不適切事象を乗り越えて「ええやん!」と言える組織へ
関西電力が本気で挑む組織風土改革の舞台裏
川戸洞 英次さん(関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ チーフマネジャー)
川田 顕さん(関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ マネジャー)
二反田 松平さん(関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ)

関西電力株式会社は、業務改善命令をきっかけに組織の抜本的な風土改革に乗り出しました。全社に共通する重要課題を徹底的に洗い出し、従業員だけでなく社外からも「ええやん!関電」と言ってもらえる会社を目指しています。「部門間の壁」「意見が上がりにくい」といった課題にどう向き合い、どのように風土改革を進めているのでしょうか。組織風土改革室でプロジェクトをけん引する、川戸洞英次さん、川田顕さん、二反田松平さんにお話をうかがいました。

- 川戸洞 英次さん
- 関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ チーフマネジャー

- 川田 顕さん
- 関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ マネジャー

- 二反田 松平さん
- 関西電力株式会社 組織風土改革室 組織風土改革グループ
徹底的に見つめ直した「関電あるある」
2023年に全社的な組織風土改革に取り組み始めた経緯と、当時抱えていた組織の課題についてお聞かせください。
川戸洞:当社は2023年、経済産業大臣から「電気事業法に基づく業務改善命令」を受けました。同年に提出した業務改善計画の中で、再発防止対策として「内部統制の強化」や「監督・監査の強化」とともに、「組織風土改革」に取り組むと表明したのが大きなきっかけです。全役員・全従業員が職位や所属の垣根を越えて、自身の思いや気づきを率直に語り合える組織風土を創り上げることを目指し、同年7月に組織風土改革室を新設しました。
組織風土改革室は人事部門からは独立した組織です。現在のメンバーは8人で、人事制度などのハード面を整備するのではなく、従業員の意識を変え、改革を「自分ごと」にするための支援をミッションとしています。不適切事象がきっかけで改革に乗り出しましたが、後ろめたさを引きずるのではなく、より良い組織にするために全従業員が前を向いて臨めるよう、施策や取り組みでは「遊び心」も大切にしています。
川田:改革を進めるにあたり、最初の1年間は徹底的な反省フェーズと位置づけました。まず、事業4部門(ソリューション、原子力、再エネ、火力)とコーポレート3部門(経営企画、人財・安全推進、IT戦略)から1人ずつ、合わせて7人の「キーパーソン」を選出。各部門・各職場の改革推進メンバーを加えた総勢50人ほどで議論し、従業員目線で経営陣に提言する「組織風土改革キーパーソンワーキンググループ(WG)」を整備しました。
キーパーソンには、事業部全体のことを総括的に把握していて、かつ前向きに物事を捉えられる中堅層の人材を選びました。業務を知っているだけでなく、実際に職場を動かせる推進力を持つメンバーを配置することが重要だと考えたのです。WGが従業員目線で提起した課題を、社長を議長とする「組織風土改革会議」が後押しするという体制で改革を進めました。当初は毎月2回、改革会議を開催していました。
二反田:WGでまず取り組んだことは、対話活動や従業員アンケート、不適切事象に対する第三者報告書などを基に、当社を正面から見つめ直すことでした。見えてきたのは、同質性が強く部門間の壁がある、決められたことや指示されたことに従順で指示待ち・他人任せになりがち、第一線の職場や部下からの意見が上がりにくい、といった「関電あるある」です。さらに深掘りし、業務過多の常態化や、硬直的で同質的な組織構造が組織風土に影響していることがわかりました。
川戸洞:重要課題として、「仕事を創ることは得意でも、やめる文化がない」ことによる多忙の慢性化や、意見を出しても「結局変わらない」「仕事が増えるだけ」という「言ったもん負け」への不安などを抽出しました。また、自分に関係ないことには無関心で職場外のことを知らない、多様な人材を採用しても徐々に同質化してしまう、といった課題も多くの職場の共通点でした。

