2014年4月「鉄道運賃改定」が人事部に及ぼす影響とは?
通勤費管理業務の効率化により“戦略人事”を実現する
鈴木俊己さん(株式会社無限 取締役 営業本部長)
青田賢一さん(株式会社無限 営業本部 PI営業部 副部長)
2014年4月から消費税率が8%に引き上げられることが決定したが、それにともなって鉄道運賃も改定される。今回、注目されるのは、IC乗車券の普及を背景に、JR東日本、東急電鉄、小田急電鉄、東京メトロなど関東の鉄道各社が1円刻みの運賃値上げを打ち出している点だ。太田昭宏国土交通相は1円単位の値上げに理解を示しており、国土交通省では検討に入っている。ただし、直接切符を買う際は1円単位のやり取りの面倒を避けるため、これまで通り10円単位となる予定だ。これに対して、IC乗車券の普及が進んでいないJR西日本、近畿日本鉄道などの関西の鉄道各社およびJR四国では、これまで通り10円単位の値上げを行うことがほぼ決定している。実は、今回の消費税値上げをきっかけに、運賃計算の複雑化という事態が起ころうとしているのだ。 今後、企業の人事担当者が、これまで以上に運賃計算に大きなパワーを割かざるを得なくなることは間違いない。ではどうすればこのような変化に柔軟に対応でき、通勤費管理業務に関する負担を軽減することができるのだろうか――。
通勤費精算管理システム「らくらく定期.net」を提供する株式会社無限の取締役営業本部長の鈴木俊己氏と、同社営業本部PI営業部副部長の青田賢一氏に、通勤費事情に詳しい専門家としての立場から、詳しいお話をうかがった。
- 鈴木俊己さん
- 株式会社無限 取締役 営業本部長
(すずき・としみ)大手SIerにて、IBM製品の営業、ERPパッケージ営業、CRMパッケージの営業・コンサルティング業務に携わり、数年前よりJAVAフレームワークである、intra-mart製品の営業・コンサルティングおよびプロジェクト・マネージメントを多数経験。2011年無限へ入社し、現在らくらくシリーズおよびシステム・インテグレーションの営業責任者として、現在に至る。
- 青田賢一さん
- 株式会社無限 営業本部 PI営業部 副部長
(あおた・けんいち)2002年、らくらく定期販売開始以降、11年間で中堅~大手企業2000社以上の通勤費管理に携わるプロフェッショナル。独自の運用や細かな業務課題に対して、管理担当者の目線に立ったヒアリングやコンサルティングにより、業務改善やコスト削減に貢献する。属人的な判断になっている経路チェックをシステムで解決し、通勤費管理にガバナンスを効かせる手法をセミナーなどでも提唱している。
運賃改定によって業務量の増加は必至
消費税率の引き上げにともない、2014年4月から鉄道運賃が改定される予定です。企業における社員の通勤費管理業務には、どのような影響があるとお考えですか。
青田:これまでの鉄道料金は1円単位を四捨五入し、10円単位で料金を徴収していました。料金が126円であれば130円、124円ならば120円としていたわけです。しかし、これでは利用区間によって不公平が生じてしまいます。そこでJR東日本は、今回の消費税引き上げを機に「増税分をきめ細かく運賃に転嫁して公平感を高める」ことを目的として運賃を1円刻みにすると打ち出しました。国土交通省でも「1円単位の徴収を認める」としており、このまま実施される可能性が高くなっています。
JR東日本が運賃改定に踏み切った理由は、カード型IC乗車券の普及率拡大です。JR東日本では、利用者の約8割がIC乗車券を利用。すでにIC乗車券は運賃以外の買い物では1円単位で使われていますが、これを鉄道運賃にも適用したいという考えです。もちろん、定期券の料金にも適応されますので、これまでより細かな数字のやり取りが必要になります。ただし、IC乗車券を使わず券売機で切符を買う際には、1円単位では金銭のやり取りが煩雑になるため10円単位運賃が継続されます。
ここで不安視されるのは、鉄道各社の足並みが揃っていないことです。IC乗車券の利用が利用者の約3割に留まっているJR西日本を始め、IC乗車券が普及していないJR各社は、引き続き10円単位の料金を継続させたい意向です。首都圏の東京メトロや私鉄は1円刻み運賃に前向きのようですが、まだどうなるかわかりません。もしルールの異なる複数の鉄道の料金を計算することになれば、これまで以上に通勤費管理業務に時間や手間がかかってしまいます。
具体的には、どのような業務が予想されるのでしょうか。
鈴木:鉄道料金が改定される場合、全社員に改定後の定期代を申請してもらう企業が多いですね。しかし、この方法では、全社員の申請書類を集めるだけでも相当な時間がかかります。申請書をなかなか提出しない社員もいますから、呼びかけるだけでも大変な手間です。
