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【ヨミ】ロウム ホウム

労務・法務

労務・法務とは?

労務とは、企業に雇用されている労働者が安心して働き、報酬を得られるために広く行う事務処理業務のこと。法務とは、企業活動を行う際に求められる法的対応に関連した業務のことです。

掲載日:2018/09/28

1.労務・法務とは

労務・法務の目的

労務は人事と同様、企業に働く労働者の管理を行う業務ですが、その中でも給与計算や勤怠管理などの労務管理、就業規則などの運用、社会保険関係の手続き、労使関係・労働組合への対応、安全・衛生管理、福利厚生などが主な領域となります。労働者が企業で働く上で、必要不可欠な制度・仕組みの運用を担っています。

法務は、企業活動に関連した業務全般に関わる法的対応を担う業務です。企業規模が大きくなるほど、また海外も含めて取引先が増えるほど、業務は多岐にわたることになり、その役割は重要です。法律の遵守と企業の利益の双方を踏まえた判断・対応が求められるからです。そのため、顧問弁護士を設け、法的対応を行うケースが少なくありません。

法務に関する国の行政事務を遂行する機関は法務省です。そして、法務局は法務省の地方支分部局の一つで、法務省の事務のうち、登記・戸籍・国籍・供託・公証・司法書士および土地家屋調査士、人権擁護、法律支援、国の争訟の事務を処理を行っています。

近年の労務・法務の動向

近年、コンプライアンス(法令遵守)の徹底が企業に強く求められています。労務は労働法を中心とした労働条件に対する事項、法務は企業活動全般に関わる事項に関与するわけですが、その中で、人と組織に対する対応が一段と重要性を増しています。

例えば、「サービス残業」「過労死」「名ばかり管理職」「偽装請負」など、労務・法務面での整備・対応をおろそかにし、従業員に対して不利益な取り扱いをしてきた会社は、従業員の告発や報道などをきっかけに社会的な非難を浴びることになります。その結果、会社の存続すら危ぶまれる事態に陥ることも少なくありません。そのためにも、労務・総務的な側面からのコンプライアンス対応を適正に行うことが、今まで以上に求められています。

2.労務・法務の実務

ここからは、労務・法務が担う数多くの業務の中から、重要となる事項にスポットを当て、実務的にどのような対応を取っていけばいいのかを解説します。

労働法に関連する諸法律

【労働法】

企業における労務・法務の業務は、さまざまな法律の規制を受けます。その中で「労働法」とは、「労働基準法」「労働組合法」など、働く労働者の「労働条件」「労働基本権」を守るためのいくつかの法律をまとめて言い表した名称です。いわゆる労働法という名称の法律は存在しません。

【労働契約、労働協約】

「労働契約」とは、労働者が使用者に対して一定の対価を得る代わりに、労務を提供することを約する契約のこと。労働者と使用者の間の一対一の契約で、賃金・労働時間を定めたものです。民法における「雇用契約」がこれに相当します。

「労働協約」は、労働組合と使用者との合意による契約で、賃金・労働時間などの労働条件、労働組合との使用者の権利・義務関係を定めたものです。適用されるのは、労働組合員のみです。この他に、労働関連法規として重要なものは、以下の通りです。

  • 法令
    法令には、労働基準法など国が制定する「法律」、法律の詳しい内容を記した「命令」、法律適用の指針である「通達」、裁判所の判決の積み重ねによってできる「判例」があります。
  • 労使協定
    従業員の過半数を代表する労働組合、あるいは過半数から押された従業員代表との合意で結ぶ協定。代表的なものには時間外労働を定めた「36協定」があります。
  • 労働慣行
    ある習慣が労使関係を規律する事実として承認され、当事者双方が意義を留めることなく、当然として考えているもの。不文律の就業規則ということができます。
  • 就業規則
    使用者が労働組合の意見を聞いて、賃金・労働時間などの労働条件、職場の規律などを定めたものです。

