賃上げ促進税制
賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制は、人材育成や給与などの引き上げを行う企業に対して税額控除のメリットを提供する制度です。その狙いは給与などの引き上げ促進によって労働環境を改善し、雇用の質を向上させることにあります。令和6年度(2024年度)からは大幅に拡充され、より多くの企業が恩恵を受けられることになります。企業がこの制度を利用するためには、自社が適用対象となることを把握し、適切な準備を行う必要があります。
賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制は、法人や個人事業主が従業員の給与などを一定割合以上引き上げた場合、その増加分の一部を税額から控除できる制度です。2024年度からはこの制度が大きく拡充され、控除率が増加するとともに、企業の区分も「大企業」「中堅企業(新設)」「中小企業」の三つに細分化されました。
- 大企業向け:最大控除率は35%(以前は30%)
- 中堅企業向け(新設):最大控除率は35%
- 中小企業向け:最大控除率は45%(以前は40%)
企業の規模に応じて異なる控除率が適用されますが、どの区分に該当するかは資本金の額や従業員数によって決まります。
企業区分の要件
- 大企業(全企業向け):青色申告書を提出するすべての法人または個人事業主
- 中堅企業:青色申告書を提出する法人または個人事業主で、従業員数が2,000人以下
- 中小企業:青色申告書を提出する中小企業者等または従業員数が1,000人以下の個人事業主
改正後の賃上げ促進税制は、2024年4月1日以降に開始する事業年度から適用されます。適用期限は、2027年3月31日までに開始する各事業年度です。個人事業主については、2025年から2027年までの各年が対象となります。
対象企業
賃上げ促進税制の対象となるのは、賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業です。対象となる企業の条件には、「必須要件」と「上乗せ要件」があります。必須要件とは、従業員に対する一定割合以上の給与などの引き上げを指すものです。必須要件を達成することで、まずは基準となる税額控除率を適用できます。
必須要件
- 大企業:継続雇用者に対する給与等支給額の増加率が前年度比で3%〜7%以上
- 中堅企業:継続雇用者に対する給与等支給額の増加率が前年度比で3%〜4%以上
- 中小企業:継続雇用者に対する給与等支給額の増加率が前年度比で1.5%〜2.5%以上
※継続雇用者……前事業年度と適用事業年度におけるすべての月において、給与などの支払いを受けた国内雇用者のこと
給与などに含まれる要素として、毎月の給与や賞与、残業手当、休日出勤手当などが挙げられます。退職金といった通常給与所得に含まれない支払いは、原則として給与などとはみなされません。
上乗せ要件
上乗せ要件では、人材育成、女性躍進や子育て支援に積極的である企業の場合、さらに高い税額控除率を適用できます。
教育訓練費の要件
- 大企業・中堅企業
- 教育訓練費が前年度比で10%以上増加していること
- 適用事業年度の教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること
- 中小企業
- 教育訓練費が前年度比で5%以上増加していること
- 適用事業年度の教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること
※適用事業年度……税額控除を受けたい事業年度
教育訓練費には、研修を実施するために支払った外部講師への費用や会議室の使用料、または従業員がセミナーなどを受けるための参加費用などが含まれます。ガイドブックでは、教育訓練費に含まない費用も公開しています。たとえば、自社の社員を講師にして支払った人件費は教育訓練費に含みません。
女性躍進・子育て両立支援
女性躍進・子育て両立支援の要件では、「プラチナくるみん認定」または「プラチナえるぼし認定」を取得していることが設定されています。
くるみん認定とは、 子育てをサポートしている企業に与えられる認定で、「トライくるみん」「くるみん」、さらに上位の「プラチナくるみん」の三つの段階があります。認定を受けるには、子育て支援のための行動計画を作成し、実行する必要があり、その後都道府県に申請します。
えるぼし認定とは、女性が活躍できる環境づくりに積極的な企業に与えられる認定です。「えるぼし」には1段階目から3段階目まであり、さらに上位の「プラチナえるぼし」もあります。認定基準には、女性の管理職比率や労働時間など、複数の条件が含まれます。
