育休中の社員から職場復帰できないと言われた時の対応
育児休業中の社員から「予定通りに復帰できない」との連絡を受けた際、人事はどう対応すべきでしょうか。本記事では、育児・介護休業法を踏まえながら、人事部門が行うべき具体的な対応フロー、注意点、そして社員とのコミュニケーションのポイントを解説します。

育休からの「復帰困難」連絡:まず確認すべきこと
状況把握:理由と希望を丁寧に聞く
まず行うべきは、社員からのヒアリングです。復帰が困難となった具体的な理由(例;保育園の入所不可、本人や子の体調不良、家庭事情など)と、今後の希望(育休延長の希望時期や働き方の希望)を確認します。復職をサポートするために必要な情報を把握することが重要です。
法的側面の確認:育児・介護休業法の規定とは
ヒアリングとあわせて、以下の法的観点を確認します。
子の保育所への入所が決まらない場合(市区町村の「不承諾通知書」などで確認)
配偶者が養育困難な状況にある場合(死亡、負傷・疾病、離婚、虐待による監護権の喪失など)
延長の申出期限:育児休業延長の申し出は原則として、休業終了予定日の2週間前までに行う必要があります。会社の就業規則により異なる場合もあるので、確認しましょう。
不利益取扱いの禁止:育休の取得や延長を理由とした解雇、降格、減給、配置転換など、法律に反する不利益な取り扱いは厳禁です。退職の強要や示唆も法的リスクを伴うため、慎重な対応が求められます。
復帰困難の理由別:人事の具体的な対応
【ケース1】保育所に入所できない場合:育休延長の手続き
このケースが最も多く見られます。次のような流れで延長の手続きを進めます。
延長申出:社員に「育児休業期間変更届」(会社所定の様式)を提出してもらいます。
社内手続き・連携:人事部門は育休延長の承認後、所轄部署など関連部署へ期間などを共有します。ここでは、プライバシーに十分配慮する必要があります。
社会保険・雇用保険手続き:社会保険料免除の変更届は会社が手続きします。雇用保険の育児休業給付金については、社員がハローワークを通じて延長を申請しますが、会社は必要な証明書の発行などに協力します。
【ケース2】本人や子の体調不良の場合:休業延長や別制度の検討
本人の体調不良:育児休業の延長対象外となるため、会社の就業規則に基づく「私傷病休職制度」の利用を検討します。医師の診断書をもとに、傷病休職や産業医面談などを調整し、健康保険の「傷病手当金」を案内します。
【ケース3】延長要件に該当しないその他の事情
育児休業延長の法定要件を満たさないものの、復帰が困難な事情がある場合は、以下のような代替案を検討します。
- 会社独自の柔軟な制度(短時間勤務制度、在宅勤務制度など)の提案
- 年次有給休暇の活用
- 就業規則に基づく「私事休職制度」の利用
最終的に本人が退職を希望する場合は、本人の意思を尊重し、慎重かつ適正な手続きを行います。退職勧奨は厳禁です。
人事担当者が押さえるべき実務ポイントと注意点
不利益取扱いの禁止:絶対に避けるべき対応
育児休業やその延長に関する申し出を理由とする不利益取り扱いは、育児・介護休業法により禁止されています。
- 禁止される行為の例:解雇、雇止め、不当な降格・減給、不利益な配置転換、復職を強要するような心理的圧力など
- リスク:法的トラブル、従業員満足度・エンゲージメントの低下、企業イメージの毀損(きそん)
社会保険・雇用保険の確認事項
社会保険料の免除:育児休業を取得している間は、一定の条件を満たせば会社・本人ともに保険料が免除されます。免除期間の変更が生じた場合は、速やかに手続きを行いましょう。
育児休業給付金の延長申請は、原則として社員本人がハローワークで手続きしますが、会社からの証明書等の提供が必要です。制度は法改正により変更されることがあるため、最新の制度内容を常に確認する必要があります。
関係部署との連携と代替要員の調整
育休延長の情報は、業務運営に大きく影響します。所属部署へは、延長期間や業務影響についてプライバシーに十分配慮した情報共有を行います。
代替要員の確保・業務分担の見直し(契約社員の延長、派遣の追加、チーム内シェアの調整等)を人事部門が主導し、現場と調整します。制度の意義や人事方針を丁寧に説明し、現場の理解を得ることが重要です。
円滑なコミュニケーションと復職支援のために
本人との丁寧な対話:寄り添う姿勢と情報提供
利用可能な制度(育休延長、社内独自制度、給付金など)について正確に説明し、社員が安心して意思決定できるようにサポートします。延長期間中も定期的に社員と連絡を取り、会社とのつながりを維持することで、社員の孤立感を軽減できます。
復職に向けた継続的なサポート体制
復職が近づいたら、本人と面談を実施し、働き方の希望や懸念を共有・調整します。会社側も業務状況や制度変更等を適宜伝えることで、復帰への不安を減らすことができます。復職後も、仕事と育児の両立状況を確認し、必要に応じて柔軟な配慮や制度活用を促すことで、社員の定着・活躍につながります。
監修者:井上 久(井上久社会保険労務士・行政書士事務所)
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