとする労働条件が通常勤務と同じであれば、就業規則を変更する必要はありません。しかし、在宅勤務では一般に備品や通信費、光熱費などを在宅勤務者が負担するケースが多くなるため、在宅勤務手当を支給することがあります。この場合、通常勤務と異なる労働条件のもとで就業することになるので、既存の就業規則を変更しなければなりません。
労働基準法第89条では、労働者に作業用品などの負担をさせる場合、就業規則を作成するよう定めています。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(第一号~第四号略)
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
就業規則と在宅勤務規程の関係とは
在宅勤務の導入に伴って就業規則の変更が必要になった場合、就業規則の中に盛り込む方法と在宅勤務規程を新たに作成する方法の2パターンがあります。
会社の事情に合わせてどちらの方法を採用してもよいとされていますが、就業規則は変えず、付則として「在宅勤務規程」を作成している企業が多いようです。在宅勤務規程を別途作成することで、在宅勤務に関するルールを集約できるというメリットがあります。
在宅勤務規程には、下記のような事項を盛り込むのが一般的です。
- 在宅勤務を命じることに関する規定
- 在宅勤務時の労働時間に関する規定
- 在宅勤務を行っている者が負担する通信費などの費用に関する規定
なお、作成した在宅勤務規程は就業規則の一部とみなされます。在宅勤務規程も、労働基準法をはじめとする労働基準関係法令にのっとり作成する必要があります。
2. 在宅勤務手当を支給する場合の規程への記載事項
それでは、在宅勤務手当を支給する場合、在宅勤務規程にどのような規定を設ければよいのでしょうか。給与全般に関する規定と費用負担についての考え方を見ていきます。
在宅勤務規程には給与全般に関する規定と費用負担について記載する
在宅勤務手当などの諸手当は、給与に関する規定のなかで定めるものです。まず就業規則の規定に「在宅勤務者の給与については、在宅勤務規程に定める」ことを記載しておきます。
一方、在宅勤務規程では、在宅勤務者の給与は就業規則の給与規程によることを記載します。つまり、在宅勤務者であっても、基本給や家族手当、役職手当などの諸手当などは通常勤務者と同一になるということです。在宅勤務であることのみを理由に、基本給や諸手当を減額することはできません。
ただし、在宅勤務になると会社への出勤日数が減るため、通勤手当の見直しを行うことはができます。在宅勤務規程で、通勤頻度に応じて通勤定期代を支払うか、通勤日数分の実費で支払うかを定めておきます。
在宅勤務中の費用負担の記載
また、在宅勤務規程には、費用負担についても記載しておく必要があります。費用負担は在宅勤務特有の項目です。ケースごとに会社負担・在宅勤務者負担を定めます。
在宅勤務によって、在宅勤務者の自宅で発生すると考えられる費用には、水道光熱費やインターネット回線、電話料金、郵送費、事務用品費などがあります。電話料金の負担については、自宅の固定電話・従業員個人の携帯電話と、会社が貸与する携帯電話とで負担する者が異なることもあります。
加えて、負担する者だけでなく、負担限度額や在宅勤務者が会社に費用を請求する場合の方法についても、労使で話し合って決めておきます。
以下に、厚生労働省が提示している費用負担の記載例を紹介します。
(費用の負担)
第〇条 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4 その他の費用については在宅勤務者の負担とする。
在宅勤務手当について記載する
在宅勤務では、インターネット回線や電話、水道光熱などにおいて、在宅勤務者が私用で使っているものを勤務にも利用するケースが多くなります。そのため、料金のうち、社用にどれだけ使ったかを算出するのが難しいことがあります。
このような場合を考慮し、会社が業務に関わる費用分を負担する方法として、一定金額を「在宅勤務手当」として支給することも可能です。在宅勤務手当を定める際には、在宅勤務規程に「在宅勤務者が負担する費用のうち、どのようなものを対象に、在宅勤務手当としてどれだけの金額を出すのか」を記載します。
以下の厚生労働省「テレワーク勤務規程」の例を参考にしてください。
(在宅勤務手当)
第〇条の2 在宅勤務者が負担する自宅の水道光熱費及び通信費用(ただし、資料送付に要する郵便代は除く。)のうち業務負担分として毎月月額〇〇〇〇〇円を支給する。
費用負担および在宅勤務手当の規定については、会社の事情や労使の話し合いによってルールを作っていきましょう。
3. 在宅勤務規程を作成する場合の流れ
在宅勤務規程を作成する流れを見てみましょう。従業員への説明や周知をしないまま、規程を作成することはできない点に注意してください。
(2)従業員に作成案を説明するとともに、要望を聞く
(3)導入前に出てきた問題点を解決する
(4)従業員代表から意見を聴取し、意見書を作成する
(5)在宅勤務規程を従業員に周知する
(6)従業員代表の意見書を添えて、在宅勤務規程を所轄の労働基準監督署へ提出
常時10人以上の労働者がいないなど、就業規則や各種規程を作成する義務がない会社の場合も、在宅勤務規程に準じたものを作成したり、労使協定を結んだりするのが望ましいといえます。
4. 在宅勤務の導入で就業規則を変更する際は正しい手順を踏む
在宅勤務制度を導入して在宅勤務手当を支給する場合、通常勤務とは異なる給与体系となるため、就業規則を変更する必要があります。しかし、わかりやすさという観点から、就業規則そのものを変更するのではなく、付則として「在宅勤務規程」をつくるケースが多くなっています。在宅勤務規程は就業規則の一部として機能します。規程を作成する際は労使で話し合いながら進め、全従業員に広く周知しなければなりません。
在宅勤務を行うことで発生するさまざまな費用については、就業規則または在宅勤務規程の中で会社側・在宅勤務者側の負担を明確にします。その上で、在宅勤務手当を社内の実情に合わせてうまく活用しましょう。
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