時短勤務者は育児時間を取得できるか
育児で短時間勤務制度を利用している社員が、1日2回の「育児時間」を取れるのか。不公平感を生まない運用ルールや、現場の混乱を防ぐコミュニケーションのポイントを解説します。

混同しやすい「短時間勤務制度」と「育児時間」の違い
「短時間勤務制度」は育児・介護休業法に基づく制度です。3歳に満たない子を育てる労働者は、原則として1日6時間(5時間45分から6時間まで)に労働時間を短縮できます。
「育児時間」は労働基準法第67条に定められた女性労働者固有の制度です。生後1年に達しない乳児を育てる女性が、1日2回、各30分の休憩時間を取得できます。
育児時間は生理休暇などと同様に「女性労働者」のみに認められた、母性保護を目的とした権利です。育児短時間勤務は男女問わず利用可能ですが、労働基準法上の育児時間は現状、男性には認められていません。この法的背景の違いが、運用の複雑さを生む原因です。
「時短勤務と育児時間の併用」に関する解釈
雇用者は原則として、短時間勤務を利用している社員から育児時間を請求された場合は拒否できません。短時間勤務によって労働時間が短くても、生後1年未満の子を育てる女性から請求があれば、1日2回30分ずつの育児時間を与える必要があります。
例えば、9時から16時までの6時間勤務(休憩1時間)で働く社員が育児時間を請求した場合、さらにそこから合計1時間の育児時間を差し引きます。実労働時間は5時間です。人事担当者は、「時短勤務なのに、働く時間がさらに短くなるのか」と現場から不満が出ることに備え、法的義務を納得感のある形で現場に伝える必要があります。
育児時間における「給与・休憩・回数」の判断基準
育児時間における給与や休憩時間について、三つのポイントを整理します。
育児時間の給与は「無給」が一般的
育児時間中の給与は、法律上「有給」にするとは義務付けられていません。したがって、就業規則に特段の定めがない限り、育児時間として労働しなかった分は、賃金を控除できます。これは、育児短時間勤務による賃金控除と同じ考え方です。
注意が必要なのは「賞与の査定」や「退職金の算定」です。育児時間の取得を理由に、実労働時間以上に不利益な取り扱いをすることは、禁じられています。また、精皆勤手当の計算で欠勤扱いとするなどの社員にとって不利益な取り扱いも、公序良俗に反すると判断されるリスクがあります。
育児時間の「分割・合算」のルール
労働基準法では「1日2回、各少なくとも30分」と定められていますが、「1日1回、1時間にまとめて取得したい」といった要望があがる可能性があります。この場合、「労働者が合意し、かつ1日2回という趣旨を損なわない範囲であれば、まとめて1時間取得することも差し支えない」とされています。
取得のタイミングも自由です。ただし、あくまで「休憩時間」のため、「仕事の合間に授乳やケアを行うための時間」という本来の趣旨を逸脱しないよう、本人と事前に話し合うことが重要です。
労働時間が極端に短い場合の育児時間
現場が迷うのが、「もともとの労働時間が短いパートタイム労働者や、極端に短い時短勤務者の場合でも2回与えるのか」という点です。行政通達では、1日の所定労働時間が4時間以内である場合、1日1回(30分)にすることが許容されています。(基収第8996号・昭和36年1月9日)
1日の労働時間が短いからといって、一律に育児時間を拒否することはできないのが原則です。ただし、あまりに実労働時間が短くなり業務に支障が出る場合は、周囲の納得感を得られる形を模索します。具体的には、育児時間の取得方法(始業・終業時への充当など)を本人と調整することが考えられます。
育児時間の不公平感を払拭する
「あの人だけ早く帰って、さらに休憩も多い」という周囲の不満は、組織の士気を下げ、制度利用者の肩身を狭くします。人事は、制度に基づいた判断だけでなく、現場の感情をマネジメントすることも重要です。
管理職への制度の周知
まず行うべきは、該当社員が所属する部署の管理職に対するレクチャーです。管理職の多くは労働基準法上の「育児時間」を知りません。人事は、以下の3点を管理職に伝えます。
- 育児時間は女性労働者の「法的権利」であり、会社に拒否権はない
- 育児時間と時短勤務との併用は法的に認められている
- 育児時間の取得方法は、業務遂行とのバランスで相談の余地がある
管理職に対し、「法律だから仕方ない」と突き放すのではなく、「制度を正しく運用することが、将来的な離職防止やリスク回避につながる」というポジティブな側面を強調することが大切です。
該当社員との調整
育児時間の利用者本人に対しても、周囲への配慮を促すコミュニケーションが必要です。人事が面談を行う際は、「育児時間の取得は当然の権利ですが、業務の進捗(しんちょく)やチームへの影響を最小限にするために、どの時間帯で取得するのが最適かを一緒に考えましょう」というスタンスで臨みます。