そして、これらの労働関連法規の「効力関係」を示すと、以下のようになります。

法令>労使協定>労働協約>労働慣行>就業規則>労働契約

労働契約についての関連法案でいうと、2012年の派遣法改正で新設された「労働契約申込みみなし制度」があります。派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点で、派遣先が派遣労働者に対して、派遣労働者の派遣会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたものとみなされる制度です。

「労働契約承継法」は、労働者保護の観点から、会社分割に伴う労働契約の承継について、特例を定めるために制定されたものです。また、労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めており、過去の判例の解雇についての判断基準を、法制化しています。

雇用形態が多様化し、労働組合に属さない人も増加したことで、解雇などを巡るトラブルが増えています。このような背景から、政府は労働法制の見直しを進めています。

【労働基準法】

「労働基準法」は、賃金、労働時間、休暇などの労働条件の最低基準を定めた法律です。以下、ポイントとなる施行規則を紹介します。

第一章:総則(労働条件の原則)
労働基準法で規定する労働条件はあくまで最低限の基準であること、使用者は労働条件について差別的な取り扱いをしてはならないなど、基本的な原則を掲げています。

第二章:労働契約(労働基準法違反の契約、労働条件の明示、解雇の予告)
労働基準法をクリアできていない雇用契約は無効となります。使用者は契約に際して、労働条件をはっきりと明示しなくてはなりません。特に賃金については、書面で明示しなければなりません。解雇する時は少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の予告手当を支払わなければなりません。

第三章:賃金(賃金支払いの5原則)
賃金の支払いについて、通貨払い、直接払い、全額払い、毎月払い、定期払いの五つの原則を定めています。

第四章:労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
1日8時間、週40時間の原則、変形労働時間、有給休暇などについて定めていますが、近年、いくつかの改正がなされています。

第六章:年少者
未成年者の採用、満18歳未満の年少者の労働時間について定めています。

第六章の二:女子
女子労働者の労働時間、産前・産後の休暇、育児時間などについて定めています。

第八章:災害補償
労働者が仕事をした上でケガをしたり、病気になったりした場合の補償内容を定めています。

第九章:就業規則
就業規則の作成手続きや、就業規則と労働協約の関係について定めています。

【改正職業安定法】

「職業安定法」は、企業による労働者の募集・職業紹介・労働者供給について規制している法律です。そ直近では「改正職業安定法」が2018年1月1日に施行されました。今回の改正では、労働者の募集や求人申し込みの制度が、以下のように変わりました。

  • ハローワークなどへの求人申し込みをする際や、ホームページなどで労働者の募集を行う場合は、労働契約締結まで労働条件を明示することが必要となります。
  • 労働者の募集や求人申し込みの際に、最低限明示しなければならない条件として、「試用期間」「裁量労働制を採用している場合のみなし労働時間等の記載」「固定残業代を採用している場合の具体的内容の記載」「募集者の氏名または名称」「派遣労働者として雇用する場合の雇用形態の明記」などが追加されました。
  • 労働条件を明示するに当たっては、職業安定法に基づく指針等を遵守することが必要です。
  • 「当初の明示」と異なる内容の労働条件を明示するような場合、変更明示は、求職者が変更内容を適切に理解できるような方法で記述する必要があります。

採用のミスマッチやトラブルが増えてきている近年、今回の改正は、求職と求人の適切かつ円滑なマッチングを進めていくことが求められていることが背景にあります。人事・労務担当としては、法改正が続く昨今、このような労働関連法規の理解が不可欠です。

就業関連

【服務規律】

服務規律」とは、企業活動を進めていく上での秩序を維持するために、従業員が遵守すべき義務やルールを定めたものです。一般的には、就業規則の中に明記されます。その際、服務規律として「服務全般に関する事項」「兼業に関する事項」「競業避止に関する事項」「機密保持に関する事項」「損害賠償に関する事項」などのルール・運用の確認が必要です。また、従業員が服務規律に違反した場合には就業規則違反となり、懲戒処分に値することになります。

