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人事の解説と実例Q&A 掲載日:2021/11/08

「管理職」の時間外労働と管理監督者の基準について

「管理職」だからといって残業代は出さなくてよいとは限りません。「管理職」と呼ばれる地位に就いていても、実は労働基準法上の「管理監督者」には該当せず、割増賃金の支払いが必要なケースもあります。管理職が管理監督者に該当するかどうかを判断する基準や、管理職の労働条件に関する裁判例について解説します。

1. 管理監督者とは

労働基準法では長時間労働の防止により、仕事と家庭生活の両立と健康確保を実現するため、労働時間や時間外・休日労働など、最低基準の労働条件を規定しています。一方で規定の適用を除外する対象者を労働基準法第41条第2号で定めており、その一つが「管理監督者」です。

労働基準法第41条第2号では、管理監督者は「監督若しくは管理の地位にある者」と定義されており、労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。したがって、企業は、管理監督者に対して、時間外・休日労働の割増賃金を支払う義務はありません。

このような適用除外が認められているのは、管理監督者が経営者と一体的な立場と見なされるからです。重要な職務・責任を担うため、労働時間などの規制枠を超えた活動を求められる立場にあると考えられています。

ただし、管理監督者でも深夜労働の割増賃金と年次有給休暇の付与は必要です。働き方改革関連法が施行されてからは、労働安全衛生法の改正によって「週の実労働時間が40時間を超えた時間(時間外・休日労働時間)」が1ヵ月当たり80時間超(従来は月100時間超)の従業員から申し出を受けた場合、医師による面接指導の実施が企業に義務づけられています。これは管理監督者も例外ではありません。

2. 管理監督者に該当するかどうかの判断基準

管理監督者に当たるかは、三つの観点から総合的に判断される

厚生労働省の行政解釈によると、管理監督者とは、労働条件の決定やその他労務管理に関して、「経営者と一体的な立場にある者」です。一般的には、部長や工場長クラスを指しますが、企業での役職名にとらわれず、次の3点から総合的な判断が必要とされています。

1)職務内容、責任・権限:労働時間などの規制枠を超えた活動を求められる重要な職務内容と、それに即した責任・権限を有しているか
2)勤務態様:実際の勤務態様についても、労働時間などにおける規制になじまないような立場にあるか
3)待遇:賃金など、地位にふさわしい待遇を与えられているか

経営者と一体的な立場にある管理監督者は、重要な職務内容とそれにふさわしい責任・権限が与えられる必要があります。肩書だけあっても、企業経営の重要事項に関与しない、または裁量が小さく上司の決裁を必要する場合は、管理監督者に該当しません。

さらに、一般社員と同じように労務管理され、自分の出退勤時間を自由に決められない勤務態様で、肩書だけあって、給与などの待遇は一般社員とそれほど変わらない場合も、管理監督者とはいえません。

3. 「名ばかり管理職」とは

「名ばかり管理職」とは、企業が労働者に管理職の肩書を与えて労働時間などの規制外となる管理監督者を装わせ、残業手当などの支払いを免れようとする意図から生まれる、実質的な権限を持たず実態が伴わない管理職です。

肩書だけ管理職で、管理職としての実態が伴わない「名ばかり管理職」が、労使間で訴訟のトラブルにまで発展した例は多くあります。

日本マクドナルド事件の判例

日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)は、2008年1月に、日本マクドナルド株式会社の店長が、自らは管理監督者ではないのに残業手当が支払われていないと会社を訴え、残業代など約750万円の支払いが認められたものです。「名ばかり管理職」が社会的に注目されるきっかけとなった判例として有名です。

裁判では店長が管理監督者に該当するかどうかが争点となり、職務内容や責任・権限、勤務態様、待遇の3点で判断基準が示されました。

1)職務内容、責任・権限:
・店長は、店舗運営について重要な職責を負っていたとしても、職務、権限は店舗内の事項に限られ、原材料の仕入れ先の選定や商品の種類と価格などの重要事項については本社の方針に従う必要があり、企業全体の経営方針についても関与していない
・アルバイトの人事権はあったが、社員に関する人事権があったとはいえない

2)勤務態様:
早退や遅刻に関して形式的には労働時間に裁量があったとしても、シフトマネージャーが確保できない時間帯には自らシフトマネージャーとして勤務するなど、交代勤務や月100時間超の残業などの勤務実態から、自己裁量権があったとはいえない

3)待遇:
店長の下位職であるファーストアシスタントマネージャー(非管理職)の平均年収と比較しても、人事評価によっては金額が逆転する程度の差であり、十分な待遇が与えられているとはいえない

これらを総合的に判断し、当該店長は管理監督者に当たらないという判決が下されました。

チェーン店において管理監督者を判断する要素

日本マクドナルド事件のように、チェーン展開している小売業や飲食業の店舗では、十分な権限や待遇が与えられていないのに管理監督者であるかのように扱われる事例が存在します。2008年9月には厚生労働省から、チェーン店において管理監督者であるかどうかを判断する要素が、通達で具体的に示されました。