新料金が3月初旬に決まったとして、それからすぐに申請書を集め始めても、3月中旬には社員の異動があり、4月には新入社員が入社してきます。その中で、申請された経路が適正かを判断し、金額に間違いないかを確認、それからシステムにデータを打ち込んで給与支給に間に合わせなければならない。つまり、短期間に想定を超えた大量の作業が押し寄せることになると予想されます。
今回は1円刻み運賃や鉄道各社の料金体系が異なるなどの状況がありますから、金額を確認するだけでも大変な手間になるでしょう。全国に拠点があるような企業では、拠点ごとに通勤費を確認しなければなりませんから、並大抵ではない忙しさになるはず。しかし、このことにまだ気付いていない人事ご担当者は多いと思われます。
「システム化」で通勤費管理業務の負担をどのくらい軽減できるのか
運賃が改定されると、当然コスト負担も大きくなりますね。
青田:弊社の利用者データによれば、社員一人当たりの平均年間通勤費は18万円です。100名企業なら1800万円、1000名なら1億8000万円という規模になります。今回は消費税が3%アップしますから一人5400円のアップ。すると、100名の企業で年間54万円、1000名で540万円のコスト増となります。また、通勤費は給与の一部ですから、通勤費が上がるとそれに付随して社会保険や雇用保険の金額も上がります。そのことにも、人事の方はあまり気付いていないようです。
通勤費の管理にも、人手がかかりますね。
青田:通常、通勤費に関わる作業は、本人の申請作業と人事担当者の処理作業を合わせて1件につき30分程度です。運賃改定では全社員が再申請しますから、100人の企業なら3000分=50時間、1000人なら30000分=500時間が新たにかかるという計算になります。これは膨大な作業量ですね。
ちなみに運賃改定のない通常の月でも、人の出入りや異動で、通勤費の新たな申請が正社員で毎月3%程度発生します。100人で3件、1000人で30件。パートやアルバイトを多く抱える企業や、仕事現場が次々に変わるような職種が多い企業であれば、月の申請数はもっと増えるでしょう。このように、通勤費の処理業務は、人事の通常業務を圧迫するほどの作業量になりかねないんです。
通勤費管理の業務の軽減のために、システム化するという方法があります。実際にシステム化を行うと、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
鈴木:現在、ほとんどの企業が消費税引き上げに向けた各種システムの改定作業に着手されていますが、通勤費のシステム対策を進められているところは少ないようです。通勤費管理をシステム化することのもっとも大きなメリットは、人手の削減と作業時間の短縮です。私たちが提供している「らくらく定期.net」は、「駅すぱあと」と連携し、定期券の新規発行、解約、自動更新、運賃改定などを行うことができます。来年4月の運賃改定の際は、すでに入力されているデータベースに対し、改定のあった路線を使う人だけを抽出して、一括して変更ボタンを押すだけで作業を終えることができます。時間は15分ほどしかかかりません。
また、申請する社員は連動するWEB地図機能を用いながら、自宅から最寄り駅までの距離計算を行い、バス利用の可否判断や最安値乗り換えをベースにした経路を、社内規程に基づく範囲で自由に選択できます。マイカー通勤時の距離計算も簡単です。システム化することで、社員も手間や時間をかけずに正確な申請ができるようになります。
通勤費の社内規定について、詳細にその条件を定める企業は少ないと聞きます。そのため、人事が属人的に判断することで社員に不公平感も生まれています。システム化すれば、この問題も解決できるのでしょうか。
青田:一般的な通勤費の規定には「合理的かつ経済的な路線の利用を認める」といった程度の表記しかありません。その申請ルートが適正なものかどうかは、人事担当者が個別に判断するケースがほとんどです。合理的に1ルートしか選べない場合は問題ありませんが、中には最安ルート以外に「料金は高いが、時間が短くなる」別ルートがあり、それを選びたいという社員もいるものです。そこで私たちはシステム化を提案する際に、同時に通勤費の規定についてもコンサルティングを行っています。
ここでの解決策としては、たとえば「一番安いルートの料金プラス30%までの誤差は認める」といった許容度を示す方法があります。基準を明確にすれば、社員間の不公平もなくなる。そして条件が固まれば、それをシステムに反映することができますから、たとえば社員が申請登録する際、ルート検索時に「条件に該当するルート」だけしか表示させないようにすることもできます。そうすれば、人事で申請後の再度のルートチェックを行う必要がありません。
