より良い教育をより多くの人に
――志に導かれて四半世紀
社会に変革と創造を促す
グロービス流MBA教育の真髄とは
グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
堀義人さん
授業で鍛えられ、仲間にもまれて起業を志したHBSでの日々
堀学長ご自身も、HBSでの学びを通して志を見つけられたわけですね。では、留学する前は、どのような目標をお持ちだったのでしょうか。起業への関心はありましたか。
いいえ、もともと起業に興味はありませんでした。学生時代から漠然と「MBAを取りたい、どうせ取るならハーバードで学びたい」と思っていたのですが、何のために、というところまで深く考えてはいなかったのです。大学は工学部に入ったものの、研究者としての道よりもビジネスへの関心を持つようになりました。就職先には商社を選びました。配属された重化学プラント部門での仕事はとても面白く、やりがいもありました。当時、プラント担当といえば、商社の花形でしたからね。しかし僕はその一方で、MBA留学の機会をずっとうかがい続けていたのです。大型受注に成功したタイミングを見計らって、上司に社内留学制度への推薦を直訴。多忙な業務の合間に試験準備を進め、念願のHBS合格を果たしました。1989年春のことです。
HBSといえば、米国だけでなく、世界のビジネススクールの最高峰。相当ハードなイメージがありますが。
「ケース・メソッド」と呼ばれる独特の授業方法に、初日からまずびっくりしたのを覚えています。ケース・メソッドとは、実際の企業事例(ケース)をもとに、学生自らが経営者の立場に立って経営環境を分析し、戦略立案する手法。知識やノウハウを受動的に学ぶだけのレクチャー形式では身につかない「考える力」を養うことに、主眼が置かれています。しかも相互に戦略を評価しあい、ディスカッションしていくスタイルですから、最初は言葉の壁で苦労し、ついていくだけで精いっぱいでした。こうしたケースを1週間びっしりこなすと、金曜にはもうヘトヘト。週末の夜は息抜きに、仲間とよく飲みに出かけたものです。ビールを片手に語り合ったのは、決まって将来の夢やキャリアについて。それまで関心のなかった起業という選択肢に、僕が初めて興味を持ったのも、ボストンのあるバーの片隅でした。米国のキャリア観では、自分でゼロから会社を創り、大きくしていくことが一番カッコいい。ケース・メソッドで鍛えられ、起業家志望の仲間と触れ合ううちに、自らのベンチャースピリットが刺激され、自然と目覚めていったのです。
卒業式を間近に控えたあるとき、僕はキャンパスの芝生に座りながらふと思いついて、ノートに“ヒト・カネ・チエ”という三つの円を描きました。「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」――そのとき見出したビジョンこそ、今日のグロービスの原点です。そしてヒトを育てるために、「すぐれたリーダーを数多く輩出するHBSのようなビジネススクールを日本でも創れないか」と考えるに至り、その志とアイデアを温めながら、帰国の途につきました。
日本に戻ってすぐ、グロービス創業に向けて動き出されたのですか。
初めは独立するつもりなどなく、商社の新規事業として、ビジネススクールを立ち上げる道を摸索したのですが、叶いませんでした。会社では、留学前に在籍していたプラント貿易の部署に再配属され、大きな仕事を任されたりもしたのですが、そこにMBAで習得したことを生かすチャンスはほとんどなく、周囲からも「MBAは役に立たないから忘れろ」などと言われる始末でした。自分の使命とは何か。何のために働くのか。悩みに悩んだ末に起業の決意を固め、92年7月、6年余り務めた商社を退職したのです。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。