未払い残業代
未払い残業代とは?
従業員が法定労働時間を超えて働いたにもかかわらず、会社から労働基準法で定められた時間外割増賃金が支払われない場合、この賃金債権を「未払い残業代」と呼びます。現在の民法の規定では、賃金債権の時効は2年。したがって労働者は最大で過去2年分までさかのぼって、未払い残業代を請求することができます。
監督指導で支払われた残業代は計116億円
みなし労働時間制でも「未払い」の判決が
多額の未払い残業代の支払いによって、企業経営が圧迫されるリスクが増大しています。近年はとくに退職者同士が結束して、元の勤務先を労働基準監督署に訴えたり、労働審判や訴訟など直接的な形で請求を起こしたりする動きが目立っています。
今秋、厚生労働省が発表した平成21年度「賃金不払残業(サービス残業)是正の結果まとめ」によると、全国の労働基準監督署が2009年4月から翌年3月までの1年間に、残業代が未払いになっているとして労基法違反で是正勧告した事案のうち、勧告に応じて100万円以上の残業代を支払った企業は合計で1,221社、支払われた残業代の総額は約116憶円にのぼりました。長引く不況の影響で残業そのものが減少したせいか、是正企業数は前年比で332社少なく、支払われた残業代の総額も約80億円のマイナスになっています。それでも支払い額のワースト3は、12憶4,206万円(飲食業)、11億561万円(銀行・信託業)、5億3,913万円(病院)といずれも巨額でした。
今年4月以降は改正労基法の施行により、月60時間を超えた分の時間外手当の割増率が加算されるため、今後、請求額がますます高額化する可能性があります。未払い残業代という負債によってつぶれたり、傾いたりする企業が出てきても不思議ではありません。
こうした動きが広がった背景にはいくつかの要因があります。ひとつは、終身雇用制の崩壊に伴う社員の会社に対する意識の変化です。転職が珍しくないいま、愛社精神や帰属意識が薄れ、勤務先と事をかまえることに抵抗がない人が増えています。残業代の支払い請求が認められることが、広く一般に知られるようになった影響も大きいでしょう。その契機となったのが、08年に表面化した「名ばかり管理職」の問題です。さらには一部の弁護士や司法書士などが、新たなビジネスチャンスとして未払い残業代の請求に着目し、請求を促す広告を出したり、インターネット上で専門サイトを立ち上げたりしていることも要因の一つとして見逃せません。
もちろん労働基準監督署の是正勧告を受ける企業側にも、労働法規に関する認識不足、社員の労働時間管理が厳密に行われていないなど、問題があるのは明らかです。今年5月には、旅行会社の派遣添乗員が勤務先に未払い残業代の支払いを求めて起こした裁判で、同社に未払い残業代など併せて約112万円の支払い命令が下されました。同社は、添乗員の労働時間が把握しにくいとして、何時間働いても一定の給料しか支払わない「事業場外みなし労働時間制」を採用していましたが、裁判では「日報や携帯電話などで労働時間を把握することは可能」と判断されました。「基本給に残業代を含んでいる」「年俸制を採用していて、残業代込みの賃金を支給している」といった主張も、裁判や監督署の指導では残業代の不払いと判断される傾向が強いようです。未払い残業代の問題は、日本企業に共通する甘い労務管理体制の一端を浮き彫りにしているともいえるでしょう。
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