ASTD2013 International Conference & Expo
ASTD2013に参加された皆さんの声
最後に、今回、日本からASTD2013に参加された方々より寄せられた、コメントを記載いたします。最新の人材開発、組織開発に関する情報をまさに“体感”した皆さまからの、熱いメッセージをご覧ください。
ラーニングにおいても「キュレーション」という役割に注目
百合岡隆史さん(株式会社博報堂 人材開発戦略室マネジメントプランニングディレクター)
営業職向け研修やデジタルマーケティング関連施策の企画開発・実施を主務としています。最新の人材育成理論や潮流、事例を幅広くインプットしたいと考え、今回のASTDに参加しました。最も印象に残ったキーワードは「Curation(キュレーション)」です。通常「キュレーション」とは、博物館や美術館などで膨大な作品から展示するものを取捨選択し、展示物から展示物へのストーリーを考えることを言いますが、ラーニングにおいてもこの「キュレーション」という役割が重要になってきている、と複数のセッションで語られていました。3日目に行われた基調講演ではジョン・シーリー・ブラウン氏が、デジタルテクノロジーの発達による21世紀の変化に触れ、ナレッジが「ストックの世界」から「フローの世界」へとシフトしたことを指摘していました。この膨大な量の情報があふれる状況下、どこに何があるかを理解し/どう集め/どう見せていくのかを考えることが求められます。あるセッションでは「Sirdar(サーダー):エベレスト登頂の案内人」になぞらえ、その役割を説明していました。登頂するグループのケイパビリティを見極め、必要な資材を判断し、ルートの安全性を判定しながら、目的地である頂上を目指す。この役割の重要性を改めて理解し、腹落ちすることができました。「キュレーション」をキーワードに、育成プログラムの企画開発という自分の役割を再考することができ、非常に有意義な機会でした。
人材育成の新しい風に触れた・・
久田均さん(パナソニック株式会社 人材開発カンパニー研修グループ 技術研修総括)
現在、全社を対象とした技術者教育の企画、開発、実施を担当しております。今回、ASTDには初めて参加しました。もともと技術者で、開発現場にいた経験から技術人材育成を担当しておりますが、このようなグローバルな人材開発の最先端情報に接することができ、新しい風に触れた気がしております。また、各セッションでは、単に講演だけでなく各国の人材育成担当者とのディスカッションや交流も経験でき、多くの刺激を受けることもできました。昨今の急速な環境変化や複雑な課題、様々なストレスに対して、職場のパフォーマンス向上のためにResilience、Motivation、Trust、Mentoringなどのキーワードが聞かれ、また、Generation-Y(Millennial)の育成、Mobile Learning、Social Media Learningなどの新しい教育でも多くの取り組みが始まっていることを実感しました。世界中から集まった人材育成のプロフェッショナルとともに同じ場 で情報共有出来たことも大きな成果だと感じております。最後のClosing SessionでのLiz Waiseman女史の講演で、マルチプライヤー(Multiplier)かディミニシャー(Diminisher)かのリーダーシップスタイルで状況が変わるということが強く印象に残っております。このような経験をもとに、今後はより広い視点で人材育成をとらえ、現業に活かしていきたいと思っておりま す。
対話を通じて形式知化されていない情報を得ることの重要性を知った
浦山昌志さん(ASTDグローバルネットワークジャパン事務局長 株式会社IPイノベーションズ 代表取締役
ASTDの70周年を祝う大会となった、今年のダラス。リーマンショック以降減少していた参加人数は回復傾向にあり、特にインターナショナル(米国外)の参加者が年々増加しています。各地域での活動を活発化しようと、特に中国、インド、韓国、シンガポールなどのアジア地域でのコラボレーションが目立ってきているようです。今年のインターナショナルリーダーミーティングでは、ASTDグローバルネットワークジャパンの活動が高く評価され、特別に表彰を受けました。ASTDとして日本の活動を全世界のモデルにしたいとのコメントもいただき、本当に嬉しく思います。今回特に印象に残ったのは、基調講演のジョン・シーリー・ブラウン氏の「最先端の情報を得るにはエッジに行け」という言葉です。単に大会のセッションを聞くだけではなく、参加している人たちと対話しながら、まだ形式知化されない情報を得なさいということです。今回の大会に参加したことは、自分自身にとって大きな気づきとなりました。
教育は本来創造的な仕事。HRやHRD部門にも、クリエイティブなものの見方が必要
中原孝子さん(ASTDグローバルネットワークジャパン会長 株式会社インストラクショナルデザイン 代表取締役
