「モチベーション」「アイカンパニー」の次は
「リンク」を打ち出し、企業と個人を変革する
株式会社リンクアンドモチベーション代表取締役会長
小笹芳央さん
「モチベーションカンパニー」と「アイカンパニー」がリンクする事業展開へ
B to BからB to Cへと事業を発展、拡大していく中で、どのようにモチベーションを事業としてデザインしていこうと考えられましたか。
創業後10年間は「働きがい作り」ということで、社員のモチベーションを高めるための研修や制度の導入、あるいはイベントの開催など、企業を企画からサポートしていきました。その際、我々は企業に対して「モチベーションカンパニー」になりましょうと言ってきましたが、これは社員のモチベーションを成長エンジンとする経営スタイルです。このスタイルが時代を制するということを企業に啓もうしてきました。さらに、社員のワークモチベーションが多様化する中で、それらをうまく束ねて、社員のモチベーションを引き出しながら成果を出していきましょうというメッセージを、企業向けに発信しています。
B to Cでは、一人ひとりの社会人が、働きがいだけではなく、生きがいを持ちたいと言えるようなレベルにまで広げていきたいと考えています。そのため、一人ひとりが「アイカンパニー」の経営者であるという意識を持ちましょうというメッセージを発信しています。自分自身が自立的・主体的に人生を切り開き、自分磨きをしながら、キャリアを積み重ねていこうということです。
個人向けには、進学・受験に向けてのサポートなどを行っていますが、中高生などの子どもたちに主体性や自立心などを養ってもらうためにコミュニケーションのスキルが高まるよう指導したり、モチベーションやストレスのコントロール方法を教えたり、というようなことを意識的に行っています。「アイカンパニー」を鍛えましょうというメッセージを持ちながら、B to Cの事業を展開しているからです。そして最終的には、B to BとB to Cの事業をつなげていきたいと考えています。
現在のB to Cの事業には、中高生の進学支援や大学生向けの就職支援、資格取得などのキャリアアップ支援がありますが、今後は語学なども加えていく予定です。これら個人向けサービス事業の規模が拡大し、各機能が充実してくると、個人向けのサービスと企業向けの紹介事業などのサービスとがリンクして、「働」「学」「遊」が展開していくことになり、今まで日本にはなかったビジネスのあり方ができてくるのではないでしょぅか。そういう意味で、「モチベーションカンパニー」と「アイカンパニー」作りは、単なる人材ビジネスの枠には収まらない活動になると思っています。
「DNA BOOK」で歴史と考え方を伝えていく
貴社がそのようなステージに入る中、組織運営で工夫されている点はありますか。
当社では、自分たちの事業に対する考え方、大事にしたい考え方など、いわゆる会社としての思想・哲学を「DNA BOOK(DNA編・ヒストリー編)」という200ページあまりの冊子にしてまとめています。また、その内容をどれだけ理解しているか、定期的にテストも行っています。点数はイントラネット上で発表しています。
私の考え方、あるいは創業メンバーたちと一緒になって紡ぎ上げた考え方を、グループ全体に浸透させていかなければならないと考え、「DNA BOOK」を作りました。企業は長い期間に渡って社会に貢献すべきだと思います。その意味で、当社も私に対する信頼だけで人が集まるようなことでは困るステージに来ています。私の命も永遠ではありませんから。会社の歴史をまとめた「ヒストリー編」と、会社の考え方をまとめた「DNA編」の2冊に分かれており、定期的に内容も付け加えています。
会社が大きくなる中で、個人の経験値の違いが出てきますね。
創業直後から一緒にやってきた社員と、最近入ってきた社員とでは、経験値の格差が非常に大きいので、極力、その格差を埋めたいと考えています。最近入ってきた社員でも「ヒストリー編」を読んでもらえれば、我々の歩みやターニングポイントとなった出来事が分かります。創業当初にお世話になった経営者の方々とか、私の出身企業であるリクルートとの関係などは、皆に知っておいてほしい内容です。一方、「DNA編」は「ヒストリー編」とは違って、会社の考え方を示したものです。後から入ってきた社員には、すぐに覚えてもらうようにしています。ちゃんと覚えておかないと、社内で飛び交う言語にもついていけません。
そのほかに、経営において、どのような問題意識をお持ちですか。
グループ会社が増えていますが、例えば社員の経験値をはじめとして、業種、それぞれの会社の歴史、顧客特性などは全て違います。会社が大きくなるに従い、そういう多様性を取り入れているわけですが、バランスが大切です。多様性を認めて取り入れる一方で、これだけはグループとして共通化していこうとする哲学や思想が必要です。これまで以上に、リンクアンドモチベーショングループの「統合軸」を明確にしていかないと、多様化のスピードが鈍ってきます。そのためにも、グループ全体で共有できるようなDNAへと改変しなければならない時期に来ています。
もう一つは経営者の育成です。まだまだ規模を拡大していこうと考えていますが、経営能力のある人材を数多く輩出していくことが、この5年、10年の重要なテーマです。もちろん研修や勉強会は行いますが、一番大事なのは、経営の機会を提供することです。やはり立場を与えることで、人は変わり、そして、育ちます。そのためにも、経営者として仕事をする機会をたくさん作っていきたいと考えています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。