労災隠し
労災隠しとは?
労災隠しとは、業務中に発生した労働災害(労災)の事実を意図的に隠ぺいし、労働基準監督署への「労働者死傷病報告」を怠る、または虚偽の内容で報告する行為。労働安全衛生法に違反する犯罪であり、決して許されるものではありません。労災保険料の増加や企業イメージの低下を恐れて行われるケースがありますが、発覚した際には法的な罰則はもちろん、社会的信用の失墜や公共事業からの排除など、深刻なダメージを企業にもたらします。
労災隠しがもたらす罰則
企業の信頼を揺るがす重大なリスクとは
労働災害が発生した際、事業者は労働安全衛生法および同法施行規則に基づき、被災した労働者の休業日数に応じて、所轄の労働基準監督署長へ「労働者死傷病報告」を遅滞なく提出する法的義務を負っています。「労災隠し」はこの義務を意図的に果たさない、極めて悪質なコンプライアンス違反です。その背景には、「元請会社に知られたくない」「保険料が上がるのを避けたい」「手続きが面倒」「予防措置を怠っていたことを知られたくない」といった動機があります。
労災隠しが発覚した場合、企業は以下のような多岐にわたるリスクに直面します。
一つ目のリスクは、法的な罰則。労災隠しは、労働安全衛生法第100条(報告義務)に違反する行為であり、同法第120条に基づき「50万円以下の罰金」が科せられます。この罰則は、法人だけでなく、代表者や現場の責任者といった個人も対象となる可能性があります。単なる行政指導ではなく、刑事罰として扱われます。
二つ目のリスクは、社会的な信用の失墜。罰金以上に、企業のレピュテーション(評判)に与えられるダメージは深刻です。「労災隠しをする会社=ブラック企業」という烙印(らくいん)を押され、社会的信用は大きく損なわれます。一度失った信用を回復することは困難であり、顧客や取引先からの信頼を失い、事業の継続自体が危ぶまれる事態に発展しかねません。
三つ目のリスクは、人材確保・定着への悪影響。評判の低下は、採用活動に打撃を与えます。特に近年は、求職者が企業のコンプライアンスへの意識や働き方の実態を厳しくチェックする傾向にあり、労災隠しが発覚した企業は優秀な人材から敬遠されます。また、既存社員の士気やエンゲージメントが著しく低下し、離職率の増加につながる可能性もあります。
四つ目のリスクは、事業機会の喪失。特に建設業などでは、労災隠しに対して厳しいペナルティーが課されます。公共事業の入札参加資格を一定期間停止される(指名停止処分)など、事業の根幹を揺るがす事態につながる危険性もあります。
五つ目のリスクは、重大災害の誘発。労災隠しによって、本来行われるべき原因究明と再発防止策を講じる機会が失われます。その結果、職場の危険性が放置され、さらに重大な労働災害を引き起こすリスクを高めることもあります。従業員の安全を脅かすだけでなく、企業にさらなる経営的・社会的責任をもたらす負のスパイラルを生み出してしまうのです。
労働者にとっても、労災隠しは適切な治療や休業・障害補償を受ける権利を奪う深刻な人権侵害です。企業は、いかなる理由があっても労災隠しを行ってはなりません。重要なのは、経営層が「安全はすべてに優先する」という強いリーダーシップを発揮すること。コンプライアンスを遵守する組織風土を構築し、労災発生時に適正な手続きを行うことが、企業と従業員双方を守る唯一の道なのです。
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