基調講演者のケン・ロビンソン卿とは、Q&Aセッションを行いました。その際のロビンソン氏のメッセージを共有したいと思います。ロビンソン氏は、何かを「教える」ことを主体として来た学校教育は、子供たちの創造性を阻害してきたと主張します。「本来同じ人間などいないが、製造業時代からの教育では“タスク”を教え込むことにフォーカスが当てられ、“テスト”という適合評価(何等かの標準に合わせてアセスメントする)を行うことが目的になってしまった。教育は本来創造的な仕事であり、人が何かを達成するための学習を支援するものでならなければならない。しかし、現実には“テスト”によって文化の標準化を招き、創造性や人の個性、本来やりたかったことすら見失わせている場合がある」と言うのです。とかく、○○テスト、××診断など、実に多くの“テスト”を使って人を分類しようとしているのがHRやHRD部門ですが、その一方でイノベーションや多様性を活かす組織、人材の活性化が望まれています。クリエイティブなものの見方を失わず、アセスメントにばかり頼ることがないように、という警告だと思いました。
世界中から集まってくる人々との出会いが何よりも重要
西田忠康さん(サイコム・ブレインズ株式会社 代表取締役社長)
昨年のデンバーに続き、今年も刺激的な4日間を過ごしました。ダラスに向かう機内で読んだMITのエリック・ブリニョルフソン教授の著書「機械との競争」に、人間が技術に後れをとっている現状を打破するためには、組織のありかたと人的資本形成におけるイノベーションが必要と書かれていましたが、今年のASTDはまさにその問題意識に合致するものでした。MOOCs、モバイルラーニングなど、スケールメリットと機動性の高いツールの活用が語られる一方で、ストーリーテリングやキュレーションなど、ヒューマンな効果を高める試みも学ぶことができました。しかし、多彩な講演よりもっと貴重なのは、ASTDに世界中から集まって来る人々との出会いです。今年も、オランダ、デンマーク、トルコ、タイ、中国など、さまざまな国の方たちと知り合うことができました。企業の人事部門、ベンダー、コンサルタントなど、いろいろな立場の人がいらっしゃいますが、お互い気構えることなく話ができる雰囲気は大変素晴らしいと感じます。人材開発に携わる者として、いずれ日本でもこのようなイベントを開催できればいいと思っています。
EXPOへの参加を通じて、各国のトレーニング業界の状況を認識
原田慶子さん(ベルリッツコーポレーション シニアマネージャ)
今回初めて参加しましたが、思っていた以上に大きなカンファレンスで、会場は活気にあふれていました。セッションの合間には、EXPOに出展している子会社のブースにいたのですが、EXPOに参加される方は大きく二つのタイプに分かれました。一つ目のタイプは、明確な課題を抱えていて、そのソリューションを探している企業の人材育成担当者。大抵は事前にWebをチェックしていて質問項目は具体的なものばかり。地域別にみるとアメリカ、韓国はこのタイプが多いように感じました。もう一つのタイプは、旬なソリューションを探しに来ているトレーニング会社、団体の方たち。中東、アフリカ、中国の方が多く、ソリューション概要や展開している地域や顧客層についての質問を多数いただきました。それぞれの国のトレーニング業界の状況を示しているようで、大変興味深かったです。
システム設計におけるインストラクショナルデザインの重要性を改めて感じた
下山雄大さん(株式会社人財ラボ eストラテジー担当部長)
今回のASTD-ICE2013では、Learning Technologiesのトラックを中心に受講しました。基調講演でASTDのCEOであるトニー・ビンガム氏は、今年もテクノロジーを活用したラーニングの可能性について示唆。全体でも、Learning Technologiesのセッション数は非常に多く、昨年以上に注目されている事を感じました。セッションとしては、モバイル端末を活用したラーニングアプリや、ゲーミフィケーションによる学習システム、バーチャルクラスルームでの学習など、さまざまなテクノロジーを活用した学習システムが台頭している事を背景に、システム設計におけるインストラクショナルデザインの重要性を改めて感じるものがありました。特に印象的だったキーワードは、「キュレーション」「シナリオ・ベースEラーニング」「Tin Can API」です。キュレーションは、新たに出てきたキーワードではありませんが、膨大な情報に囲まれている昨今、情報を収集し適切な形でまとめ、共有をしていく役割(キュレーター)が必要である事は身近に感じるキーワードでした。ゲーミフィケーションをはじめとした新たなラーニングテクノロジーのシステムも、構築にあたり最も重要視するのはシナリオであり、そのシナリオの作成についてインストラクショナルデザインの要素を活用して適切なフィードバックを促進することを大切にする点は、共感するものでした。また、Eラーニングの仕組みである学習管理システム(LMS)に大きな波が来ていると感じました。それは、新たな規格として可能性を持っている「Tin Can API」の開発です。さまざまな学習に関するシステムが開発されていく中で、いかに学習の測定、管理をするのかは企業にとっての課題ですが、この規格が採用されてくるとLMSでは、他のシステムで学習された履歴を測定、管理する事ができるようになり、企業の教育担当者の業務支援に大きな影響を与える事が想定されます。