CHRO
CHROとは?
「CHRO」は日本語で最高人事責任者と訳されます。人事に関する一切の責任を負う立場であり、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)などとともに、経営幹部の一員として事業運営に携わります。これまでCHROは外資系企業を中心に配置されてきましたが、最近では日本でも役割が重視され、CHROを登用する企業が増えています。
1. CHROとは
CHRO(シー・エイチ・アール・オー)とは、Chief Human Resource Officerの略で最高人事責任者のことです。経営幹部として経営に携わる権限を有するとともに、人事関連業務を統括する総責任者の役割を持ちます。
CHROの例
中畑英信氏|日立製作所 代表執行役 執行役専務 CHRO 人財統括本部長 コーポレートコミュニケーション責任者
中畑氏は、事業戦略の変革に合わせて人事制度を構築してきた、日本を代表するCHROの一人です。日立製作所の事業転換を実現すべく、人事の仕組みを作り変えてきた実績が多くの人事パーソンに評価されています。「HRアワード2022」では、人事制度や組織、雇用などさまざまな面での改革を同時に実行し、大企業のグローバル人財戦略を推し進めたことが評価され、企業人事部門 最優秀個人賞を受賞しました。
同社では、多様な人材を生かすための体制を構築しました。具体的には、グローバル化と社会イノベーション事業というビジネスモデルの変革に合わせて、CHROはダイバーシティ&インクルージョンの推進や柔軟な働き方の導入に取り組みました。
中畑氏は、体制構築を進めるために現場とのコミュニケーションに注力。制度改革にあたって、人財部門や現場からの反対を受けることも少なくありませんでした。中畑氏は、国内の事業所や海外の拠点も含めて、年間で35回、2000人以上のHRスタッフと対話を行いました。
平松 浩樹氏|富士通株式会社 執行役員 EVP CHRO
平松氏は、富士通において人事の責任者として、経営幹部と共に同社の人事戦略を作り上げたCHROです。「HRアワード2023」では、企業人事部門 最優秀個人賞を受賞しています。
同社では、ジョブ型人材マネジメントへの移行をきっかけに、人事が経営戦略に関与する変革が生まれました。平松氏は、CHROとして経営幹部と信頼関係を構築。チームとして人事戦略の立案・実行に取り組みました。具体的には、現状とのギャップを埋める必要な人財を得るために、戦略を決めてあるべき組織を設計し、育成や採用でそのギャップを埋めていくという「上から下」のやり方に注力。人材マネジメントの権限の大部分を人事から本部に委譲するとともに、各本部にビジネスパートナーの役割を果たす人事(HRBP)をアサインしました。
CHROは「CxO」の一つ
CxOとはChief x Officerのことで、「最高x責任者」という日本語訳になります。CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)などと同じく、その分野における総責任者という位置付けです。
CHROは企業の人事に関する最も大きな権限を持つ役職であり、他の最高責任者と同様に、経営視点を踏まえて人事戦略に取り組みます。
経営の視点と人事の視点を持つ
CHROは経営幹部の一員として、経営視点と人事プロフェッショナルの視点の両方から人事戦略の策定を行います。事業価値を高める人材の登用や手法、評価制度の確立など、経営へのメリット・デメリット、リスクを相対的に捉えて実行に移します。
また、現場の状況や意見を経営に反映させていくことも求められます。CEOと意見が対立した場合でも、経営幹部としてより良い方法を模索する姿勢が望まれます。
経営幹部として人事や社員教育の責任を担う
CHROは、企業理念やビジョンに照らし合わせた組織体制の構築や人材育成に努める責任があります。経営戦略を実現するためにはどのような組織体制で臨むべきか、どのような人物要件が求められるかといった組織づくりや、企業の成長につながる人事制度のあり方、適材適所の配属、人材育成の方法など、あらゆる取り組みを行います。また、人件費や生産性といった人事に関連するコストの責任も担います。
CHRO・CHOと人事部長に違いはあるか
CHROの大きな特徴として、「経営幹部としての機能を持っているかどうか」という点があげられます。たとえば、前述した富士通の平松氏は、人事戦略は経営戦略の策定後に決定するものではなく、経営戦略を策定する中で社長や経営幹部らとともにつくり上げていくものだと述べています。このように、CHROは社長や経営幹部の下につくのではなく、経営陣と一つのチームとして機能しています。
