人材紹介会社から紹介された人材は完璧だと思い込んでしまう企業
突飛な質問を企業にぶつける応募者
企業と人材紹介会社の信頼関係
あなたが推薦してくれた人材だから採用したのに…
ウチの社風に合わないような気がするんですよ…
「先月入社してもらったTさんのことですが…」
取引先であるY社長から電話があったのは、Tさんという人材を採用してもらってしばらくしてのことだった。
「実は、ちょっと彼の様子がおかしいんですよ。勤務態度に問題があるというか…」
「分かりました。すぐお伺いしてよろしいですか? 詳しくお話をお聞かせください…」
私はすぐに訪問することにした。企業のフォローも人材紹介会社の大切な仕事である。紹介した人材が入社した後は、採用した企業の社員になるので、何か問題が発生したとしても、企業側で解決するのが普通である。逆にいえば、社長自ら人材紹介会社に電話してくるということは、よほど大きな問題が起きていると考えなくてはならない。
普段は多忙なY社長だが、幸い翌日に時間をもらえることになった。
「いやあ、Tさんのことなんだけど、ちょっとウチと合わない気がするんですよね…」
Y社長からは単刀直入な言葉が飛び出してきた。すでにTさんとは数度話し合い、前日からは会社にも来ていないという。
Tさんは経営企画や事業戦略を担当するマネジャー候補として入社していた。Y社長の会社は、いわゆるベンチャー企業で、社員はまだ100名もいない。それだけに、前職でベンチャー企業でありながら上場を果たした成長企業に在籍し、事業企画などを経験していたTさんには大きな期待がかかっていたはずなのだが…。
「いったい何がおかしかったのでしょうか?」
「たとえばね…」
Y社長によると、とにかくTさんは横柄なのだという。自分が経験者だという意識があるからか、先輩であるはずの既存の社員をアゴで使う。あるいは、自分の外部人脈を使って仕事をすることもあるのだが、そんな時の電話も、「まるで自分の部下に何かを命令するような口調で仕事を頼んでいる…」のだという。
「うちはサービス業でしょう。そういう偉そうな態度っていうのは、たとえ社内でも良くないと僕は思うんですよ。周囲への感謝や気配りができないと…ね」
自信を持って推薦してくれた人材でしょう?
「その傾向はね、面接の段階からちょっとあったかもしれないな…」
Tさんの態度を指摘され、ひたすら恐縮していた私は、「え?」と驚いた。
「つまり、社長も実際にTさんを面接されたわけですよね…」
Y社長はうなずいた。
「もちろんです。うちはまだ100名もいない規模ですからね。それに、マネジャー候補の採用に関しては、1次面接から私が自分で行なうようにしていますよ」
そういえば、Tさんから「1次面接から社長に会うことができて良かった。2次面接はほとんど勤務条件の詰めだけだった…」という話を聞いていたのを思い出した。
「面接の時に社風に合わないと思いながら採用されたんですか…?」
私は恐る恐る聞いてみた。自社に合う人材を採用するための面接ではないのか。
「だって御社がうちに合うと思って推薦してくれた人材でしょう? 良い人材だから推薦してくれたんだと、こちらは思っていますよ。だから、面接の時にもちょっとおかしいな…とは感じたんだけど…」
Y社長としては、「君が自信を持って紹介してきた人材だから、信じたんだよ」と言いたかったのだろう。
「そうだったんですか…」
確かに人材紹介会社は、企業に人材を紹介する時に「推薦する」という言い方をする。しかし、それは「こんな方はいかがでしょうか」というレベルでの推薦であって、「ぜひこの方の採用をお勧めします」という意味合いではない。
そういわれてみれば、Y社長は人材紹介を利用するのは今回が初めてだった。Y社長の知り合いの方からの紹介だったこともあって、人材紹介のシステムについては十分理解していると、こちらにも思い込みがあったのかもしれない。
「誠に申し訳ございませんでした…」
私は改めてお詫びをして、人材紹介会社のシステムについて再度説明をしたのだった。
面接担当者もタジタジ…
企業を深く知りたい応募者からの突っ込み
またこの会社に入社したいですか?
「面接の想定問答集が普及しているんでしょうね…」
こう話してくれたのは、採用担当のDマネジャーである。中途採用だけでなく、新卒採用も担当しているので、学生も含めて日々数多くの応募者の対応をしている。そんな中での率直な印象だそうだ。
「企業側の定番の質問の一つに、自分の長所と短所を答えてください、というものがありますよね。これは応募者の回答がパターン化している質問の一つですよね。たいていの人が、自分の長所はこれこれ、短所はその裏返しで…と答えますよ」
「たしかにそうですね…」
一番多いのが、私の長所は積極的で外交的なところ、短所は積極的すぎてそそっかしいところです…というパターンだそうだ。もちろん、相手企業の業種や希望職種に応じて内容を多少変えるくらいのことは誰でもやっている。実際、そんなふうに答えるのが最も無難、と面接対策の参考書に書いてあることもある。
一方、応募者も質問には苦労するようだ。なんとか相手の想定外の質問をして本音を引き出したい…と考えるのだろうが、その結果として、珍質問もけっこうあるらしい。
「新卒の学生さんからは、『自分が学生だとして、もう一度この会社に入社したいと思いますか?』という質問もよくありますよ」
たぶん、この質問をする学生は「社員の満足度」を知りたいと思うのだろう。しかし、この質問でそれが分かるかといえば微妙である。
「大体、就職して何年も経って自分の会社に問題点を感じない人のほうが少数派ですよね…」
試されているのは満足度? それとも対応力?
「そうなんですよ!」
Dマネジャーはわが意を得たり! とばかりににっこり笑った。
「個人的には、自分の会社に100%満足している人のほうがおかしいと思いますよ。問題意識がないということですもんね。それに、仕事をしながら他社とも交流して視野が広がると、他に良い企業がたくさんあることも分かってきますからね。他に良い企業を知らないというのは、ある意味で視野が狭い、あるいは情報感度が低い…ともいえるわけです」
Dマネジャーの話の勢いが止まらなくなってきた。
「その質問を社員全員にアンケートでぶつける…というのならまだ分かりますが、たった一人の面接担当者に質問してどうなるんでしょうか。その担当者が、その企業の社員を代表する人かどうか分からないですよね。もし、一風変わった人だったらどうするのでしょう。その人の回答で、自分の人生が左右されてしまってもいいのでしょうか」
もちろん、応募者の立場からいえば、その一風変わっているかもしれない人に合否の判断を握られているわけなのだが…。
「でも、そういう想定外の質問にもきちんと対処できる会社かどうか、は少なくとも分かるかもしれないですね。案外、社員の満足度ではなく『対応力』を見ている質問なのかもしれないですよ…」
私がそう指摘すると…
「そうかぁ…」
Dマネジャーは腕組みをして考え込んでしまった。面接にもさまざまなノウハウが必要ということのようだ。