次の場合には、管理監督者に該当しないと判断される可能性があります。

1)職務内容、責任・権限:
・採用:店舗のアルバイトなどを採用する実質的な責任・権限がない
・解雇:職務内容には店舗のアルバイトなどの解雇に関する事項は含まれず、実質的な権限もなく、関与もしていない
・人事考課:職務内容に部下の人事考課に関する事項は含まれず、実質的な権限もなく、関与もしていない
・労働時間の管理:店舗の勤務シフト表作成または所定時間外労働の命令に関して責任・権限が実質的にはない

2)勤務態様:
・遅刻、早退などについての扱い
遅刻や早退について、減給や人事考課におけるマイナス評価など、不利益な取り扱いがなされる
・労働時間についての裁量:営業時間中は店舗に常駐など、長時間労働を余儀なくされており、裁量がほとんどない
・部下の勤務態様との差異:マニュアル化された業務に従事するなど、労働時間の規制下に置かれる部下と同じ勤務態様が、労働時間の大半を占める

3)待遇:
・基本給、役職手当などの優遇措置:割増賃金の適用除外を考えると、基本給などの優遇措置が、実際の労働時間数から見て十分ではない
・年収総額:年収総額が、他店舗を含めた当企業の一般従業員と同程度以下
・時間単価:長時間労働を余儀なくされ、賃金額を時間単価に換算すると店舗のアルバイトなどの時給に満たず、特に、時間単価が最低賃金額に満たないと、管理監督者に該当しないと判断される重要な要素となる

これらは、管理監督者性を否定する要素ですが、一つ当てはまらないからといって、ただちに管理監督者と見なされるわけではありません。あくまで総合的に判断されます。

4. 管理監督者に関する裁判例

裁判所が、管理監督者をどのように判断しているかを理解するために、過去の裁判例の中から代表的な事例を紹介します。

管理監督者には当たらないと判断された裁判例

裁判では、管理監督者性が否定され、企業側に厳しい判断がなされる傾向があります。

レストラン「ビュッフェ」事件

レストラン「ビュッフェ」事件(大阪地判昭和61年7月30日)は、ファミリーレストランの店長が時間外労働の割増賃金を求めて訴えたもので、店長が管理監督者に当たるかどうかが争点となりました。

1)職務内容、責任・権限:
・店舗の従業員を統括し、採用にも一部関与していたが、従業員の労働条件を決定する権限はなかった
・店舗の営業時間に拘束されて、出退勤の自由や裁量権はなかった

2)勤務態様:
・店長の職務に加えて、コックやウエーターの職務、レジや掃除など、一般従業員と同じ職務全般を担っていた
・タイムカードで勤怠管理がされていた

3)待遇:
・店長手当は支給されていたが、月2〜3万円と十分ではなかった

以上から、当該店長は管理監督者には当たらないと判断されました。

ほるぷ事件

ほるぷ事件(東京地判平成9年8月1日)では、出版会社の販売主任が時間外、休日の賃金を求めて提訴したもので、管理監督者に該当するかどうかが争点となりました。

1)職務内容、責任・権限:
・支店長会議に参加することはあったが、支店の営業方針や販売計画などについて、決定・指揮命令を行う権限はなかった

2)勤務態様:
・タイムカードで勤怠管理がされており、自己裁量権はなかった

3)待遇:
・営業所販売課長から営業所長になったが、資格給が5,000円増加しただけである

以上から、当該販売主任は管理監督者には当たらないと判断されました。

また、ほるぷ事件では、事業外労働のみなし労働時間制が適用されるかどうかも争点となりました。本件のような、展示販売場におけるプロモーター社員の業務については、時間や場所が限定され労働時間の算定は困難ではないと判断され、適用が否定されています。

管理監督者であると判断された裁判例

管理監督者性の肯定例は少なくなっています。

徳洲会事件

徳洲会事件(大阪地判昭和62年3月31日)では、医療法人の人事課長が割増賃金の支払いを求めて裁判で争われたもので、人事課長が管理監督者に該当するかどうかが争点となりました。

1)職務内容、責任・権限:
・看護師の採用業務計画を立案・実施、人事職員の指揮・命令を行う権限があった
・一般看護師の採否や配置を決定できる人事権があった
・師長クラスの看護師における採否や配置の最終決定は理事長が担っていたが、決定手続きに意見するなどの関わりは持っていた

2)勤務態様:
・自らの労働時間は自由裁量に任せられていた
・タイムカードを押す義務はあったが拘束時間の提示にとどまり、厳しい制限は受けていなかった

3)待遇:
・課長職としての責任手当、時間外労働の実態にかかわらず、その分の手当として特別調整手当が支給されていた

以上から、当該課長は管理監督者に当たると判断されました。

管理監督者の基準については厚生労働省や各労働局が資料を発行しています。ここで取り上げた参考資料をもとに、より理解を深めることが大切です。

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