【絶対的必要記載事項】

労働基準法によって、就業規則が定める労働条件の中で必ず記載しなくてはならない「絶対的必要記載事項」があります。具体的には、以下の内容です。

  • 始業・終業の時刻(勤務時間)、休憩時間、休日、休暇、交替就業の場合の就業時転換に関する事項
  • 退職など労働契約の終了(任意退職・解雇・定年、休職期間満了等)に関する事項
  • 賃金の決定・締切日・計算及び支払の方法・時期、昇給に関する事項

ボーナス(賞与)や退職金などは、定めるかどうかは自由な「相対的必要記載事項」となります。

【試用期間】

試用期間」とは、企業が人材を採用する時に、社員としての適性を判断するための期間を言います。一般的には、3ヵ月から6ヵ月程度の期間を「試みの期間」(経過措置)として設け、その期間中における対象者の業務の遂行状況(能力不足か十分か)、勤務態度・出勤(欠勤)状況などを見て、本採用の可否を決定します。その際、試用期間の有無や長さ、延長などに関する内容は、会社が自由に定めることができますが、試用期間を設ける場合には、就業規則にそのルールについて、あらかじめ規定しておく必要があります。

【雇用契約書】

「雇用契約書」とは、雇用する側(会社)と雇用される側(個人)の間で、労働条件を明らかにするために交わす契約書のことです。労働基準法第15条によって「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。その他の労働条件とは、「雇用契約期間の有無」「働く場所や仕事内容」「残業の有無」などです。また、雇用契約書は正社員だけではなく、アルバイトを雇用する際にも必要です。雇用契約書は「雇入れに関する重要な書類」に該当しますので、保管期間は3年間となります。

なお、雇用契約書と似たものに、労働契約法の規定に基づいた「労働契約書」があります。労働契約は雇用契約とは同一でありませんが、会社と労働者の関係では雇用契約書とほぼ同じ意味を持つものと考えて問題ありません。

また、労働条件を締結する際に労働者に明示しなくてはならない事項が、労働基準法施行規則などに定められています。その事項をまとめたものが「労働条件通知書」です。労働条件通知書は原則、作成・公布の義務がありますが、内容が他の文書で事足りればそれで問題ありません。

【労働条件変更】

企業側からの一方的な「労働条件変更」(不利益変更)はできません。就業規則を変更する、労働協約を変更する、もしくは個々の労働者との個別の合意を得ることでしか変更できないのが原則です。いずれにしても賃金などの労働条件を変更するには、使用者・労働者双方の合意が必要であり、労働者の合意がない一方的な変更は無効となります(労働基準法第2条)。

なお、労働条件の不利益変更が認められるのは、その変更に合理性があるかどうかです。合理性があれば、変更後の労働条件を適用することができます。そして、合理性があるかどうかの判断は、「労働者が被る不利益の程度」「会社の必要性の内容・程度」「変更内容自体の相当性」「代償措置その他の労働条件の改善状況」「労働組合などとの交渉の経緯」「他の労働組合・従業員の反応」「同種事項に関する社会一般の状況」などから、総合的に下されます。ちなみに、就業規則などの不利益変更の効力が問題となった過去の裁判例を見ると、「変更することに合理的な理由があれば、労働者の承認や同意はいらない」という判断をしている事例が多いようです。

【継続雇用制度】

「継続雇用制度」とは、現在雇用している高年齢者を本人の希望によって、定年後も引き続き雇用する制度。この継続雇用制度には、定年でいったん退職とし新たな雇用契約を結ぶ「再雇用制度」と、定年で退職とせず引き続き雇用する「勤務延長制度」の2種類があります。継続雇用制度が設けられるようになった背景には、「高年齢者雇用安定法」が定めた高年齢者雇用確保措置があります。この措置により、高年齢者が年金支給開始年齢まで働き続けることができるよう、65歳未満の定めをしている会社では、「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」にいずれかの措置を講じなくてはならなくなったからです。なお、継続雇用制度は高年齢者雇用安定法によって、就業規則に規定する旨が定められています。