「ええやん! 関電」に込めた覚悟。
根深い重要課題に対して、どのようなアプローチで改革を進めたのでしょうか。
川戸洞:改革が目指すところを、「ええやん! 関電」というスローガンに込めました。一人ひとりが「ええやん!」と誇りを持ち、業務に活き活きと取り組める会社になる。ひいては、社外の方々からも「ええやん! 関電」と言ってもらえる会社を目指しています。そのためのアクションとして、「気づく・言える・行動する」という三つのステップを定めました。
リスクやチャンスに対する高い感度を持って「気づき」、心理的安全性が高い風通しの良い状態で「言える」。そして、声を上げたことを組織として受け止め、主体的にその解決・実行に向けて「行動する」。このサイクルを回していくことを基本方針にしています。
特に重要で、かつ難しいのが「行動する」です。大小問わず「アクション」を起こすことから始まり、周囲がそれを「認め・褒める」ことで、本人の「内なる誇り・自信」が生まれます。そして、「今よりよくありたい」という動機が生まれ、次のアクションにつながる。この循環を「自分事化サイクル」と定義し、最初の行動を促す施策を展開しました。
川田:当社はインフラ会社のため、「できて当たり前」という価値観が強く、失敗を恐れるあまり最初のアクションを起こすことが苦手な組織でした。そこで、「5勝0敗じゃなくて3勝2敗でええやん」という考えを浸透させるため、社長の口癖であった「まず、やってみる」をタグラインに込めたロゴマークを作成。バリエーション豊かなポスターも掲示し、全社的に機運を盛り上げました。
例えば、先ほど重要課題に挙げた「今ある仕事をやめる文化がない」を克服するため、「それ、やめてみよう。」と訴えるポスターを掲示しました。ポスターには社長のイラストとともに印鑑を模したモチーフを入れています。これは「無駄な仕事をやめていい」というメッセージを、社長のお墨付きという形で表現したもので、ポスターを見た従業員が前向きな気持ちになれるよう「遊び心」を加えました。
「気づく」ためにどのような施策を展開したのかをお聞かせください。
川田:エンゲージメントサーベイの結果を基に、各職場の強み・弱みを可視化しました。会社や上司、職場について「期待度」と「満足度」の2軸で回答する仕組みで、「期待度」が高いのに「満足度」が低い項目は優先的に改善すべき職場の弱みと言えますし、「期待度」も「満足度」も高い項目は、その職場の強みと言えます。
この結果を「成績表」と位置付けないことが大切です。各職場が持つ課題を、職場一体となって解決するためのコミュニケーションツールとして活用しています。結果を基に、職場が抱える弱みへの対応や、ありたい姿になっていくための取り組みについて職場全体で対話し、「課題vs職場全員」という構図でアクションプランを策定・実行する流れをつくっています。
川戸洞:最近では、改革が徐々に浸透し動き出した職場の取り組みや、モチベーションクラウドを活用した改善事例などを、メールマガジンなどで社内に広く発信しています。実務面で職場のトップとなる部長が、日々どんなことを意識して職場や業務と向き合っているのかを深掘りするコンテンツ「ボス・インタビュー」も人気です。また、社内外のゲストを招いて組織風土がどのように変わってきたかを聞いたり、他社事例を配信したりする「改革室ラジオ」などを通じて、従業員の「やってみる」を後押ししています。
「気づき」を「行動」につなげるために、何がポイントになるとお考えでしょうか。
二反田:行動を促すための前提となるのが、心理的安全性の醸成、つまり「言える」環境づくりです。先ほど申し上げた通り、当社は「できて当たり前」という考えが根強く、部下や後輩、同僚のアクションを認めたり、褒めたりするのが苦手でした。社内アンケートでも、達成感を得るためのフィードバックが不足していることが顕在化しました。自身では成長を感じていても、上司から認められたり、先輩や同僚から頼られるようになったりしたと実感している割合は、総じて低めの水準となっていました。
そこで、質の高い認め方や褒め方、フィードバック手法を学ぶ研修を実施したほか、小さなことから褒め合うコミュニケーションツールとして「ええやん! ギフト」を導入しました。これは、社内の連絡手段となっているTeamsに搭載できるツールで、感謝を伝えたい職場のメンバーや業務で接した人に、親しみやすいデザインのステッカー付きのサンクスカードを送ることができるというものです。
また、認めたり、褒めたりするのが少し苦手な当社従業員の特性を踏まえ、送る「きっかけ」として、年末年始や異動シーズンに使える期間限定ステッカーの配信や、サンクスカードにデジタルギフトを添えられるキャンペーンなども実施しています。導入から半年で10万通ほどのサンクスカードが飛び交いました。褒めて感謝する風土づくりのきっかけになったと思います。

