有賀 誠のHRシャウト!人事部長は“Rock & Roll”
【第19回】多様性を競争優位に(その2)
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回に続き、多様性に関する私自身の気づきや、ビジネスとの関わりについて紹介したいと思います。
「それはセクハラであり、パワハラです!」
私がユニクロで生産担当の役員をしていたとき、いつもポツンと一人でチームの輪から外れているスタッフがいました。いわゆる仲間外れ状態です。気になっていたので、「〇〇さん、皆と一緒にランチに行かない?」「今晩カラオケ行くんだけど、どう?」と、時々声をかけていました。何とかチームの一員になってほしかったのです。しかし、返事がYESであったことはありません。
何回かのそのような会話の後、彼女からこのように言われました。
「私が他の人たちと交流をしたくないことは、もうおわかりのはずです。その上でもまだ誘う有賀さんの行為はセクハラであり、パワハラです!」
マネージャーとして、チームワークやメンバーに疎外感がないようにと留意した結果の「セクハラ」「パワハラ」呼ばわりです。ショックでした。もちろん、ハラスメントの定義として「被害者がどのように感じたか」が最も大事な要素であるわけで、彼女がそう言うのであれば、それはハラスメントにもなってしまうわけです。
キャプテン・タイプのリーダーである自分としては「よかれ」と思ってとった行動が、相手からすると迷惑であったわけで、「マネージャーって難しい……」と痛感した体験でした。
このスタッフとは時間をかけてコミュニケーションをはかり、彼女が選んだメンバーと一緒にケーキを食べに行く、といったことができるようにはなりました。
「社長、この顔ぶれでは……」
ユニクロを退任した私は、その後エディー・バウアーというファッション・ブランドの社長に就任します。日本上陸後10年、売上は150億円規模。急成長ということはないものの、堅実な固定ファンに支えられたビジネスを展開していました。掲げた戦略は、ブランド力、店舗、ウェブ・ビジネス、組織という四つの強化テーマからなります。
ある日の経営会議で、十数人の幹部社員が居並ぶ中、営業部長(女性)が口を開きました。
「社長、この顔ぶれを見てください。女性は私一人です。もっと経営会議のメンバーに女性を増やしてください。女性活躍推進とか、男女平等とか、そんなことが言いたいのではありません。わが社のメンズ商品とレディース商品の売り上げは半々、つまりお客さまの半数は女性です。財布でみると(夫の服を妻が購入するケースが多いので)、7割が女性かもしれません。その7割のお客さまの声を、この経営会議の中、私一人で代弁する自信はありません。だから、女性の部長を増やしてほしいのです」
私は彼女の言う通りだと思いました。お客さまの声を経営判断に反映させるための多様性推進です。
そこで、新たに二人の優秀な女性マネージャーを部長に登用し、経営会議に参画してもらいました。そして可能なかぎり、店長が男性の場合には副店長に女性を、店長が女性の場合には副店長に男性を配置しました。
マーケットは多様です。その多様なお客さまのニーズに応えるためには、組織にも戦略的に多様性を組み込んでいかなければならないのだと気付かされたエピソードでした。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
ダイバーシティは目的ではない。
それはマーケットに寄り添うための戦略的アクション!
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。