【離職票】

「離職票」とは、雇用保険の失業給付を受給する時に必要な書類で、退職後10日前後までに退職した会社から発行されます。正式には「雇用保険被保険者離職票」といいます。社員が退職する際、会社はハローワークに「離職証明書」を提出し、その社員の雇用保険の資格喪失の手続きをします。それによって、離職票が交付され、失業手当が支給されることになります。

【人事諸届】

「人事諸届」とは、従業員の入社・退社に関する情報や、住所変更届・通勤経路・家族の異動・氏名の変更・銀行口座の変更など、社内でやり取りが行われる申請書のこと。申請書の内容(通知書・同意書)と、人事データは常に整合が取れていなければなりません。しかし、申請ごとに承認経路や必要事項がさまざまであるため、申請から承認までに時間と手間がかかるケースが多く見られます。また、紙によって提出された場合、繁忙期などには入力作業が後回しになってしまい、期限内に対応できないこともあります。そこで現在は、申請を電子化し、各種の申請業務の効率化・省力化する企業が増えています。

【届出義務】

「届出義務」とは、企業が作成した文書類を、管轄の行政機関に提出しなければならない法的対応のことです。労務・法務で作成する文書類は、就業規則をはじめとして届出義務のあるものが多く、働き方改革が進む中、法改正に伴う迅速な対応が求められています。人事・労務担当者は、常に管轄の行政機関からの情報をチェックし、適切に対応する必要があります。

労使関連

【労働組合】

労働組合(ユニオン)」とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件と維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体」のことです(労働組合法第2条)。そして、労働組合法上の労働組合といえるためには、以下の要件を満たす必要があります。言い換えれば、下記の要件を一つでも欠く場合は法律上、労働組合とは認められません。

  • 団体であること
  • 構成主体が労働者であること
  • 自主性を持つこと
  • 主たる目的が経済的地位向上にあること
  • 使用者の利益代表者が参加しないこと
  • 経費について使用者の援助を受けないこと
  • 労働組合法により定められた事項が規約に記載されていること

しかし、雇用者に占める労働組合員の比率(組織率)は年々減少傾向にあり、2017年6月時点で17.1%と、6年連続で過去最低を更新しています(労働組合基礎調査:厚生労働省)。背景には、正規労働者の減少と非正規労働者の増加が指摘されていますが、若年層の就労観やライフスタイルの変化などもあり、労働組合の社会的使命は終わったのではないかとする見方もあります。

【労使協定】

「労使協定」とは、使用者と「当該事業場の労働者の過半数で組織労働組合がある時はその労働組合」、もしくは「労働組合の過半数で組織する労働組合がない時は労働者の過半数を代表する者」が、労働条件について書面による取り決めをしたものです。労働基準法はその適用範囲が事業場ごとですから、複数の事業場がある場合には、事業場ごとにその事業場に即した協定の締結が必要です。また、特に適用範囲が決められていない場合には、労使協定はその事業場で働く全ての労働者に対して適用されます。

【36協定】

労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間を超えないよう定めています。計算上、年間の法定労働時間の上限は2085時間となります。ただし、「当該事業場の労働者の過半数で組織労働組合がある時はその労働組合」、もしくは中小企業など「労働組合の過半数で組織する労働組合がない時は労働者の過半数を代表する者」との間で書面による協定を結び(労使協定)、これを所轄労働基準監督署に届け出た場合には、その協定で定める範囲内で労働時間を延長し、休日に労働させることができます。なお、法定休日について労働基準法では、曜日の指定や一斉に休むことまでは要求していません。この定めが労働基準法第36条にあるため、「36協定」と呼ばれています。36協定は届け出をもって有効となるため、必ず有効期限の開始までに届け出なければなりません。

もっとも36協定を締結すれば、制限なく残業ができるわけではありません。残業には、限度時間が設けられています。なお、延長限度基準には「建設の事業」「自動車の運転業務」「新技術などの研究開発業務」「季節的要因により業務量の変動が著しい業務等であって指定されたもの」は適用除外とされます。

