2019年度に賃上げを実施した企業は80.9%。前年度を1.3ポイント下回る~2019年度「賃上げに関するアンケート」調査:東京商工リサーチ
東京商工リサーチは、2019年度の「賃上げ」実施状況をアンケートで調査した。2019年度の賃上げ実施企業は6,223社(構成比80.9%)だった。また、中小企業で「賃上げをした」割合は大企業を若干下回った。
2019年度に賃上げを実施した企業は80.9%(前年度82.2%)で、前年度を1.3ポイント下回った。賃上げした理由は、中小企業では「従業員引き留め」と半数近く(構成比46.0%)が回答した。最低賃金の上昇に加え、人手不足を背景に賃上げ圧力が強まっている企業が多いことがわかった。
賃上げの内容をみると、「新卒者の初任給の増額」は大企業が25.4%、中小企業が15.6%と大企業が上回っている。賃上げ理由は、大企業の24.0%が「同業他社の賃金動向」を挙げ、体力を残して横にらみで動いているようだ。一方、中小企業は「雇用中の従業員の引き留め」が46.0%と約半数を占め、賃上げが重しになっている。5月、日本商工会議所が最低賃金引き上げ反対を表明し、賃上げによる人材流出の抑制に限界も指摘されているが、中小企業は従業員の雇用継続が課題になっている。
※本調査は2019年5月9日~31日にインターネットでアンケートを実施し、有効回答7,693社を集計、分析した。
※賃上げ実体を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。
■賃上げの割合が微減
賃上げを実施した企業は全体の80.9%だったが、前年度と比較すると1.3ポイント減少した。2019年は政府が賃上げ数値目標を掲げず「官製春闘」の色彩が薄まったことが要因と考えられる。米中の貿易摩擦やイギリスのEU離脱問題など先行きへの懸念もあるなか、賃上げ、特に長期的な費用負担となるベースアップを行うのは負担が大きい。中小企業は、働き方改革の影響が不透明で生産性向上に課題を残し、賃上げに消極的にならざるを得ない側面もあるようだ。
ワーク・ライフ・バランスを考慮し、自由回答では「賃金よりも、残業や休日数、福利厚生を重視している」との記載も多くみられた。また、賃上げしても社会保険料等が増加するため、従業員に「賃上げの実感」が乏しく感じられるとの回答もあった。
■人手不足対応 賃上げ以外にも工夫を
賃上げの実施理由を業種別にみると、回答数100社以上の業種では、人手不足が深刻な運輸業で「雇用中の従業員の引き留め」が6割と他の業種より突出して多かった。
単なる賃上げだけでは、人材流出の抑止力としては一定の効果にとどまる。働き方に対する考え方が多様化するなかで、若年層の従業員の雇用継続には「やりがい」「生きがい」が得られる仕事であること、福利厚生施設や条件を整えてワーク・ライフ・バランスを重視すること、などの新たな施策も必要になっている。
■大企業を中心とした賃上げ努力に期待
賃上げした企業は昨年度より少なかった。実質賃金が低下し、個人消費が伸び悩むなかで、10月には消費増税が控えている。賃上げは、中小企業ほど資金負担が大きく、大企業は賃上げ実施の理由として、「同業他社の賃金動向」が中小企業より6.8ポイント高かった。これは大企業は資金余力を残して対応できるが、中小企業はギリギリで対応している姿を示している。
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社東京商工リサーチ http://www.tsr-net.co.jp/ /7月2日発表・同社プレスリリースより転載)