自爆営業
自爆営業とは?
「自爆営業」とは、営業ノルマを達成するために、従業員が金銭を負担して自社商品やサービスを購入、契約する行為のこと。一見、個人の意思で行われているように見えますが、ほとんどのケースで、その背景には過酷なノルマやパワハラ的な圧力、達成できない場合のペナルティへの恐怖が存在します。労働基準法違反や企業の社会的信用失墜に直結する重大なコンプライアンス違反であり、早急な是正が求められます。
「自ら買う」はなぜ起きるのか
法的問題と組織リスクの深層
「自爆営業」という言葉が広く知られるようになったのは、郵便局における年賀はがきの販売ノルマや、コンビニエンスストアでのクリスマスケーキ、恵方巻といった季節商品の大量発注問題がきっかけでした。販売ノルマを達成できなかった従業員が、上司からの叱責を避けるため、あるいは給与や賞与への悪影響を防ぐために、必要のない商品を大量に買い取る。こうした行為は、小売業や保険業界、不動産業界などで長らく「必要悪」あるいは「暗黙の了解」として横行してきました。近年ではコンプライアンス意識の高まりとともに、企業の存続を揺るがす重大なリスクとして認識されています。
なぜ、従業員は自腹を切ってまで会社の売上に貢献しようとするのでしょうか。その背景には、過度な成果主義と閉鎖的な組織風土があります。「目標未達は悪である」という強烈なプレッシャーの中で、従業員は「数万円の出費で上司からのパワハラや叱責を回避できるなら安いものだ」という倒錯した心理状態に陥ります。また、周囲も自爆営業を行っている場合、「自分だけやらないわけにはいかない」という同調圧力が働き、正常な判断力を奪ってしまうのです。表向きは「従業員が自発的に購入した」という形を取ることが多いため、企業側が実態を把握しにくい、あるいは見て見ぬふりをしやすい、という構造的な問題も潜んでいます。
自爆営業の強要は民法や労働関係法令に抵触するリスクがあります。たとえば、会社が商品の購入を強制し、その代金を給与から天引きすることは、労働基準法第24条に違反する可能性があります。
【参考】労働者に対する商品の買取り強要等の労働関係法令上の問題点|厚生労働省
自爆営業がもたらす弊害は、法的なリスクにとどまりません。経営的な視点で見れば、自爆営業によって作られた売上は市場の真の需要を反映していないため、商品の人気や競争力を見誤り、経営判断に狂いが生じます。また、従業員の金銭的・精神的負担はエンゲージメントを著しく低下させ、離職率の増加を招きかねません。SNSが普及した現代では、内部告発によって「ブラック企業」というレッテルが瞬時に拡散され、採用活動やブランドイメージに深刻なダメージを与えるレピュテーションリスクも無視できません。
人事担当者に求められるのは、実態調査と評価制度の適正化です。匿名のアンケートや相談窓口を通じて現場の声を吸い上げ、自爆営業の芽を摘む必要があります。結果だけの数字を追うのではなく、プロセスや行動を評価する仕組みを整えることも重要です。ノルマ未達を個人の責任のみに帰結させず、組織として販売戦略を見直す姿勢を示す。そして、「自爆営業は会社への貢献ではなく、不正行為である」というメッセージを発信し続けることが、健全な組織風土を取り戻す第一歩となるでしょう。
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