となりの人事部人事制度掲載日:2015/01/26

伊藤忠商事株式会社:
「多残業体質」から脱却し、効率的な
働き方を実現する「朝型勤務」(後編)

人事・総務部 企画統轄室長

垣見俊之さん

「朝型勤務」成功のカギを握るもの

 今後の課題は、何だとお考えですか。

まず、制度が定着していくかどうか、ということです。トライアル期間を経て、正式導入してから半年が経ちましたが、気を緩めると20時以降、どうしても残る社員が増えてきます。そこで、20時以降に残っている社員を毎月モニタリングして、社長から状況を各部門の役員に対してフィードバックしていく、あるいは残業する社員が増えている職場に対しては、人事・総務部から上司に対して指導を行う、といったことを引き続き行っていきたいと考えています。

また、人事制度にからんでくる話ですが、「評価基準」の見直しです。当社も「成果主義」を導入していますので、基本は「アウトプット」で評価します。ただそこには、あまり時間の概念がありません。しかし、「成果」が良ければ要した時間は関係ないということでは、いけないと思っています。今後は、限られた時間の中でいかに成果を上げるかが重要なポイントになります。その意味で「時間軸」も評価の中に組み入れていくこと。これは当社だけでなく、多くの日本企業にとっての課題だと思います。

ホワイトカラーの世界では、一定の効率的な仕事の仕方というものがあります。そこを共通項として5時間働いている人と15時間働いている人を比べた場合、15時間働いている人の方が多くの成果を出すことは明らかでしょう。しかし、それをよしとして基本ルールにすると、多様な人材が活躍できる環境を整備できません。今後、介護などいろいろな理由で制約を受ける社員が増えてきます。だからこそ意識を変えて、いかに限られた時間で効率を上げて、アウトプットを出すかを、評価制度の中にも取り込んでいくことが次の課題だと考えています。

 「朝型勤務」にシフトしていくに当たって、成否のカギを握るのはどういうことでしょうか。

やはり、経営トップのリーダーシップが非常に重要だと思います。制度に対する会社の「本気度」を示す最強のバロメーターだからです。経営トップからの強いメッセージを、徹底的に出し続けることが不可欠です。

垣見俊之さん Photo

それから、現場では組織長が非常に重要な存在です。人事・総務部がいくら口を酸っぱく言ったとしても、上司が「それよりも売上を上げることが大事だ」と言ってしまうと、社員は「それでいいんだ」と思ってしまいます。実際、組織長の意識のあり方で、組織全体の残業時間の多い、少ないがデータとして明確に出ています。いかに組織長が腹落ちして対応してもらえるか、そのための啓発が重要です。制度を導入する際に、組織長向け説明会を20回以上開催したのも、これが理由です。

実は、事前説明会では、3割強の組織長からは、「現場を分かっていない」「自分たちも残業したくてしているのではない」「お客様からクレームがきたら、誰が責任を取るのか」など、非常に厳しいことを言われました。特に、残業の多い組織の組織長からは反発されました。しかし、会社として取り組むことを決めたので、「トライアルで一度やってみた上で判断してください」と言って、お願いしました。

すると、1ヵ月ほど経った頃でしょうか、エレベータの中で、以前反発された組織長と一緒になった時、「朝型勤務、意外といいね」と言われました。実際にやってみると、社員が効率的に仕事をするようになったというのです。時間の経過と共に、当初反発していた組織長からも、好意的なコメントが寄せられるようになりました。労働組合からも好評です。

また、「残業削減=コストカット」と思わせない、社員一人ひとりにやってみようかと思わせる仕組みづくりも大切です。「朝型勤務」には割増賃金を払うこと、健康増進のために朝食を無料で配布することを伝えることによって、「会社は本当に働き方を変えようとしているのだな。それならやってみよう」と思ってもらえたことがとても良かったと思います。

後は、現場の実態に応じて、資料削減や会議厳選など、業務合理化を実施したことです。つまり、意識改革と業務改革をあわせて、かつそれを徹底して対応していったことが、成否の大きなカギとなりました。

 最後に、この課題にこれから取り組もうとしている企業に対して、何かアドバイスをお願いします。

いかに優れた制度でも、導入するだけではうまくいきません。意識を変える、働き方を変えるためのものなので、繰り返しになりますが、まずは会社としての「本気度」「意思」を固めて、徹底して取り組む姿勢が大事だと思います。その際、経営トップのリーダーシップが一番重要です。そして、キーパーソンは組織長です。仕組みだけ作って、後は現場任せではうまくいきません。だからこそ、現場が汗を流すことが重要です。今回のケースでの現場というのは、人事・総務部と組織長です。この人たちが本当にその気にならなければ、いくら良い制度であっても機能しません。それが一番大きなポイントのように思います。

垣見俊之さん Photo

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

となりの人事部

人事・人材開発において、先進的な取り組みを行っている企業にインタビュー。さまざまな事例を通じて、これからの人事について考えます。

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東京都 情報サービス・インターネット関連 2015/01/27

長時間残業の問題は他人事ではないし、以前から伊藤忠さんの
取組みを知っていたのですが、導入に至る経緯、その後の取組みについて
大変参考になりました。

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