企業活動においては、その限度時間を超えて時間外労働をしなければならないことがあります。この場合、その残業が臨時的なものであれば「特別条項付き36協定」を結ぶことによって、合法的に残業を行うことができます。

労働時間関連

【長時間労働】

「長時間労働」にはいろいろな定義がありますが、厚生労働省では時間外労働や休日労働が45時間を超えた場合、健康障害のリスクが高くなるとして、事業主や労働者に対して注意喚起を行っています。また2017年1月には、1ヵ月に80時間を超える残業をさせた事業場に行政指導を行っています。このような長時間労働の発生する最大の要因は、過重な時間外労働にあります。本来、時間外労働は36協定で定めた上限時間内に収めなければならなのですが、特別条項付き36協定を結ぶことによって事実上、時間外労働に制限のないことが問題となっています。一方で、労働者側も割増賃金を安定収入として、事前に当てにしているケースも見られます。

しかしながら、長時間労働は残業代という人件費の増加につながります。割増賃金は25%が通常の賃金に上乗せされ、22時を超える労働には深夜残業としてさらに25%が上乗せされ、休日出勤の場合は35%の上乗せが企業に義務付けられます。このように、長時間労働は労働者の心身の問題だけでなく、生産性を向上が求められる企業にとっても良いことではありません。そのためにも長時間労働とならないような仕事の仕方の見直し、業務プロセスの改善、あるいは長時間労働が慢性的な場合には従業員の配置換え(増員)を行うなど、各職場・事業場の状況に応じた対策を早急に講じることが必要です。

【サービス残業】

サービス残業」とは、残業代が支払われない状態で残業すること。労働基準法が定める時間外労働手当を支払わずに、その責任を免れる時間外労働に対する俗称です。そもそも社員にサービス残業をさせること自体が違法行為であり、このような状態を放置するべきではありません。実際問題として、サービス残業は長時間労働を招き、うつなどの精神疾患を発生させる原因ともなり、過労死や過労自殺などにつながるケースも少なくありません。

サービス残業が起こる背景には、いくつかのパターンがあります。まず、使用者・管理職からの有形・無形の圧力によって、労働者に残業の申請を行わせないこと。表面的には労働者が自主的に残って働いているように見せているわけで、まさに「サービス残業」そのものの状態です。また、労働者側も残業の申請をあえてしないで、短い時間で成果・実績を出しているように見せているケースもあります。時間外労働を申請すると、労働生産性が低いと判断され、評価が下がることを恐れているからです。また、15分、30分といった残業時間を切り捨てたり、裁量労働制や事業場外みなし労働制を違法に利用したりするケースも見受けられます。

このようにサービス残業が起きる「温床」の根は深く、問題が表面化しないことが少なくありません。そこで厚生労働省は2017年1月に、サービス残業を規制する「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、ガイドラインに沿った監督指導が強化されることになりました。しかし、家に持ち帰っての「サービス残業」を行う労働者が出てくるなど、抜本的な解決にはなかなか結びついていきません。

雇用関連

【無期転換】

「無期転換」とは、有期労働契約が更新されて通算5年を超えた時は、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールのことです。通算5年のカウントは、2013年4月1日以降に開始した有機労働契約が対象(労働契約法第18条)。対象となる労働者は、原則として契約期間に定めがある「有期労働契約」が同一の会社で通算5年を超える全ての人で、契約社員やパートタイマー、アルバイト、派遣社員などの名称は問いません。申込みは口頭でも有効ですが、後のトラブルを防ぐためにも書面(申込書・受理通知書)で行うことが望ましいでしょう。しかし、無期転換ルールの適用を避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に会社都合で雇止めを行うケースが見られています。これは労働契約法の趣旨(法理)に照らしても、好ましいものではありません。

なお、認定を受けた事業主に雇用される特例の対象労働者(高度専門職と継続雇用の高齢者)については、無期転換ルールに関する特例が適用されます、

また、無期転換ルールが施行されたことで、「第二定年」という言葉が使われるようになりました。第一定年を60歳とし、第二定年を65歳に定めるというものです。労働契約法には、60歳以上の人を除外する規定はなく、60歳以上でも要件が整えば、5年を超えた契約期間から無期転換権が発生するからです。

