今春から改正健康増進法が全面施行!
企業がどこまでできる!?仕事中・私生活上の喫煙制限
弁護士
岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
5 企業で取り組む禁煙サポート
喫煙は、受動喫煙の問題、業務効率の阻害、企業イメージの悪化など、さまざまな弊害があります。また、労働者がタバコ関連病に罹患(りかん)して健康を害すれば、労働能力の喪失にもつながります。使用者として、労働者に禁煙してもらい、これらの弊害をなくして、労働者に健康に働いてもらいたいと考えるのも自然な流れといえます。
しかしながら、喫煙をやめることは容易ではありません。喫煙(ニコチン)は依存性があり、個人差はありますが、多くの場合、本人の意志のみで禁煙・卒煙することは困難です。実際、約6割の喫煙者が「やめたい」または「本数を減らしたい」と答えながら、喫煙を続けています(厚生労働省「国民健康・栄養調査 」報告)。
そのため、禁煙を積極的にサポートする企業も増えています。企業による禁煙支援の取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 禁煙の重要性や禁煙治療に関する情報提供・啓発活動
- 医師等の講演・禁煙教室
- 産業医による禁煙指導、健康診断結果に基づく働きかけ
- アンケートにより非喫煙者の喫煙者に対する苦情を社内共有
- 健康保険組合との連携
- 安全衛生を担当する従業員の設置、同担当者による禁煙サポート
- イントラネットの活用、禁煙支援メール
- 企業による禁煙治療費の負担、禁煙治療費の補助
- 禁煙達成者および禁煙サポート者への報奨
- 禁煙成功者の体験発表を社内共有
- 部門ごとの喫煙率の推移の可視化
近年、禁煙外来医療費の自己負担額に助成金・補助金を出す自治体が増えつつあります。東京都内では13区、他府県では千葉市や吹田市(大阪府)などがあります。このような情報を従業員に積極的に知らせることも有益でしょう 。
6 禁煙手当
従業員の禁煙を推進するために、「禁煙手当」を設けることも考えられます。いわゆる「禁煙手当」には二つの種類が見られます。
- 喫煙者が禁煙した場合に、禁煙達成への報奨として給付するもの。
- 非喫煙者および禁煙している者に対して給付するもの。例えば、1ヵ月間1本もタバコを吸わなかった者に、禁煙手当(例えば、月3,000円や月5,000円)を支給するというもの。
前者については、非喫煙者から、「はじめから周囲や企業に迷惑をかけていない非喫煙者が手当をもらえず、周囲や企業に迷惑をかけていた喫煙者が手当をもらえるのはおかしい」という異論が出る場合もあり、後者の一律に給付する「禁煙手当」と併用する企業もあります。
労働者が喫煙を隠して禁煙の虚偽申告をして、不正に禁煙手当を受給していた場合、不正受給に係る禁煙手当の返還を当該労働者に請求することは、当然です。使用者は、当該労働者に不当利得返還請求(民法703条・704条)または詐欺(民法96条・刑法246条)の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことになります。
もっとも、違約金の定めや損害賠償額の予定の禁止(労働基準法16条)、給料からの相殺禁止(民法510条・民事執行法152条・労働基準法24条)などに留意する必要があります。懲戒処分については、就業規則の根拠があるか、処分が重過ぎないかに注意します。
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