- 大企業:プラチナくるみん、もしくはプラチナえるぼしの取得で税額控除率を5%上乗せ
- 中堅企業: プラチナくるみん、もしくはえるぼし3段階目以上を取得で税額控除率を5%上乗せ
- 中小企業:くるみん、プラチナくるみん、もしくはえるぼし2段階目以上を取得で税額控除率を5%上乗せ
どんな優遇を受けられるのか
賃上げ促進税制により、企業は増額した給与などに応じた税額控除を受けられます。税額控除額は、企業が支払う法人税、もしくは個人事業主が支払う所得税から直接控除できます。
中小企業の区分では、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった税額控除額がある場合、向こう5年間にわたって繰り越し、各年度において発生した税額から控除できます。賃上げや教育研修への投資、各種支援整備にはコストがかかりますが、賃上げ促進税制を活用することで、企業や事業主の税負担を減らしつつ、労働環境の整備に取り組むことが可能になるのです。
企業区分と賃上げ率、上乗せ要件に応じた控除率は以下の通りです。なお、いずれの区分においても、税額控除額の上限は法人税額または所得税額の20%となります。
大企業
- 賃上げ率
- 3%以上 → 税額控除率 10%
- 4%以上 → 税額控除率 15%
- 5%以上 → 税額控除率 20%
- 7%以上 → 税額控除率 25%
- 上乗せ要件
- 教育訓練費が10%以上増加など → 税額控除率5%上乗せ
- 子育て両立支援や女性活躍支援 → 税額控除率5%上乗せ
中堅企業
- 賃上げ率
- 3%以上 → 税額控除率 10%
- 4%以上 → 税額控除率 25%
- 上乗せ要件
- 教育訓練費が10%以上増加など → 税額控除率5%上乗せ
- 子育て両立支援や女性活躍支援 → 税額控除率5%上乗せ
中小企業
- 賃上げ率
- 1.5%以上 → 税額控除率 15%
- 2.5%以上 → 税額控除率 30%
- 上乗せ要件
- 教育訓練費が5%以上増加など → 税額控除率10%上乗せ
- 子育て両立支援や女性活躍支援 → 税額控除率5%上乗せ
※中小企業の場合、賃上げを行った年度に控除しきれない額は、5年間の繰り越しが可能。
必要な手続き
賃上げ促進税制を利用するには、確定申告時に必要な手続きを行います。事前の申請は不要で、確定申告書類に必要な書類を添付します。
確定申告時に書類を添付する
法人の場合には法人税、個人事業主の場合は所得税の申告時に、次の書類を添付する必要があります。
- 税額控除の対象となる給与等支給増加額の明細書
- 控除を受ける金額とその計算に関する明細書:どのくらいの金額を控除するか、その計算方法を記載した書類。
- 適用額明細書(法人の場合のみ):法人が適用する特別措置の条項や適用額などを示すための書類。(個人事業主の場合は不要)
翌年度以降に控除を繰り越す場合
控除しきれない金額(未控除額)を翌年度に繰り越す場合は、以下の書類を追加で用意する必要があります。
- 繰越税額控除限度超過額の明細書:翌年度に繰り越す控除額に関する明細書です。繰越期間が複数年度にわたる場合は、明細書も継続して添付し続ける必要があります。
教育訓練費の上乗せ要件を適用する場合
以下の書類を作成して保存しておく必要があります。
- 教育訓練などの実施内容や証明書類:教育訓練の実施時期、内容、期間、受講者、支払証明などを記載した書類
マルチステークホルダー方針の提出
適用事業年度終了時点で「資本金または出資金が10億円以上かつ常時使用する従業員数が1,000人以上の法人」または「常時使用する従業員数が2,000人超の法人」のいずれかに当てはまる場合は、マルチステークホルダー方針の提出が必要です。
この方針は、企業が賃上げを進める際、必然的に商品やサービスへの価格転嫁が必要なため、従業員や取引先など、企業と関わるさまざまな利害関係者と、適切な関係を構築することを目的としています。また、賃上げが企業の一時的な措置ではなく、持続的な企業経営の方針に基づくものであることを示すためにも、マルチステークホルダー方針の提出が必要とされます。
特に中小企業が賃上げに伴う価格転嫁を行う場合、大企業としては価格協議に応じるなどの姿勢が望まれることから、この方針の提出と公表が必要とされています。
必要な手続き
- パートナーシップ構築宣言のポータルサイトへの掲載
- 方針の公表:経済産業省が公開する様式を用いて、自社ウェブサイトなどで公表を行う
- 「gBiz IDプライム」のアカウント取得
- 方針を公表した旨のGビズフォームに置ける届出
Gビズフォームにアップロードしたファイルは、受理通知書の原本となるため、確定申告の際にその写しを提出します。
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