【雇止め】

「雇止め」とは、契約社員などの有期労働契約者について、契約更新をせずに契約期間満了を理由に、契約を終了させることです。使用者は雇止めの予告後に、労働者が雇止めの「理由証明書」を請求した場合は、遅延なく交付しなくてはなりません。契約期間満了を理由とした雇止めは違法ではありませんが、雇止めの理由が不当な場合は、無効となります。現在、問題となっているのが改正労働契約法での通算5年を超えた場合の「無期転換」ルールでの対応です。2013年4月1日以降に締結された有期雇用から適用され、2018円4月1日以降に実施されました。しかし、一部の企業では通算期間が5年を超える場合に契約更新を拒否する雇止めを行うケースが発生しているなど、労働紛争でも深刻な問題となっています。

兼業・副業関連

【兼業、副業、複業、ダブルワーク】

「兼業」「副業」「複業」「ダブルワーク」には、法律上の定義は特に存在しません。一般的な理解としては、「兼業」は現在、自分が行っている仕事とは別に、その他の仕事に携わることを言います。「副業」も同じような意味に解釈されますが、副業の場合には雇用契約がないのに対し、兼業の場合には雇用契約があるという違いがあります。また、「ダブルワーク」も副業という意味で使われますが、正社員として働いてない人が、掛け持ちでアルバイトをする際に使うケースが多いようです。そして「複業」は、複数の仕事を行っていることを意味します。その際、何が主で何が副かは定かでなく、イメージとしては主となる仕事を複数抱えていることをいいます。

民間企業に勤務する社員の場合、公務員とは異なり、労働基準法や動労契約法上、社員の兼業・副業を禁止・制限する規定は存在しません。原則として自由です。そのため、民間企業に勤務する社員の兼業・副業の禁止・制限には、各企業における就業規則の規定がその根拠となります。昨今、政府が働き方改革として社員の兼業・副業を後押しし、容認する方針を示し始めていますが、これは兼業・副業は原則自由であるという考え方に沿うものといえます。

社員の兼業・副業を解禁した会社では、社員が個人事業主として、在宅で行うケースもあるようです。所得税の源泉徴収や年末調整、確定申告の事務処理など税金面での対応は増えますが、今後、こうした動きは活発化していくと考えられます。

【プロボノ】

プロボノ」とは、日頃仕事にいそしむサラリーマンが、仕事を通して培った能力・スキルを活用して社会貢献するというもの。この点が、同じ無償(営利を目的としない)であっても、職業上のスキルに限らず幅広く労働力を提供するボランティアとの違いです。例えば、ホームページ作成のスキルを持った人が、ボランティアで社会貢献活動団体のホームページを作成するといったことが、プロボノとなります。最近、日本でも注目が集まっている社会貢献の新しい形です。ちなみにプロボノの語源は、ラテン語の「公共善のために(Pro Bono Publico)」という言葉に由来します。

労使紛争関連

【ストライキ】

「ストライキ」とは、労働者が労働条件の維持・改善などの要求を貫徹するために、集団的に労務の提供を拒否する(業務を停止する)こと。労働者による争議行為ですが、日本では近年、耳にすることが少なくなっています。ストライキをする権利は、団結権、団体交渉権とともに、労働者の基本的権利に属するものです。また、労働組合法では、正当な争議行為については犯罪として処罰しない、損害賠償の気味を負わない、不利益取り扱いを受けないなどの保護を労働者に与えています。

【サボタージュ】

「サボタージュ」とは、労働者の争議行為の一つ。労働者が団結して仕事の能率を落とし、使用者に対して損害を与えることによって、紛争の解決を迫ることを指します。ストライキは労働力の提供を一切拒否する行為ですが、それに対してサボタージュはある程度の労働力は提供するという点で異なります。サボタージュの語源はフランス語で、転じて日本では怠けることを「サボる」という言い方がされるようになりました。