徹底した「伴走支援」で現場に寄り添う
職場ごとに課題が異なり、何から取り組んだらよいか悩む所属長もいると思います。どのような形で現場の行動を支援していますか。
二反田:組織風土改革室には伴走支援専属チームがあり、職場の取り組みに関する“SOS”が出たら、当該職場に直接出向きます。たとえば、所属長から「サーベイで点数が低い項目があるが、何をどう改善したらいいのかが分からない」「風土改革に対するモチベーションが低い」といった悩みが寄せられたとき、専属チームが、所属長の思いを言語化するための「壁打ち相手」になったり、他職場の好事例を伝えたりして、改善策を一緒に考えます。各職場のメンバーに対する風土改革の意義の説明や、課題に合わせたコンテンツ・ツールの紹介、研修のサポートまで、長いケースでは半年ほどかけ、職場が自走できるまで伴走します。
私たちは数字に表れない「メンバーの思い」を大切にしています。職場の生の声から課題をあぶり出し、輪郭をはっきりさせるため、直接出向き、メンバーに対して1対1のヒアリングを行うこともあります。直属の上司には言いづらい本音も、独立した組織である私たちには伝えやすいようです。本音を引き出すスキルの習得は欠かせません。
「日本一暑苦しい表彰状」――徹底して褒める全社イベント「ええやん! Day」
改革の機運を高めるために行っている施策はありますか。
川田:年に1回、「組織風土改革を、本音で語る一日」をテーマに「ええやん! Day」という全社イベントを開催しています。2026年2月開催の第2回では、全国95拠点をオンラインでつなぎ約2800人が参加しました。2部構成で、第1部では「やってみる」の体現者として女子サッカー元日本代表の澤穂希さんをお招きし、社長とのトークセッションを行いました。澤さんからは日本代表キャプテン時代のエピソードなど貴重なお話しを伺えました。サッカー少年のような社長の意外な一面も見られ、リアルタイムで感想を書き込めるツールには「澤さんの言葉、染みました」「社長がかわいい」といったコメントも飛び交うなど、大盛況でした。
第2部は、各職場から集まった「ええやん! エピソード」の表彰です。1000件以上のエピソードの中から、1万3000票を超える従業員投票により大賞を決定。徹底的に褒めるべく、読み上げに3分近くかかる「日本一暑苦しい表彰状」を用意し、社長が息切れするほどの熱量で称えました。
川戸洞:「ええやん! Day」は2025年に第1回を開催したのですが、第1回と第2回を比べると、寄せられたエピソードの数が増えただけでなく、内容にも変化がありました。初回は職場の雰囲気を良くする取り組みなどが中心でしたが、2回目の開催では、「金属3Dプリンターで水車を制作し水力発電所で運用する」といった業務に直結したものが増加。組織風土が変わったことで、従来であれば出てこなかったアイデアが、現場の困りごとの解消だけでなく業務効率化や質の向上に直結し、確かな成果を生み出していると実感しています。
組織風土改革の施策に対して、職場の理解を得るためにどのように工夫していますか。
川田:本店から各拠点まで、全職場の所属長ら約400人と1時間ずつ対話する「所属長対話」を進めています。始める前は、エンゲージメントサーベイに対してネガティブな反応が返ってくると予想していました。しかし実際に対話してみると、「自分がなんとなく感じていたモヤモヤを数字で表してくれている」「組織を変えるために役に立っている」という前向きな言葉が多く聞かれます。「やらされている」のではなく、「少しでも職場を良くしよう」と考えて動いている所属長が多くいて、むしろ私自身が元気や刺激をもらっています。
実は、私は1年前に現職場に異動するまで、組織風土改革室がどのようなことをしているのか、また、そこで働く人たちのこともあまりよく知りませんでした。その反省からこの取り組みを始めました。1時間ずつ対話と聞くと「そこまでやるのですか?」と驚かれることもありますが、たとえ時間と手間がかかったとしても、実際に足を運び直接対話することで、顔の見える関係を築くことができます。また、独立した組織の私たちだからこそ聞ける“ホンネ”があるかもしれないと考えています。こうした関係づくりを通じて、私たちに共感していただき、各職場での取り組みをけん引してくださる人が少しでも増えれば、とてもうれしいです。

改革の成果や変化をどのように感じていらっしゃいますか。
川戸洞:モチベーションクラウドのスコアを見ると、会社全体の数値が確実に向上しており、特に「上司」に関する項目の改善が目立ちました。役職層が確実に動き始めている証拠だと捉えています。
二反田:これまでは役職層を中心に施策を展開してきており、その層の意識変革には手応えを感じています。一方で、組織全体の意識変革には、まだ課題が残っています。所属長が「改善に取り組もう」と提案しても、職場のメンバーの反応が薄く、一人で頑張っている感覚に陥ってしまうという声を聞くことがあります。今後は、役職層だけでなく組織全体の風土改革をさらに進めていく必要があります。
暗中模索で始まった改革。地道に、「まず、やってみる」
組織風土の改革に取り組む人事担当者に向けてメッセージをお願いします。
川戸洞:私たちも正解が見えない中、手探りで進めてきました。そんな中、他社の方との意見交換で教えていただき、大切にしてきた姿勢があります。「TTP(徹底的にパクる)」という言葉です。関西電力の取り組みで参考になるものがあれば、ぜひ気軽にパクって取り入れてみてください。まずはやってみて、自社に合うようにアジャストしていく。はまらなければやめればいい。その軽やかなスタンスが重要だと考えます。
二反田:組織風土改革に取り組み始めた当初は、右も左もわからず、どこに進んだらいいのか検討もつきませんでした。方向性を決めるのが一番苦労しましたが、失敗を恐れずに、小さなことでもまずやってみたことが功を奏したと思います。周囲の目や評価を気にしてばかりで行動しなければ、組織は進歩しません。失敗してもいい。トライアンドエラーを繰り返すことで、組織は確実に良くなっていくと信じています。
川田:「組織風土改革」というと大ごとに捉えられがちですが、日々の業務と切り離して何か特別なことを行うのではなく、日々の業務運営の中での地道な一歩一歩の積み重ねこそが、組織風土改革につながるのではないかと考えています。こういった認識が“あたりまえ”になっていくよう、まず私自身が地道に取り組んでいきたいと思っています。

(取材日:2026年7月14日)
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