ハチの巣ハンター(ハチの巣駆除業)
夏がくるたび日常をおびやかす小さな殺人鬼
スズメバチから住民を守れ!
夏がやってくると、私たちの生活をおびやかす小さな殺人鬼があちらこちらで猛威を振るい始める。彼らは、森に人家、橋の下などに潜み、近づく人間を警戒して襲ってくる。その正体は、スズメバチだ。厚生労働省の調べによると、毎年20人ほどがハチの刺傷により亡くなっている。2017年9月には、車いすの80代女性がスズメバチの襲撃を受け、150ヵ所以上を刺され死亡するという痛ましい事故も起こっている。ハチの被害におびえる住民たちが助けを求めるのが、ハチの巣ハンターこと駆除業者だ。攻撃性の高いハチに、冷静な判断をもって駆除に挑む職人たちの働き方に迫った。
スズメバチはなぜそんなに恐ろしいのか
ミツバチ、クマバチ、アシナガバチ。一口でハチと言っても、いろいろな種がいる。おとなしく、毒性の低い種類もいるが、毎年被害が報告されるスズメバチは、毒性も攻撃性も高い。ハチの中でも最大級で、スズメバチが作る巣は大きなものだと直径60センチほどにもなる。駆除の依頼が最も多いのが、このスズメバチだ。
一度刺すと死んでしまうミツバチとは違い、スズメバチは持っている毒液が続く限り、何度でも刺すことができる。4ミリほどの大きな針で刺されると、激しい痛みとともに患部はパンパンに腫れ、症状がおさまるのに1週間はかかるという。さらに怖いのは、アナフィラキシーショックだ。過去に刺された経験がある人は、体内にハチ毒に対する抗体がつくられる。そのため、二回目以降に刺されると、抗体がアレルギー反応を起こし、けいれんや意識障害といった命にかかわる症状をも引き起こす可能性があるのだ。毎年、20人ほどがハチによる被害で命を落としている。駆除にあたって高い技術が必要となるのは言うまでもない。
スズメバチの巣は、自然の多い山の中にあると思われがちだが、人家や人気のある場所につくられていることも多い。スズメバチは、人家に巣を作った方が自然災害から難を逃れやすいことを知っているのだ。薬をまいたが効果がなかったという報告もされており、その適応能力は年々増していると話す専門家もいる。
スズメバチが活発に活動するのは夏から秋にかけて。幼虫がかえり、女王蜂が力をつけていく時期だ。気温が高くなると巣の中もかなりの高温になり、ハチが外に出る頻度が高くなる。そのため、夏になるとスズメバチの被害が増え始める。ちなみに、巣の大きさは9月頃にピークを迎える。冬を越すのは女王蜂のみで、働き蜂は死んでしまう。
個人経営のハンターには心強い、集客面をサポートしてくれるサービスも
ハチの巣駆除の要請先としては、二つの選択肢がある。一つは自治体のハチの巣駆除サービス、もう一つは民間の害虫駆除業者だ。自治体によっては、ハチの巣駆除を無料や格安で行っているところもある。しかし、自治体からの命を受けて対応する人たちが専門業者であるとは限らない。せっかく巣を撤去したのに再度作られてしまった、というケースもあるようだ。緊急性の高いときや確実に駆除したい場合は、専門知識と技術を持ったハチの巣ハンターの出番となる。ハンターはクライアントから要請されると、まず現場の様子を見に行き、ハチの種類や大きさによって対応方法を見極める。見えている場所に巣があるとも限らず、木の空洞部分や、民家の屋根裏など、時には大がかりな解体作業を求められることもある。巣の状態を確認したら、駆除作業が行われる。防護服や丈夫な手袋、長靴で全身を包み、巣の出口をふさいだのちに、強力な殺虫剤で一気にとどめを刺す。高所やハチの活動が活発な時間帯の作業も避けられない過酷な作業だ。
ハチの巣ハンターは、害虫駆除会社のほかに個人で営んでいるケースも多い。最近では個人経営のハンターと依頼側をつなぐポータルサイトや仲介業者も登場している。全国から業者や職人を募り、審査に通過したところを加盟店として登録させる仕組みで、加盟店として登録されると、集客面でのメリットを得られる。今や地域に根付いたサービスでもインターネットでの集客が必須だ。そのノウハウを持ち合わせないハンターにとっては、こういった仲介サービスを活用する方法もある。ただし、紹介料として差し引かれる分を考慮すると、報酬が割安となることは避けられない。
ハチの巣ハンターは、町のヒーロー
ハチの巣駆除は命がけの仕事である。ハチの生態に関する知識はもちろんのこと、状況を正確に判断し、臨機応変に対応ができる能力が求められる。では、ハチの巣ハンターになるには、どうすればいいのか。公的資格や免許は必要がなく、養成学校のように駆除方法を教えてくれる機関もないため、まずは駆除会社に入社するのが一般的だ。現在活躍しているハチの巣ハンターの中には、腕一本でハチに対峙し経験を積んできたタイプもいるが、よほど生物に対する知識がない限りはおすすめできない。経験を積む中で、アナフィラキシーショックで命を落とす危険性もあることを考慮すれば、防護服や作業道具などが用意されており、OJTのように現場で学ばせてくれる師を見つけるのがよいだろう。一方、駆除ハンターとして起業する場合には、管轄の都道府県の条例に従い、届出や許可を得る必要がある。強力な殺虫剤や毒薬を使用するため、事業所での適正な管理が必須だ。
では、収入面はどうだろうか。駆除一件あたりの相場は、ミツバチで8,000~10,000円程度。スズメバチで13,000~20,000円程度だ。引っ張りだこのハンターの場合、1年に500件近く出動することもあるようだ。仮に、13,000円の案件を300回出動したとすると、合計で390万円となる。ガソリン代や道具代などの経費を差し引くと、年収はもう少し抑えられそうだ。ハチの巣ハンターの中には、ハチミツを製造する養蜂場の経営者としての顔も持つ人もいる。また、ハチだけでなく、ほかの害虫の駆除を行っているケースも多い。このようにほかのビジネスにも手を広げながら、ハンターを行うのが現実的な選択となるかもしれない。だが、住民の安心安全を守ったという正義感は何にも代えがたい。被害を未然に防ぎ、住民から心のこもった「ありがとう」を得られるこの仕事は、ヒーローのようなやりがいもあるのだ。
この仕事のポイント
やりがい | 人々の安全を守る正義感を感じられること。撤去が終わったあとの大きなハチの巣を目にしたときに、依頼者が見せる安堵の表情も、モチベーションにつながるものの一つだろう。 |
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就く方法 | 現在のところ、公的資格や免許は必要なく、養成学校なども存在しない。OJTで駆除を学べる害虫駆除会社に就職するか、すでにハンターとして活躍している人に弟子入りするなどの方法がある。 |
必要な適性・能力 | 夏から秋にかけて、屋外で脚立に何十分も立ったままスズメバチと格闘するため、体力の必要な職業だろう。それと同時に責任感や冷静な判断力が求められる。 |
収入 | 業に所属している場合には固定収入を得られるが、個人経営のハンターは出動件数に応じた収入となる。例えば年に300件出動した場合、年収は350万円ほどになる概算だ。 |
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。