ただし、人事部長だからといって、経営戦略に能動的に関与しないわけではありません。たとえばドミノ・ピザ・ジャパンの影山光博氏は、HR部の部長という肩書ですが、機能としてはCHROと重なる部分があります。影山氏は経営陣と2年以上にわたって議論し、ビジョンやパーパスを人事戦略に落とし込んで、「OKR」の導入を中心としたさまざまな施策を実施しました。
日本企業で多く配置されている人事部長という役職は、人事部門における責任者として、経営陣と議論しながら人事戦略を立案し、実行する役割であることが少なくありません。その点からみれば、CHROも人事部長も同様の役職と考えられることもあります。
CHROとCHOは同義
CHROと似た名称で「CHO」が使われることもあります。CHOは以下の頭文字を取った略語です。
- Chief Human resource Officer
- Chief Human Officer
- Chief Human capital Officer
従って、CHOはCHROと同義であり、経営責任を負う最高人事責任者のことをいいます。
ただし、企業によっては「CHO」が「Chief Health Officer」(健康管理最高責任者)や「Chief Happiness Officer」(幸福最高責任者)などを意味する場合もあるので、注意が必要です。
- 【参考】
- 日本を代表するCHROが未来のCHROを養成:日本の人事部「CHRO」養成塾
- 日本の人事部|CHO(Chief Happiness Officer)とは
- 日本の人事部|CHO(Chief Health Officer/健康管理最高責任者)とは
- ドミノ・ピザ ジャパンの「慣習を打ちこわす」人事施策|『日本の人事部』
CHROが必要とされている背景
現在の日本の企業において、なぜCHROの必要性が高まっているのでしょうか。理由は大きく二つあります。
労働力人口減少により人材の質・量の確保が難しくなっている
日本は少子高齢化社会です。そのため、働き手の数が年々少なくなってくることが予想されます。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」では、生産年齢(15〜64歳)の人口が2029年には7,000万人を割るとしています。その後、2040年には6,000万人、2065年には4,529万人まで落ち込むという試算がなされています。
このデータからもわかる通り、人材獲得は年々難しくなることが想定されます。自社に合った人材を採用するには、採用計画を含めた人事戦略をより精度の高いものにしていく必要があると同時に、労働力人口の減少を踏まえた経営戦略の見直しと再構築が求められます。また、既存の従業員の生産性を向上させる必要性があるほか、社会の変化やグローバル化に対応できる人材育成という観点も重要になります。
これらの課題に対し、従来型である経営層の指示を待つ人事部門という組織体制では、対応が追いつきません。こうした現状から、経営視点と人事視点の双方から判断し、精度の高い戦略策定、スピード感ある実行を実現するCHROの存在が求められているのです。
時代の変化に対応できる組織が求められている
CHROが必要とされるもう一つの理由は、時代の変化に対応できる組織づくりが求められているからです。最近は、新型コロナウイルスの影響を受け、急きょリモートワークを導入したり、時差通勤を採用したりする企業が多く見られました。このような社会情勢にスピーディーに対応するには経営層の迅速な意思決定が必要であり、現場の混乱を最小限にする実行フェーズでの判断力も要します。
例えば、リモートワークでボトルネックになりがちな勤怠管理やペーパーレス化、電子契約、承認フローのシステム化などは今後も加速することが予想されます。政府では「押印についてのQ&A」を発表し、電子印鑑の推奨や印鑑の不要化を勧めるなどの取り組みも行っています。
こうした働き方や業務フローの改善には、現場の意見を収集しながら経営層との間を取り持つCHROの存在が不可欠です。今後も予測できないような事態が起きる可能性はゼロではありません。現場と経営層との乖離を防ぎ、組織改革を柔軟かつスピーディーに推し進めることがCHROに求められています。
2. CHROの具体的な役割
ここからは、CHROの役割についてより具体的に説明していきます。
経営戦略に基づいた人事戦略の策定・実行
CHROは、経営戦略に基づき人事戦略を決定します。具体的には、どのような人材が必要かを明確にし、適切に配置、育成、評価することで、組織全体が目標に向かって効率的に動く体制を整える役割を担います。経営陣とチームとなり、人事戦略を構築します。
またCHROは、人事戦略の成功にむけて、経営陣・従業員の双方と信頼関係を構築する必要があります。たとえば経営陣のメッセージを人事制度に落とし込み、会社の考えを現場に伝わりやすくするのは、CHROの役割の一例です。一方で、従業員の声を経営に反映させる役割も担います。CHROは経営陣と事業部門の架け橋となり、一貫性を持って人事制度をブラッシュアップできる存在です。
