有給取得率の計算方法と現状について
有給取得率は、求人情報において関心が高いものの一つであり、正しく計算して周知することは採用活動の際に有利に働きます。公的機関の調査結果も発表されているため、比較されたときに大幅に下回ることがないよう注意が必要です。
1. 有給取得率とは
有給取得率の「有給」とは、基本的に「年次有給休暇」のことを指し、労働基準法に最低限必要な付与日数が定められています。年次有給休暇の取得日数を年次有給休暇の付与日数で割ったものが有給取得率となり、取得率が低いと採用の場面で企業イメージを損なうおそれがあるため、注意が必要です。従業員の取得状況を把握して取得率を引き上げることで、職場の働きやすさや労働環境を改善することにつながります。
年次有給休暇を定義した労働基準法の条文は下記の通りです。
引用:労働基準法|e-GOV
正規・非正規に関係なく、出勤率など年次有給休暇が付与される条件に該当する労働者は年次有給休暇付与の対象者となります。
2. 有給取得率の計算方法と企業の有給取得率算出例
労働者個人単位の有給取得率の計算方法
労働者個人で考えた場合、実際の計算式は以下の通りです。
年次有給休暇の付与日数
年次有給休暇は通常、所定労働時間が週30時間以上、または所定労働日数が週5日以上の労働者の場合、入社から半年経過した時点で10日付与されます。その後は付与した日を起算日(基準日)とした1年間が、次年度の年次有給休暇の算定期間となります。
例えば2019年4月1日に週5日、40時間勤務の労働条件で入社した場合、半年後の2019年10月1日に10日の年次有給休暇が付与されます。1年後、2020年10月1日は11日、2021年10月1日には12日の年次有給休暇が付与される計算です。勤務年数が6年6ヵ月以降は20日が上限となるため、その後は毎年最大20日の年次有給休暇が付与されます。
中途採用者が多数いてそれぞれの入社日が異なる場合は、従業員ごとに、年次有給休暇の付与日と算定期間が異なることになります。人事担当としては、付与日と算定期間が統一されていないと、管理が非常に煩雑にあり、計算ミスが発生するリスクが高まるでしょう。
このような状態を防ぐために、付与日を企業ごとに決めて統一する、「斉一的取扱い」と呼ばれる方法があります。例えば従業員すべての年次有給休暇の付与日を例年4月1日などと統一することも可能です。斉一的取扱いをするときも、法定付与日数の基準を満たす必要があります。
企業全体の有給取得率算出例(前年度繰り越しの有給がない場合)
企業全体では、以下の計算式に当てはめて算出します。厚生労働省が発表している「就労条件総合調査」では、基本的に前年度の繰り越しを除いて計算しているので、この計算式に基づいて比較するのがよいでしょう。
例年4月1日を基準日に定めた場合の計算方法を見ていきましょう。
■従業員アが当年度付与日数20日のうち12日取得
■従業員イが当年度付与日数20日のうち10日取得
■従業員ウが当年度付与日数14日のうち5日取得
↓
雇用者3人の有給取得日数計=12+10+5=27
雇用者3人の有給付与日数計=20+20+14=54
有給取得率=27÷54×100=50%
企業全体の有給取得率算出例(前年度繰り越しの有給がある場合)
参考として、前年度繰り越し分の年次有給休暇を取得している場合の計算方法を見ていきましょう。
■従業員アが当年度付与日数20日+前年度繰り越し15日のうち、23日取得
■従業員イが当年度付与日数20日+前年度繰り越し5日のうち、21日取得
■従業員ウが当年度付与日数12日のうち6日取得
↓
雇用者3人の有給取得日数計=23+21+6=50
雇用者3人の有給付与日数計=20+20+12=52
有給取得率=50÷52×100=96%
有給取得日数計には前年度繰り越し分の年次有給取得日数も含めること、ただし年次有給付与日数計には繰り越し分の年次有給休暇日数を含めないことが注意点です。
3. 有給取得率の現状と今後について
日本における有給取得率の推移と現状
過去のデータをさかのぼると、有給取得率の推移は以下のようになっています。
※厚生労働省の「就労条件総合調査」に基づいたデータであり、前年度繰り越しを除いた計算結果です。
出典:グラフでみる長期労働統計 V 労働時間 図4 年次有給休暇|独立行政法人労働政策研究・研修機構
1980〜90年代は50%台で推移していました。その後下落して2005、07年に46.6%まで下がり、2015年以降は上昇し続け、2022年は58.3%となっています。これを大幅に下回るような有給取得率であった場合は、対策が必要となります。
参考:国際比較調査
エクスペディアがまとめた「世界16地域 有給休暇・国際比較調査 2021」によると、日本の有給休暇取得日数は12日・取得率は60%と、他国と比較してまだまだ低水準であるものの、改善傾向にあります。
2009年からスタートした上記調査において、日本はほぼ毎回最下位であり、他国と比較してかなりの低水準でした。これには、人手不足や周囲への影響、また緊急時のために取得しないという意識が影響していると考えられます。2021年に改善が見られるのは、2019年4月から施行された改正労働基準法で、「年5日の年次有給休暇の取得義務」が定められた影響もあるでしょう。グローバルに求人を出す際には、世界の状況も把握した上で有給取得率の向上を目指すことが重要です。
※この調査は上記の有給取得率と計算方法が違います。
有給取得率の今後
労働政策研究・研修機構のデータは、2019年(2018年1~12月の数値)まではおおむね過去と大差ない有給取得率でしたが、近年改善が見られます。当初政府が目標に掲げた「有給取得率70%」の達成はまだまだ厳しい状況ですが、2019年4月からの「年5日の年次有給休暇の取得義務化」に伴い、数値は上昇していく可能性があります。数値の上昇だけでなく、労働者自身が「取得しやすい」と感じる職場環境へ変わっていくことが望まれます。
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有給休暇取得率の計算方法
有給休暇取得率の計算方法を教えて頂けませんでしょうか?
本日の日経新聞の一面にも「43.7%」という数字がありましたが、
どういう計算式によって算出し、比較すれば良いかが知りたいと思っております。
有...
- 人事担当さん
- 東京都 / 情報サービス・インターネット関連(従業員数 5001~10000人)
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