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映画字幕翻訳者

「1秒間に4文字」で意味を伝えるテクニック。
狭き門だが、新たなメディアに可能性の兆し。

昭和30年代のような映画黄金期(年間動員数11億人強)とは比較にならないが、ここへきて日本の映画産業が活況を呈している。2005年度の国内での動員数は1億6045万人、市場規模は1982億円で、コンサート、演劇、スポーツなどの他の娯楽産業を大きく上回る(ぴあ総合研究所株式会社発表のデータによる)。最近は特に日本映画が好調といわれるが、外国映画の人気も根強く、年間約400本が上映されている。今回は、外国映画を上演する際には欠かせない「字幕」にスポットを当て、“映画字幕翻訳者”の仕事に迫っていく。

約80年の歴史を持つ映画字幕

映画が誕生したのは、1800年代後半。当初はサイレント(無声映画)だったが、1927年に世界で初めて音声がついた「ジャズ・シンガー」が登場。これ以降、映画はトーキー(発声映画)が主流となる。

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日本で初めて映画に字幕がつけられたのは、1931(昭和6)年公開の「モロッコ」(1930年・米国、主演:ゲーリー・クーパー(左)、マレーネ・ディートリヒ(右))。この映画の大ヒット以降、日本語字幕が主流となった。

日本で外国映画を上演する際に、初めて翻訳された字幕が付いたのは、1931(昭和6)年。ゲーリー・クーパーとマレーネ・ディートリヒ主演の「モロッコ」(1930年・米)だ。この映画の大ヒットをきっかけとして、外国映画には字幕が挿入されるのが定番になっていった。

外国映画の翻訳については、字幕のほかに、元のセリフを消して声優が日本語のセリフを代わりに話す「吹き替え」もある。以前は子供向けのアニメ映画などが主流だったが、最近ではさまざまな映画の吹き替え版が上映されている。「ターゲットを絞らず、幅広い世代を対象とした作品が増えたことが一因。また、郊外に家族をターゲットにしたシネコン(シネマコンプレックス)が多数オープンしていることも、影響しているようです」(業界筋)。最近では、「吹き替え版でなければ観ない」という観客も増えている様子。しかし、やはり外国映画の翻訳の王道は、長い歴史を持つ「字幕」といっていいだろう。

映画字幕は「要約翻訳」

映画字幕翻訳者の仕事については、太田直子著「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」(光文社新書)が詳しい。太田氏自身が映画字幕翻訳者であることから、その仕事ぶりが詳しく、且つユーモラスに述べられている。以下、簡潔にその仕事内容を見ていきたい。

翻訳に当たってはまず、映画のビデオテープと原語の台本を渡される。翻訳者は映画の音声を聞きながら翻訳するのではなく、台本を読みながら翻訳していく。翻訳の期間は、1本当たりわずか1週間ほど。場合によっては、3~4日という場合もあるという。映画1本のセリフは1000ほどあるので、かなりハードな仕事といえるだろう。

映画字幕の翻訳は、書籍などの翻訳とは大きく異なる。字幕は、俳優がセリフを話しているのに合わせて出るが、人間が文章を読むスピードは限られている。まして、映画の場合には、観客は映像を見ながら字幕を追わなければならない。文字が多過ぎると、読み終わる前には字幕が消えてしまうことになりかねない。そのため、「1秒=4文字」という制限があるという。本来のセリフの内容を、全て字幕で伝えることは不可能に近い。太田氏は映画字幕を「要約翻訳」だとしている。

つまり、映画字幕翻訳者は限られた文字数のなかで、最適な表現を考えなければならないということ。外国語だけではなく、日本語のボキャブラリーの豊富さも求められる。さらに、映画はテーマも幅広いため、スラングや歴史、社会背景など、さまざまなことに通じている必要があるだろう。

プロデビューへの「狭き門」

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サイレント映画が主流だった時代、日本では映画の進行に合わせて、「活動弁士(活弁)」が解説するスタイルが人気を集めた。徳川夢声(写真)のような人気弁士も誕生した。

では、どうすれば映画字幕翻訳者になれるのか? 映画字幕に限らず、翻訳者を目指す際には、まず翻訳学校に通うケースが多いようだ。翻訳について学んだ後は、自分の努力次第。人脈を使って映画字幕の制作会社に仕事のあっせんをお願いしたり、プロで活躍する人に仕事の紹介をお願いしたり…。しかし、そう簡単には仕事を得ることはできないのが実情だ。

もともと、映画字幕の翻訳を本業にしている人は少ない。先述の通り、1年間に外国映画が上演される本数は約400本。翻訳者1人当たりが年間50本の翻訳を手がけるとすれば、10人未満で事足りることになる。ちなみに、映画字幕の翻訳の場合、作品や翻訳者のキャリアにもよるが、1本当たりの翻訳料は50万円前後だという。

そこで注目されるのが、BSやCS放送、DVDソフトなどでの翻訳だ。映画に限らず、スポーツ、ニュース、ドラマなど、翻訳が必要なソフトは多い。劇場公開の映画にさえこだわらなければ、それ以外のメディアで活躍することも可能だろう。もちろん、ここも大変狭き門であることは間違いないが…。さらに、BS・CS放送などでの翻訳のギャラは1時間番組で数万円といったところ。「生活のために他の仕事と掛け持ちしている人も多く、翻訳だけで生計を立てていけるのは、限られた人たちだけのようです」 (事情通)

サービス向上への大きな一歩

最後に、今回のテーマからは少し話が外れるが、2007年春、映画字幕について大きな動きがあったので取り上げておきたい。

日本人女優の菊池凛子が耳の不自由な高校生役を演じ、米・アカデミー賞の助演女優賞候補になったことで、話題を集めた外国映画「バベル」。モロッコ、メキシコ、アメリカ、日本が舞台となる本作品は、当初、日本で上映する際、外国語の会話と手話には字幕が付くが、日本語の会話には字幕が付かない予定だった。

菊池凛子の役柄に加え、実際の聴覚障害者も出演していることから、聴覚障害者の方たちからの関心が高かった同作品。試写会では日本語の会話に字幕が付いていなかったため、「公開の際には字幕を付けてほしい」という声が多かった。この動きは署名運動に繋がり、結果、約4万人もの署名が集まって、配給会社はすべての上映館で字幕を付けることを決定した。

聴覚障害者にとって、字幕付きの外国映画は内容をしっかり把握できるので、人気が高い。しかし、字幕が付かない日本映画は、聴覚障害者には敷居が高いもの。もちろん、これまでに一部の日本映画でも、日本語字幕付きの作品はあった。しかし、上映されている劇場数が少なく、期間も限定というケースが多かったのが実情。そういった意味では、映画業界にとって「バベル」での字幕挿入は、幅広い客層に楽しんでもらうという、サービス向上に向けた大きな一歩だったといえるだろう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

あの仕事の「ヒト」と「カネ」

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