従業員の育成
CHROの役割として、中長期的な人材育成の仕組みを整備することが挙げられます。その一例として、日立製作所の中畑氏が実施している「Future50」があります。同社のプログラムでは、10年スパンの中期経営計画に合わせ、グローバルに活躍できる経営人材候補を育成するという狙いがあります。次世代の経営人材に、事業部長やCEOなど経営に近いポジションを経験させ、未来のリーダーを育成しています。シニアマネジメントレベルが求められる現場で経験を積むことで、リーダーに求められる洞察力や戦略性、多様性への適応力などを培っています。
経営戦略と人事評価の連携
CHROは、経営戦略を実現するため、人事評価制度の設計・改善・改革において重要な役割を果たします。評価制度は従業員の報酬を左右するため、従業員がとる行動にも大きな影響を与えます。評価制度を経営者に近い立場から決めることは、CHROの最も重要な役割の一つです。
経営戦略と評価制度を連携させた例として、メルカリCHRO(当時)の木下 達夫氏の取り組みが挙げられます。同社では、日本のみならずグローバルに愛されるサービスを実現するため、多様性を重視した人事評価制度を構築しました。具体的には、人事制度の評価軸を「成果評価」と「行動評価」の二つに刷新。問題となっていた属人的な評価を改めました。また、企業のミッションやビジョンに基づく「バリューの発揮」を評価の中心におき、「ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)」を新グレードの体系に加えました。こうした人事評価制度には、多様なバックグラウンドを持つ人材が職場で活躍できるようにという、経営者の方針が反映されています。
現場の状況を経営に反映
CHROには、現場と経営層との間を埋める役割もあります。現場の意見を積極的に吸い上げ、状況を正確に把握した上で経営に反映させることのできる数少ないポジションがCHROです。
現場での不満が大きい場合には経営層に改善案の検討を投げかけるなど、組織がより良い方向に進んでいけるよう、現場と経営層の橋渡しをすることが求められます。
企業文化の浸透
経営幹部という立場から、企業の風土・文化をつくり上げていくのもCHROの役割です。職場環境にも目を配り、組織の風通しはどうか、悪習がないかといった観点からも組織づくりを進める必要があります。
3. CHROに求められる資質・能力
CHROの役割を担うためには、どのような資質や能力が必要なのでしょうか。ここでは、CHROに求められる四つの資質・能力を紹介します。
人事や労務に関わる専門性
CHROは最高人事責任者として人事・労務管理の責任を担うため、専門的な知識を有していることが望ましいといえます。労働基準法をはじめとした法令は随時改正されるため、最新の情報をキャッチアップすることも重要です。
人事部門以外でのマネジメント経験
CHROには、人事部門での長い経歴が必要とは限りません。経営幹部として経営全般を理解することが求められるため、むしろ他の部門で得た知見やマネジメント経験が役立つ場面が多くあります。CHROを新しく登用している企業を見ると、幅広い経験を持っていることを重視する傾向も見られます。
戦略を立案する力
CHROは経営陣の一員として、経済や市場の動向、競合他社の状況などを含めた現状を高い視点から捉え、自社が推し進めるべき戦略を立案するスキルが求められます。また、中長期を見越した計画を立てるための先見性も重要な資質といえます。
従業員と経営層との間を取り持つコミュニケーション能力
CHROには、現場と経営陣との橋渡し役となる力も求められます。現場に不満が生じた場合は、経営陣との間で調整役を務めることもあります。そのため、現場の従業員から率直な意見を引き出すコミュニケーション能力が重要です。経営幹部の一員でありながら、従業員の意見を代弁するポジションでもあると強く意識することが大切です。
4. CHROが現場と経営をつなぐ
CHROの重要性は日本においても認識されつつありますが、設置率はあまり高いとはいえません。『日本の人事部』が2020年に行った調査では、「CHROが存在する」という企業は36.5%でした。結果を見ると、従業員規模が大きくなるほどCHROの設置割合が増える傾向があります。
今後は人事部長だけでは解決できない問題も多く出てくることが考えられるため、大企業に限らず、CHROを求める企業が多くなると予想されます。現場と経営者との間をつなぎ、経営視点から人事戦略を遂行できるCHROは、時代の変化が進むにつれて重要性が高まるといえるのではないでしょうか。
- 【参考】
- 日本の人事部|人事白書 2024
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