このようにシステムで条件を規定し最適なルートが設定できれば、全社トータルでの支給額を減らすことができます。これまでの私たちの例では、平均して2~3%は通勤費が抑えられる効果が出ています。一人18万円で計算すれば、100名で年間36~54万円、1000名なら360万円~540万円も違ってきます。
最近は定期券代を6ヵ月分で支給する企業が増えていますが、異動があった場合などは、払い戻し手続きが面倒です。システム化すれば手続きは簡単になるのでしょうか。
青田:人事院の勧告をきっかけに2004年から公務員の6ヵ月定期利用が広まり、最近は民間企業にも増えてきました。6ヵ月は長く、金額も大きくなりますから、異動や人の入れ替えがあるとその払い戻し業務は大変です。企業に話を聞くと、払い戻しは手続きも複雑で、鉄道会社に電話でわざわざ問い合わせしなければ対処できないケースも多いようです。しかし、「らくらく定期.net」を使えば、解約の日付を入力するだけで交通機関ごとのルールに沿って払い戻しの金額が自動計算され、給与に反映させることができます。
鈴木:手間ということでは、定期区間と営業交通費の利用区間の二重払いの確認も面倒なものです。私たちは営業交通費などの旅費を精算する「らくらく旅費.net」というシステムも提供しています。これを「らくらく定期.net」とセットで導入すると、定期券区間が含まれている場合には自動で控除計算をしてくれます。すると通勤費と交通費の二重払いが防げ、この点でも費用削減になります。
運賃改定を“戦略人事”実現のチャンスと考える
人事部もコスト削減・利益創出を意識し、それを実現しなければならない時代になっています。そのために今後、人事担当者はどのように仕事へ取り組み、コストへの意識を持つべきだとお考えですか。
鈴木:人事部が管轄する業務は、ますます広がっています。給与計算や人員配置だけではなく、人材育成、目標管理、制度改革や、コンプライアンス策定、情報セキュリティ対策、メンタルヘルスといった仕事がどんどん加わってきています。そのうえ、休日消化の推進や働きやすい環境づくりまで求められる時代です。「今はいくらでも時間や人手がほしい」というのが人事の本音ではないでしょうか。
先日、正社員1000名、パート・アルバイト3000名で計4000名の企業に訪問したのですが、それだけの人数でありながら、人事部は10名しかいません。それで2週間以内で給与を計算して振込データをつくらないといけないのですから、人事らしい仕事ができるのは月に1週間程度しかないそうです。これでは、時間がいくらあっても足りない。給与計算の中でも、通勤費の管理業務は時間的、人手的に大きなシェアを占めていますから、システムを上手く使ってほしいと思いますね。
今回の運賃改定は「戦略的な人事」となるためにも、よい機会となりそうですね。
青田:システムを導入することで、平等な基準がつくられ、適正な通勤費を支給でき、作業時間を大きく減らすことができます。その分、生産的な業務に時間を費やすことができる。これからの人事部は内向きではなく、外向きの業務に時間をかけるべきです。そういう意味で今回の運賃改定は、比較的変わりにくい人事業務にメスを入れる、とてもよい機会だと思います。
鈴木:システム化ができれば、通勤費管理の業務も正社員でなく、パートやアルバイトで処理できるようになります。正直、社内に「通勤費のプロ」を育てても仕方がないわけですから、そのことをよく考えて業務を整理していくべきです。
私たちがこれらサービスを提供する理由は一つ。「システム化によって、ホワイトカラーの生産性を上げる」ことにあります。今回の運賃改定を業務改善はもちろん、戦略人事の実現への契機にしていただきたいと思っています。
鈴木氏、青田氏のお話から、運賃改定による人事業務の負担が大きいことがおわかりいただけたと思う。直前になってあわてることのないよう、今からしっかりと業務の整理やスケジュールの管理を行ってほしい。そのためには、システムの活用は大変有効な手段と言えるだろう。ただし、単に業務の効率化だけを実現するだけでは意味がない。その先には、人事としてさらなる「成長」を見据える必要がある。業務効率化によって生じた「時間」を使って、人事は何をすべきなのか――。“戦略人事”として、従来の管理業務をこなすだけではなく、人事部門自体が経営戦略を描き、利益の創出やコスト削減を実現していかなければならない。それが、人事部門のみならず、自社全体の成長にも大きく寄与することになるからだ。
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