銀行や中央省庁での仕事経験を糧に
人事BPOサービスで日本企業の生産性向上に貢献する
エイチアールワン株式会社 代表取締役社長
武谷 啓さん
自らの変革スピードをいかに高めるかが、人事BPOサービス業界の最大の課題
現在の日本企業を取り巻く「人・組織」「人事」に関する課題をどのように捉えていますか。
人事部門の力が弱くなっているのではないでしょうか。その原因は、成果主義の迷走にもあると私は考えています。その迷走以来、経営の中心から人事が外れてきています。人事があまり勉強をせず、さらには自ら発信しないことも原因でしょう。米国の経営学の教授は人事理論をよく扱います。それらがすぐ日本企業に役立つかは別にしても、その理論にはいろいろな示唆が含まれているわけです。しかし、人事は理論を知らないまま、目の前の個々の事象にこだわりすぎていて、経営陣から「役に立たない」と思われ、焦っているように見えます。もう少し中長期的なことを考えて、絵を描く力をつけないといけないと思います。
最近の人事BPOサービスにおける課題についてどうお考えですか。
2002年に人事サービス・コンサルティングを設立したとき、私は社員に「企業が自己変革する上でアウトソーシングを一つの選択肢にしたい」と言っていました。それは、もう完全に叶えられました。逆に今度は、供給制約があって多くの顧客企業をコントロールする力、少ない人数で多くの業務を遂行していける力、もっと言えばビジネス化する力を高めていかなくてはいけません。
人事は後進的で、特にオペレーションは横のつながりもなく各社ばらばらです。私たちもそのまま受けることもできるのですが、それでは価値がありません。苦労してでも価値を提供できるよう、実力を上げていく必要があります。私たちの業界は未熟です。もっと本当のビジネスにしていくためにも、より研さんを積む必要があります。
人事のBPOにはいくつかのパターンがあります。派遣会社がスタッフを派遣して業務受託だと言いながら、派遣先企業で人事業務に従事しているものも、BPOと言えばBPOです。ならば、多くの企業の人事業務を受託することの意義とは何かを考えたとき、「BPOは何で生産性を上げていくのか」が問題となります。業界他社の社長とも「それをもっと明確に打ち出していかないといけない」と都度話し合っています。
その上で、人事BPOサービス会社はどうあるべきだとお考えですか。
今、世界で一番大きな人事BPOサービス会社である、米国のADP社は、5,000万人もの労働者の人事給与業務を受託しています。当社が受託しているのは約30万人分です。国内売上で見ると当社は業界No.1なのですが、ADP社と比較したら小さい。当社はADP社と「グローバルHRサービス」領域で連携しているのですが、本当に大きな差を感じますね。
日本には労働者が5,000万人以上いると言われています。潜在的には、人事BPOサービスは1兆円くらいのマーケットがあるものの、現状では各社の売上を合わせても300~400億円しかありません。まだ3~4%といったところです。人事BPOサービスが受託しているもの以外は、どの会社でも自社内で業務を行っているわけです。潜在マーケットとしては大きいのにそれを開拓していける力もない、というのが実状です。
やはり、私たち自身が変わらないといけません。この業界の最大の課題は、自分たちの変革スピードだと思います。私たちが変われば業界は大きくなりますし、国に貢献できます。どれだけ早く自分たちが変われるか、成長できるか。そこにすべてがかかっています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。