占い師
街頭の鑑定料は1回3000~5000円が相場
雑誌連載やテレビ出演で高収入の売れっ子も。
年が改まって今年はいい年でありますようにと願いながら、七草もすぎれば去年と変わらぬ悩み多き日常。神頼みが無理ならば、せめて優しい励ましの言葉でもかけてもらいたいと願ってか、ますます人気を集めているのが占い師です。当たるも八卦、当たらぬも八卦の時代から、孤独な現代人の相談相手を務めるのが今の占い師であるようで……。(コラムニスト・石田修大)
占い師への客引きで稼いでいた有名作家
昭和25年の『文藝春秋』に、「二人の東京大学生の手記」として、のちの作家・田中小実昌氏が土田玄太名で「やくざアルバイト」という一文を寄せている。まだ焼け跡・闇市の色濃い新宿西口の、「東京××易断所」でのアルバイト体験をつづったもので、「『寅の干支に生れた人は……』と通行人の足をとめ、次第に集ってくる人々に手相人相の講義をして、しかる後……『特に鑑定御希望の方は……』と、五十円の割引券を配って、三代目高島呑酎先生のもとに連れて来る……このパリコミ(引張り込み)ロクマ(易者)の書生になったわけである」という。
パリコミは大正時代に香具師が考え出した商売だそうで、鑑定よりも易断所に客を連れ込むまでの口上が身上という。だからこそ学生バイトの田中氏にもできたのだろうが、「役者的な自己満足もあったし、一人客を引張り込めば二十五円のチョウフ(歩合)、別に飯代が百円、その他易者の先生方からの小遣いもあって、一日平均三四百円。会社勤めではないので、時間の融通もつく。事実私は上々のアルバイトと喜んでいた」という。
盛りそば、かけそばが1杯15円、この年、森永製菓が発売したミルクキャラメルが1箱20円という時代。客引きだけで300~400円の稼ぎというのだから、学生のアルバイトとしては確かに悪くなかったろう。
国家試験もなければ公的な資格もない
それから半世紀余を経て平成も18年となった現在では、占いはますますポピュラーで身近なものになっている。昔ながらの新宿、渋谷、池袋などの街頭はじめ、駅ビルやデパートの占いコーナーはもちろん、雑誌やテレビにも占い師は顔を出し、インターネットや携帯電話での占いも人気を呼んでいる。内容も四柱推命や手相、人相、風水、姓名判断から西洋のタロット占い、さらには血液型、動物占いと枚挙にいとまのない多様さ。
人間の命を預かる医者同様、ときには人の生涯を決定しかねない判断を下すこともあるのが占い師。にもかかわらず、医者のような国家試験もなければ、公的な資格もない。極端な話、占いの本で少しばかり勉強して、今日から占い師でございとすまして開業することもできる商売なのである。占い道具一式あれば仕事はできるし、自分一人で始められるから多額な開業資金も必要としない。アルバイトとしても始められる仕事である。
それだけに、占いに凝って自分でも占い師になろうかという人は少なくない。一般には占いを教える学校や団体で学び、そこの発行する認定証を取得したり、有名占い師の弟子として学んで、占い師としてデビューするケースが多い。街頭の占いで1回3000~5000円ほどが鑑定料(見料)の相場だが、最近では占いをサービスとする会社と契約して、インターネットや電話で相談の相手をし、月収30~40万円を稼ぐ占い師もあるようだ。
延べ250万人以上を鑑定した「新宿の母」
占いの方法も占い師としてのキャリアも千差万別だから、信頼度も稼ぎ高も人によってピンからキリまで大きな幅があるのがこの世界である。テレビに出たり本を出したりするようになれば、当然収入も多くなる。六星占術の細木数子さんなどテレビで見ない日がないほどの引っ張りだこ。歯に衣着せぬ毒舌で人気を集め、占い師としてよりテレビタレントとして売れているといった方がいいかもしれない。
占い師は人を幸せに導く職業という栗原すみ子さんは、若いころ占い師に勇気づけられたことがきっかけで弟子入り、昭和33年に独立して新宿の路上に立つことになった。以来、「新宿の母」とうたわれ、これまで鑑定した人は延べ250万人以上とか。現在でも週に4日は伊勢丹脇で占いを続けている。ラジオ、テレビ出演や雑誌の連載なども多く、売れっ子占い師のトップクラスである。
かと思えば、商社の契約社員をしながら、平日の夜や土日に占い師として働く、パートタイムの占い師もある。また趣味で始めた主婦が親戚や友人に当たると言われ、アルバイトで小遣い稼ぎを始めるケースもある。
カウンセリング技術やカリスマ性も必要
特別な霊感の持ち主でなくとも、占い方を学べば誰にでもできる商売とはいえ、雨や風の吹きすさぶ路上で何時間も客待ちするのは楽ではない。幸いお客がついても、新宿の母など朝から夕方まで客のある間は立ちっぱなしで食事もせず、トイレにも行かないというから、大変な肉体労働でもある。デパートの占いコーナーに席を置ければ随分楽だが、その分場所代やら何やらを支払わねばならない。
占い師の収入は鑑定料×お客の数の歩合制だから、路上で何時間店を開いてもお客がなければ収入もゼロ。といって鑑定料を安くすれば客が増えるわけでもなく、かえって当たらないのではと思われかねない。集客のために必要なのは何といっても的中率、つまりは「よく当たる」という評判だが、同時にお客を納得させるコミュニケーションの能力や会話術、さらにはある種のカリスマ性やタレント性も欠かせぬ要件になる。
学生バイトに客引きをさせる得体の知れない高島ドンチュー先生の時代と違い、現代の占い師は未来予測に加え生き方のアドバイスまで求められる。だからこそ占いの技術に加えてカウンセラーの勉強をする人もあり、中にはファイナンシャルプランナーの資格を取って、金銭面、精神面のアドバイスをと意気込む占い師もある。儲かるかどうかは別にして、古代から未来まで、おそらく決してなくなることのない商売である。
(数字や記録などは2005年12月現在のものです)
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。