【労働争議】

「労働争議」とは、労使間において労働条件の向上などを巡って起こるさまざまな争いのこと。労働関係調査違法6条では、「労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのため争議行為が発生している状態または発生するおそれがある状態」と定めています。労働争議が発生するのは、労使間で団体交渉を行った結果、使用者が労働組合の要求を拒否する場合、あるいは最終的に双方の主張が一致しない場合などが想定されます。

【不当労働行為】

憲法は、労働者の地位を使用者と対等の立場に置くために、「労働者が団結する権利」「団体交渉をする県営」「団体行動をする権利」を保障しています(労働三権)。労働組合法第7条では、この労働三権を具体的に保障するために、使用者が行ってはいけない行為を「不当労働行為」として、禁止しています。これらの行為があったと思われる場合、その行為を正してもらうために、労働者や労働組合は、その行為のあった日から1年以内に労働委員会に対して救済の申し立てを行うことができます。

  • 不利益扱い:労働者が労働組合員であること、組合に加入しようとしたこと、組合を結成しようとしたことなどを理由に解雇したり、不利益な扱いをしたりすること。
  • 団体交渉の拒否:正当な理由なく、団体交渉を拒否すること。
  • 黄犬契約の締結:組合に加入しない、または脱退することを労働条件とすること。
  • 支配介入、経費援助:労働組合を結成し運営することを支配し、介入すること。運営経費の支払いの際、経理上の援助を与えること。
【団体交渉】

「団体交渉」とは、使用者と労働組合の間で、労働条件などを巡って行われる交渉のこと。労働者が個別に使用者と交渉を行うと、労働者が不利になりがちです。そこで、労使の対等な交渉を実現するために、労働組合が主体となって交渉を進める権利(団体交渉権)が、法的に認められています。これは憲法が保障する「労働基本権」の一つで、正当な理由がなく使用者が拒否すると「不当労働行為」となります。このような団体交渉は労働組合の主要な機能であり、団体交渉で合意、決定された事項は労働協約として明記され、その後の労使関係を律するルールとなります。

【労務トラブル】

「労務トラブル」とは、労務管理を巡って起きるさまざまなトラブルことです。トラブルに関する相談内容は、労働時間・休暇や解雇・退職・降格・配置転換など処遇に関するものに限りません。働き方改革やワーク・ライフ・バランスが求められるようになってきたことから、近年では、ハラスメントや職場秩序の問題、メンタルヘルスに関する相談などが増えています。このように、労務トラブルが関係する領域は非常に幅広いものとなっています。そのため、明らかな法令違反はしないことはもちろんのこと、就業規則や雇用契約書などの書類・文書の整備など、トラブルを普段から未然に防ぐための対応が重要になっています。

【ADR】

「ADR」とは、裁判によることなく、法的なトラブルを解決する方法・手段などを総称する言葉。英語では「Alternative Dispute Resolution:裁判に代替する紛争解決手段」と記され、頭文字を取ってADRと呼ばれています。具体的な方法・手段としては「仲裁」「調停」「あっせん」などが挙げられます。仲裁は、当事者の合意(仲裁合意)に基づき、第三者(仲裁人)の判断(仲裁裁判)によって紛争を解決するもの。調停・あっせんは、当事者の間を調停人、あっせん人が中立的な第三者として仲介し、トラブルの解決についての合意ができるよう、話し合いや交渉を促進し、利害を調整するというものです。ADRのメリットは、費用が少なくて済む、非公開のためにプライバシーや社内情報などが外部に漏れるリスクを回避できる、訴訟と比べて時間がかからない、手続きが裁判のように繁雑でない、当事者の都合に合わせて日時を決めることができるなど、柔軟に対応できる点が挙げられます。

社会保険労務士

社会保険労務士」は、「社会保険労務士法」に基づいた国家資格です。社会保険労務士が行う業務は、以下に示したような企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関するさまざまな問題」や「年金の相談」など、幅広い領域に及んでいます。試験の受験者は毎年4万人前後で、合格率は5~10%程度と、難易度は高くなっています。資格取得後、独立して事務所を開業し、年収アップする人も少なくありません。

