海外留学生のキャリア意識と就職活動状況調査(2025年4月)
深刻な人手不足を背景に、人材獲得競争が激化している。グローバル人財の採用を強化する企業が増える中、語学力や異文化理解力を持つ留学経験者の採用ニーズは一層高まっている。株式会社キャリタスでは、海外の大学で学ぶ正規留学生や交換・派遣留学生を対象に、職業観や就職活動に関する調査を実施した。比較可能なものに関しては、国内学生キャリタス就活・学生モニター)の調査結果を引用しながら、その特徴を分析したい。
【主な調査内容】
1.海外での勤務希望と海外で働きたい理由
2.志望業界
3.志望職種
4.就職先企業を選ぶ際に重視する点、希望する働き方
5.魅力を感じる採用形態
6.ベンチャー/スタートアップ企業への関心
7.就職活動の情報源
8.企業研究をする上で知りたい情報
9.企業に評価してもらいたいこと
10.インターンシップ等の経験
11.留学をした感想
【参考】留学費用
1.海外での勤務希望と海外で働きたい理由
海外の大学への留学経験をもつ日本人留学生は、どのような仕事に就きたいと考えているのだろうか。志望業界や職種のほか、キャリア観などをいくつかの指標で尋ねた。
まず、日本国外(海外)での勤務について希望を尋ね、国内の大学・大学院で学ぶ学生(以下、国内学生)と比較した。留学生は「ぜひ働きたい」が6割強(64.1%)。「どちらかといえば働きたい」(26.2%)も含めると9割に上り(計90.3%)、海外勤務への意欲は極めて高い。一方、国内学生は4割程度にとどまる(計42.9%)。
留学生が海外で働きたい理由を見ると、「よりスキルアップできるから」が最も多く4割超が選んだ(41.7%)。次いで、「給与・待遇が良いから」(38.6%)、「将来のために海外勤務経験が必要だから」(35.4%)が3割台で続く。キャリアアップのために海外勤務を希望する傾向が強い。
働いてみたい国や地域は、「ヨーロッパ」(65.0%)、「北米」(63.6%)が多く、6割を超える。「オセアニア」(40.5%)、「東南アジア」(39.0%)が4割前後で続く。留学先として人気が高い地域ほど、勤務意向も高く、就職後にも留学先の国・地域と継続的に関わりたいという考える人も多いのだろう。
2.志望業界
続いて、志望業界を文理ごとに集計し、国内学生と比較した。
文系を見ると、留学生は「商社(総合)」(38.0%)と「調査・コンサルタント」(36.0%)の2業界に人気が集中している。同時期に調査した国内学生の文系は「銀行」が最多で、ITが続く。
理系は、留学生は「調査・コンサルタント」が最多で、3割超が選んだのに対し(31.7%)、国内学生は7.9%にとどまる。続く「情報処理・ソフトウエア」は、留学生・国内学生ともに人気が高いが、3番目の「商社(総合)」は、国内学生との差が大きい。国内学生の理系は「医薬品・医療関連・化粧品」「電子・電機」といったメーカーが上位に並んでいる。
文理とも、留学生と国内学生の志望業界の差が顕著に表れている。
3.志望職種
志望する職種を、11職種から3つまで選んでもらい、文理ごとに集計した。
留学生の文系は「企画・マーケティング職」が圧倒的に多く、6割が志望(60.1%)。国内の文系学生より大幅に高い。続く「営業職」と「事務・管理系職種」は国内学生の方が志望する割合が高いのに対し、「専門職・スペシャリスト」は、留学生の方が圧倒的に高いのが特徴的。
理系も、留学生は「企画・マーケティング職」が最も多く(37.6%)、「IT系職種」(35.6%)が続く。国内学生も「IT系職種」は3割台だが、「企画・マーケティング職」は約1割(10.6%)で、その差は27.0%。一方、「研究・開発・設計」は留学生では3割台だが(31.7%)、国内学生では半数近くが選んだ(48.5%)。コンサルタントや商社を志望する留学生とメーカー志望者の多い国内学生とで、志望職種にも違いが表れている。
4.就職先企業を選ぶ際に重視する点、希望する働き方
就職先企業を選ぶ際に重視する点を30項目から5つまで選んでもらい、国内学生の回答と比較した。留学生・国内学生とも1位「給与・待遇が良い」、2位「将来性がある」で共通しており、留学経験にかかわらず、多くの学生が重視していることがわかる。
また、「日本以外の国で働ける」「高いスキルが身に付く」「優秀な人材が多い」といった項目は、留学生の方が大きく上回っており、自身がスキルアップできる環境を求めていることが読み取れる。「休日・休暇が多い」「希望の勤務地で働ける」「福利厚生が充実している」などの項目は、国内学生の方が上回っており、安心して働ける環境を求める学生が多いことがうかがえる。
次に、就職先企業選びに下記の3つの項目がどの程度影響するかを尋ね、国内学生と比較した。
「(1)仕事を通して成長できること」は、留学生の7割弱が「とても影響する」と回答(68.4%)。国内学生は半数未満(49.5%)で、その差が顕著。「(2)多様性のある職場環境であること」も、留学生の方が「影響する」と回答した学生の割合が高い。反対に、「(3)柔軟な働き方ができること」は、「影響する」の合計が国内学生で9割を超え(計92.9%)、留学生より関心が高い。
続いて、働き方の指標について対照的な項目を示し、希望に近い方を選んでもらった。
まず、「1つの分野で専門性を高めたい」と考える留学生は53.2%で、国内学生(計45.8%)を上回る。「キャリアパスは自分で主導権をもちたい」という留学生は約9割に上り(計89.2%)、自律的にキャリアを形成したいと考える留学生が大半だ。「仕事が多少忙しくても早く出世したい」は、留学生は7割を超えるのに対し(計72.3%)、国内学生は半数未満にとどまる(計46.4%)。