育児時間を取得することで実労働時間が極端に短くなる場合、その分「期待される成果」や「業務範囲」がどう変わるのか(あるいは変わらないのか)がポイントです。上司を含めて三者で合意しておくことが、後のトラブルを防ぎます。
育児時間の就業規則整備と実務
将来的な法的紛争や労基署からの指摘を防ぐための、具体的な事務手続きと就業規則のポイントを確認します。
就業規則への明記と「男性の育児時間」
多くの企業の就業規則には「育児時間」の項目がありますが、形骸化しているケースも少なくありません。あらためて、「育児時間は無給とするのか有給とするのか」「取得の際の申請手続きはどうするか」を明確にします。
また、最近のトレンドとして、労働基準法では女性のみの権利である「育児時間」を、独自の社内制度として、男性にも認める企業が増えています。男性の育児参画を推進する観点から、男性にも「1日2回30分ずつの育児・ケア時間」を認めることは、性別による不公平感を解消し、企業のブランド価値向上にもつながります。
中抜けやテレワークと育児時間
現代の働き方において、育児時間を「授乳」のためだけに使うケースは減っています。保育園への送迎時間や、テレワーク中の家事育児時間として活用したいというニーズに対し、柔軟に対応できる仕組みを整えることも推奨されます。
例えば、育児時間を固定の休憩時間として扱うのではなく、弾力的な「中抜け」として認める場合は、移動時間や家事時間が「労働時間」と混同されないよう、勤怠管理システム上での打刻ルールを徹底します。曖昧な運用は、後に労使間トラブルに発展する可能性があるため、正確な記録が求められます。
まとめ
「時短勤務者が育児時間を取得できるか」という問いへの答えは、「取得できる」です。しかし、人事がすべきことは「取得できる」と答えることではありません。その権利行使が、職場のチームワークを壊さず、かつ本人が安心して働ける環境をどう作るか、という設計図を描くことです。
育児時間という「生後1年間の措置」を、組織全体でどう支えるか。そのための具体的な「ルール(就業規則)」「ツール(勤怠管理)」「対話(面談)」を準備しておくことが重要です。
例:
- 自社の就業規則における「育児時間」の給与取り扱い(有給か無給か)を再確認する
- 育児時間と時短勤務を併用した場合の「標準的な勤務パターン(例:9:30始業〜15:30終業)」をモデルケースとして作成し、管理職に共有する
- 勤怠管理システムで、休憩と育児時間を明確に区別して集計できる設定になっていることを確認する
この記事の監修
米倉 徹雄
KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員
20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。
20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。
人事のQ&Aの関連相談
育休復帰後の勤務時間・休憩時間と時短勤務について
お世話になります。
育児休業から復帰する社員が、「時短勤務」として次のような勤務時間・休憩時間で勤務したいと希望しております:
◆ 本来の勤務 … 9時~18時30分(休憩13時~14時30分)=実...
- ともきパパさん
- 福岡県 / 販売・小売(従業員数 301~500人)
短時間労働者の勤務時間について
ご相談させてください。
社内の短時間労働者からの相談なのですが、最近時代の流れなのか1日の働く時間を自由に決めたいという従業員がおります。
会社としては短時間労働の場合は基本的に始業終業時間と1日の労...
- *****さん
- 山形県 / 繊維製品・アパレル・服飾(従業員数 11~30人)
子の看護等休暇について
いつもお世話になっております。
育児介護休業法が改正されたことにより、入社6ヶ月未満の対象者が撤廃となりましたが、入社日当日から「子の看護等休暇」の取得も可能でしょうか。
別のサイトでは採用日の翌日か...
- *****さん
- 福島県 / 石油・ゴム・ガラス・セメント・セラミック(従業員数 301~500人)
フレックス勤務者の時間有給について
いつもお世話になっております。
10月の育児・介護休業法の改正に伴い、弊社では「養育両立支援休暇」を「有給休暇」として導入しました。
時間単位で取得できますが、始業から連続、または終業まで連続でしか取...
- こいしかわさん
- 長野県 / その他業種(従業員数 51~100人)
- 1
関連する書式・テンプレート
勤務間インターバルの社内周知文
勤務間インターバルを導入する際に、社内に対象者や運用ルールを周知するための文例です。
勤務間インターバルの規定例
勤務間インターバル制度を就業規則に規定するための例です。
勤務シフト表
シフトの時間調整をするための表です。
雇用契約書
雇用契約書のテンプレートです。ダウンロードしてご利用ください。