  • 労働・社会保険手続き業務:労働・社会保険の業務を代行し、経営者・人事労務担当者の諸手続きにかかる時間と人件費を大幅に削減します。
  • 労務管理の相談指導業務:良好な労使関係を維持するための就業規則の作成、見直しの手伝いを行います。また、賃金制度の構築に関するコンサル・アドバイスなど、人事・労務管理の専門家の目でキメ細かなサポートを行います。
  • 年金相談業務:複雑な年金制度の運用に関して、ワンストップのサービスを提供します。
  • 紛争解決手続き代理業務:ADR(裁判に代替する紛争解決手段)によるあっせん申し立てに関する相談・手続きを行います。

また、労務管理を専門に扱う労務管理士という民間の資格もあります。社会保険労務士の業務の一部を担うもので、企業内における人事・労務の分野での相談・指導の役割を担います。社会保険労務士と比べて、試験の難易度はそれほど高くありません。独学でも十分勉強が可能です。

3.労務・法務に関する法律

労務・法務関連法律(目的・内容・ポイント)

労働者は、さまざまな法律によって保護を受けています。代表的なものでは、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法、労働契約法などがありますが、これらをまとめて労働法と呼びます。ではなぜ、このような法律ができたのでしょうか。それは、会社と社員の話し合いで全ての労働条件を決めると、どうしても発言力の弱い社員に不利な条件となってしまうからです。そこで法律により、力の弱い労働者を保護し、人としての生活ができるようにするため、労働法が作られたのです。

【労働法の歴史(主要なもの)】
  • 1911年:工場法(年少者・女工の保護)
  • 1946年:日本国憲法
  • 1947年:労働基準法、労働者災害補償保険法
  • 1959年:最低賃金法
  • 1972年:労働安全衛生法
  • 1974年:雇用保険法
  • 1985年:男女雇用機会均等法
  • 1987年:労働基準法改正(週40時間労働制が原則となる)
  • 1991年:育児休業法
  • 1993年:パートタイム労働法
  • 2001年:個別労働関係紛争解決促進法
  • 2004年:労働基準法改正(解雇、雇止めに関する基準)
  • 2004年:労働審判法
  • 2007年:労働契約法
  • 2010年:労働基準法改正(長時間労働の抑制)

4.労務・法務の見通し・課題

現状の労務・法務の課題

法令遵守が強く求められる現在、それを怠ったり、問題があっても放置したりすると、将来的にさまざまな面での影響(リスク)が生じます。具体的には、「費用発生リスク」「訴訟リスク」「行政処分リスク」「風評被害リスク」です。

  • 費用発生リスク:サービス残業の支払い、是正勧告によるさかのぼり支給 など
  • 訴訟リスク:セクハラ・パワハラ訴訟、過労死事件 など
  • 行政処分リスク:業務停止命令、免許取り消し処分 など
  • 風評被害リスク:マスメディアでの報道、ネットへの書き込み など

こうしたことが起きると、その事実はただちに広まり、ドミノ倒しのように連鎖となって、採用や人材の定着、社内モラールなどに大きな影響を与えます。労務・法務でのトラブルは、企業の将来を左右しかねないことを強く意識するべきです。

今後の見通し

法令遵守ができなかったことによるリスクには、多くの場合、人事部や総務部が対応しますが、抜本的な解決策を考えた場合、経営課題として取り組むことが必要です。その理由は、社内部門では「時間外手当が未払いになっている」「36協定に抵触する長時間労働となっている」といった事実を経営に直接報告しづらく、放置されてしまうケースがあるからです。そのため、経営陣が率先してこれらのリスクを解消できるように働きかける、もしくは経営陣に中立的な立場で意見具申が可能な内部監査室を置き、労務監査を実施するなどの措置を講じて、リスクのドミノ倒しが展開しないような体制を構築する、といった対応がこれからは必要です。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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