5.魅力を感じる採用形態
続いて、どのような採用形態に魅力を感じているのかを尋ねた。留学生・国内学生ともに「総合職採用(メンバーシップ型)」が最多。留学生では「ジョブ型採用」が次いで多く、4割近くが選んだのに対し(39.1%)、国内学生は2割未満(18.5%)にとどまっており、志向の違いが表れている。
6.ベンチャー/スタートアップ企業への関心
留学生と国内学生の双方にベンチャー企業やスタートアップ企業への就職意向を尋ねた。留学生は「とても関心がある」(7.7%)、「ある程度関心がある」(27.2%)を合わせて3割強が、ベンチャー企業への就職に関心があると回答した(計34.9%)。国内学生では2割程度にとどまる(計23.2%)。
留学生がベンチャー企業に関心を持つ理由としては、「仕事の裁量が大きい」「若いうちに実力を付けたい」など、個人の成長に繋がるような項目が上位に挙がった。スキルアップや自身の成長に重きを置く留学生にとって、若手のうちから裁量権を持たせてもらえそうなベンチャー企業の環境は魅力的に映るのだろう。
7.就職活動の情報源
就職活動の情報源を尋ね、正規留学生と交換・派遣留学生とで比較した。正規留学生の情報収集は「留学生向け就職サイト」(81.7%)が突出して高く、次に「企業ホームページ」(52.2%)、「留学生向けの就職イベント(オンライン)」(42.6%)が続く。交換・派遣留学生も「留学生向け就職サイト」が最多(69.7%)。「日本国内学生向け就職サイト」を6割が選んでおり(60.5%)、併せて活用する学生が多いことが読み取れる。
8.企業研究をする上で知りたい情報
企業研究をする上で知りたい(知りたかった)情報について尋ねた。最も多いのは、「給与水準・平均年収」(54.7%)。先に見たように、企業選びにおいて給与・待遇を重視する留学生は多く、関連する情報を求める学生も多いことがわかる。
続く「実際の仕事内容」(51.1%)、「採用スケジュール」(50.4%)は、それぞれ約半数が選んだ。「求める人材像」(43.2%)、「採用方法やプロセス」(41.4%)、「福利厚生制度」(40.7%)が4割台で続き、留学生が多くの情報を求めている様子がうかがえる、留学生は、国内学生と比べて企業と接点を持つ機会や情報入手ルートが限られており、様々な角度からの情報発信が求められていると言えるだろう。
9.企業に評価してもらいたいこと
採用選考にあたって企業に評価してもらいたいことを尋ね、国内学生と比較した。最も多いのは、留学生・国内学生ともに「コミュニケーション能力」。留学生は、「異文化対応力」「語学力」「リーダーシップ」「バイタリティー」などの項目が国内学生より高く、その差が顕著。留学経験を通じて向上させた能力やスキルを評価してもらいたいと考える学生が多いことがうかがえる。
一方、国内学生は「協調性」「熱意」「明るさ」などのポイントが留学生よりも高く、人柄や会社に対する想いを評価してもらいたい学生が多いようだ。
なお、留学生の現在の英語力は、「ネイティブレベル」が15.7%、「ビジネスレベル」が57.1%と、ビジネスで英語を使うことができるとの回答が7割超に上り(計72.8%)、国内学生(計13.3%)に比べ圧倒的に高い。
10.インターンシップ等の経験
インターンシップ等のプログラムへの参加経験を、就業場所・形式ごとに尋ねた。正規留学生は「日本で参加」「オンラインで参加」が4割前後で、海外留学中でも一定数参加していることがわかる。交換・派遣留学生は「日本で参加」(60.3%)、「オンラインで参加」(49.7%)。
参加企業の中に就職したいと思う企業があったかを、重ねて尋ねた。「日本で参加したもの」では6割超(65.3%)、「オンライン」では4割近く(38.5%)が就職したい企業があると回答。インターンシップ等への参加をきっかけに就職先として志望する学生も少なくないことがわかる。
なお、場所や形式にかかわらず、どのくらいの期間のものに参加したいかを尋ねたところ、交換・派遣留学生は「2~4日」「5日程度」「1日」など短期のものが多いのに対し、正規留学生は「2~3カ月程度」が最多で、他に「1カ月程度」なども多く、長期プログラムへの参加を希望する割合が高い。
11.留学をした感想
最後に、留学全般についての感想を尋ねた。「大変良かった」が約8割に上り(79.3%)、「良かった」(19.1%)を合わせると98.4%と、満足度は極めて高い。
留学の成果としては、「語学力の向上」(81.4%)、「異文化対応力の向上」(76.6%)の2項目が高い。「国際理解を深め価値観が変わった」(59.1%)、「精神的にタフになった」(58.8%)、「日本のよさを再認識できた」などが上位に挙がり、グローバル人材として活躍する上での素養を、留学を通じて培うことができたと感じている様子がうかがえる。また、11項目のうち7項目が5割を超えており、多くの成果を実感している留学生が多いことが読み取れる。
なお、留学を終えて帰国する時期は、正規留学生、交換・派遣留学生ともに5月と6月が多い。交換・派遣留学生の帰国時の学年は「大学3年生」が最も多く半数弱(47.1%)。
《調査概要》
調査対象:CFNに登録している【日本人留学生】のうち、卒業時期が2024年5月以降の者15,486人
調査方法:インターネット調査法
調査期間:2025年2月25日~3月14日
有効回答数:585人
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社キャリタス/5月1日発表・同社プレスリリースより転載)