役員は雇用保険に加入できるか
健康保険や厚生年金保険のような社会保険は、法人の代表者や取締役などの役員も、必ず加入しなければなりません。しかし、労災保険や雇用保険などの労働保険では、役員は経営者の立場にあるため、原則として適用されません。
ただし役員であっても、労働者として雇用保険に加入できるケースがあります。役員が雇用保険に加入できるケースや、会社法上の役員との違いについて解説します。
役員は原則、雇用保険に加入できない
会社の代表者や取締役などといった法人の役員は、原則として雇用保険の被保険者になることはできません。雇用保険は、労働者であれば、短期で一時的に雇用される人や学生などの適用を除外されている人を除き、加入要件を満たせば強制加入です。しかし、役員は経営者の立場にあるため、労働者に該当しません。
昇進などにより従業員から役員になった際は、雇用保険の資格を喪失して一度退職した扱いになります。しかし、雇用保険の基本手当は失業して就職活動をする際に受給できる給付金であり、従業員から役員に昇格した場合は「失業状態」と認められないことから、受給することはできません。
使用人兼務役員は加入できることが多い
支店長、工場長、本社の部長などのように、役員の立場でありながら、実際には労働者としても業務に従事しているケースがあります。役員であっても労働条件や賃金の実態から見て従業員としての身分を有する人は「使用人兼務役員」と呼ばれ、労働者性が強く雇用関係があると認められる場合に限って、雇用保険の加入が認められます。
労働者性は明確な基準が法律で定められていません。そのため、使用人兼務役員として認められるには、ハローワークへ労働者性が強いことを実態として判断できる資料を提出しなければなりません。「役員報酬と比べて、従業員の立場として受け取っている給与・賃金の方が、金額が大きい」「他の従業員と同じ就業規則が適用され、勤怠管理を受けている」「人事考課の対象である」などといったケースでは、労働者性が認められやすいでしょう。
一般的に、執行役員は法人の役員として登記されることは少なく、労働者と同等の立場にあることが多いため、雇用保険に加入できます。使用人兼務役員が雇用保険に加入する際は、雇用保険資格取得届と「兼務役員雇用実態証明書」に各種資料を添付して、ハローワークへ提出する必要があります。
- 定款
- 就任日が確認できる就任時の議事録(株主総会・取締役会)や登記事項証明書
- 人事組織図
- 役員報酬規程など報酬額が確認できるもの
- 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿
- 就業規則、賃金規定(ない場合は雇用契約書)
- 入社と同時の場合は資格取得届、従業員から役員になった場合は資格取得確認通知書(事業主控) など
上記書類の記載内容で労働者と同等の立場にあることが確認できない場合や、労働者性の実態確認ができない場合は、申立書の作成が必要です。役員報酬を総勘定元帳や決算書で確認されることもあります。
会社法・税法上の扱いとの混同に注意
役員と聞くと、多くの人は代表取締役や専務取締役、常務取締役といったポストを連想するでしょう。そのため、会社法上や税法上の役員と混同しないように気を付けなければなりません。
会社法上の役員
会社法では、株式会社の役員に「取締役」「会計参与」「監査役」があります。いずれも会社を運営する上で重要な責任を担っています。会社法上の役員は株主総会の決議によって選任され、委任契約を株式会社と結ぶことから、労働契約には該当せず、労働者とは言えません。
(選任)
第329条第1項
役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
(株式会社と役員等との関係)
第330条
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
- 【引用】
- 会社法 | e-Gov法令検索
税法上の役員
税法上の役員は、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人のほか、実質的に法人経営に従事していると認められる人が該当します。
会社によっては執行役員と呼ばれるポストがありますが、実際には役員ではなく会社の従業員の立場にあり、給与が支払われるのが一般的です。税法上では会社の役員であれば役員報酬が支払われ、従業員には給与が支払われます。「兼務役員雇用実態証明書」に報酬額が確認できるものを添付するのは、役員報酬と給与の違いで実質的に法人経営に従事していると認められるかどうかを判断しているからです。
会社法では、会社を運営する機関として役員を置くことを求めており、税法上では実質的に法人の経営に従事している人を役員としています。雇用保険に加入できる役員は、あくまでも実質的に労働者としての性格を持つ人であり、税法上の考え方に近いものです。そのため、使用人兼務役員の場合、税法上は同じ給与所得であっても、企業の決算書の「販売費及び一般管理費」の計算の内訳では、役員報酬と従業員給与とで区分して計上されることがあります。この場合、経営者として得る役員報酬に対しては雇用保険料は算定されず、従業員給与として支払われた部分にのみ雇用保険料が算定されます。
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