ボディビルダー
究極の肉体が集う「美」の競技
にこやかな笑顔の舞台裏とは
隆々とした筋肉に、浮き出る血管。水着姿でポーズを取り、肉体美を披露するボディビルダー。人間離れした体躯は、いつ見ても初めて目にしたかのような衝撃を覚える。ボディビルダーがどんなビジュアルであるかは誰もが知っているが、彼らがどのような生活を送り、どのように生計を立てているかを知っている人はそう多くないだろう。ステージ上で鍛え上げられた筋肉を披露するまでの舞台裏とは――。
ボディビルは「美」を競うコンテスト
ボディビルは、れっきとした競技スポーツだ。自分の肉体を最大限に使った芸術的な要素が大きいため、体操やフィギュアスケートに近い。ボディビルの大会では、「どれだけ筋肉が大きいか」という筋肉の総量や力の強さではなく、「バランスよく、きれいに筋肉がついているか」を審査員が点数化する。
ボディビルダーの仕事は、ボディビルディングの大会に出場して入賞を目指すこと。出場者はまず予選にあたる「規定ポーズ」で競い、予選を通過したファイナリストが好きな音楽に合わせ自由に肉体を披露する「フリーポーズ」の審査を受ける。
国内にはいくつかのコンテストがあり、それぞれに特色がある。代表的なところでいうと、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)、NPCJ(一般社団法人NPCJ)、ベストボディジャパンなど。中でも国内最大規模のJBBFは歴史が長い分ハイレベルで、毎年10月に開催される「全日本ボディビル選手権」では、各エリアの優勝者たちが競い合い、事実上の日本一をかけて争う。この大会で3位以内に入ると、世界大会への出場権を得ることができるため、世界レベルのステータスを目指して、激しい戦いが繰り広げられる。
JBBFには、いかにもボディビルダーといった風貌の大きな筋肉を持つ選手が並ぶが、NPCJは、レベルに応じて多様なカテゴリー設けていることが特長だ。またベストボディジャパンは、ほかのコンテストよりもライトで、「リアルなかっこよさ」を重視した大会だ。
コンテストでは、前面、左側面、背面、右側面、そして前面と、回転するように次々ポージングをして審査員にアピールする。予選では全員が同じポーズをするが、正式なポージングは8種類。よく見るのは「フロント・ダブル・バイセップス」と呼ばれる、両腕に力こぶをつくるものだ。また、「サイド・チェスト」と呼ばれるポーズになじみがある人も多いだろう。お笑い芸人のなかやまきんに君がよく見せるポージングの一つで、前で手を組み片側に寄せることで現れる胸筋の厚みや腕の太さ、脚、肩の大きさを表現する。美しいとされるのは、皮下脂肪のない輪郭のはっきりした筋肉。当然ながら栄養への配慮やトレーニングは欠かせない。
食べることもトレーニングのうち
実はボディビルダーは、年中ムキムキな体つきというわけではない。ほかのスポーツ選手が試合当日にピークが来るように調整するのと同様、ボディビルダーも大会当日に最も良いコンディションになるよう、トレーニングと食事をコントロールしている。コンテストはだいたい5~12月に開催され、その時期は「オンシーズン」と呼ばれる。ボディビルにおけるベストコンディションとは、筋肉がパンプアップし、体脂肪は極限までそぎ落とされた状態だが、「健康に良い」とは言いがたい。そのため、「オフシーズン」にはあえて体重を増やし、オンシーズンが近づくと減量して仕上げていく選手が多いようだ。
では、ボディビルダーの生活スタイルとはどのようなものなのか。体づくりに欠かせないのは、筋力トレーニングだけではない。「食べるトレーニング」と言われるくらい食事も重要だ。ボディビルダーにとって、食事を抜くのはもってのほか。いくら筋肉を酷使し負荷をかけても、筋肉が新たにできあがるための栄養がなければ意味がないのだ。
ボディビルダーは1回当たりの量を少なくし、一日に6回ほどに分けて食事をとることが多い。食事の回数を増やすと通常より頻繁に筋肉へアミノ酸を届けることができ、厳しい筋トレによって生じた負担や損傷が回復しやすくなるからだ。
食事の内容は、体質にもよるためまちまちだが、タンパク質を意識して摂取するのが基本だ。毎食40グラムの摂取が目安と言われている。高タンパクな牛肉の赤身ステーキや鶏の胸肉、鮭、豚のヒレ肉などをよく食べるそうだが、世界には完全菜食主義の「ビーガン・ボディビルダー」も存在する。彼らは、動物性タンパク質の代わりに、大豆やその他の豆類、小麦のグルテンや、ソバ、キノコなどを食べているという。
ボディビルダーは稼げる仕事なのか?
結論から言って、今の日本ではボディビルだけで生計を立てていくことが難しい。コンテストの受賞歴はステータスを表す指標にはなるが、国内のボディビルコンテストは他のプロ競技とちがって優勝しても賞金が出ないのだ。本場アメリカでさえ、優勝賞金は約2万ドル(約220万円)と、それほど高額ではない。
では、どのように生計を立てているのか。現在JBBFには、約3,000人の男性ボディビルダーと約300人の女性ボディビルダーが登録されているが、ボディビルのみで活動しているのはわずかに一人、“BIG HIDE”と呼ばれる山岸秀匡さんだけである。山岸さんは、社会人経験を積んだ後、アメリカでのボディビル留学を果たし、帰国後アジア選手権80kg級優勝を機にプロ転向を表明。世界最高峰の「ミスターオリンピア」では9位につけ、アメリカのサプリメントブランドとのスポンサー契約を果たしている。しかし、プロで活動するボディビルダーは世界を見渡しても200人ほど。なかなか厳しい世界であることがわかるだろう。多くのボディビルダーは、トレーニングジムを経営したり、全く別の本業についていたり、何かしら別の収入源を持っている。
ボディビルは、「美」を追求する競技であり、収入を得るために取り組むものではない、ということだろうか。優勝賞金のみで暮らすことは難しいとなると、現状では別に本業を持ちながら自身の鍛練を積むという生活が、ボディビル一筋の人々のロードマップとなりそうだ。
この仕事のポイント
やりがい | 筋トレに食事制限、やればやるほど結果として身体に現れる点。結果が見えやすい分、自信がつき、パーソナリティにも影響がありそうだ。 |
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就く方法 | ボディビルダーに資格はないため、自ら宣言すればプロを名乗ることはできる。ただし、それなりの収入を得るにはスポンサー契約をしてくれる企業を見つけなければならない。 |
必要な適性・能力 | 地道なトレーニングと減量を継続できるメンタルの強さと自己管理能力が求められる。また、食事もトレーニングの一環となるため、栄養に関する知識も必要。 |
収入 | 国内のボディビル大会は賞金がないことがほとんどで、優勝賞金のみで生計を立てるのは現段階では難しい。トレーニングジムなどを本業にしながら活動している人が多い。 |
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。