個人選択型HRMに関する実態調査2022
「社内公募制度」を42.2%が導入。社内キャリアを広げる方向へ
「副業・兼業許可」は導入25.0%・導入検討24.7%
学習指向の評価・フィードバックと組織情報の開示が、個人選択型施策の鍵
企業における経営・人事課題の解決および、事業・戦略の推進を支援する株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都品川区 代表取締役社長:山崎 淳 以下、当社)組織行動研究所は、企業人事責任者に対し「個人選択型HRM(人的資本管理:Human Resource Management)に関する実態調査」を実施し、296社の人事担当者から回答を得ました。個人が仕事やキャリアの選択を主体的に行うことに関連する23施策の導入実態のほか、「社内公募制度」「副業・兼業許可」「異動・配置」の運用についてたずねた調査結果から見える実態について公表しました。
調査の背景
労働者の価値観の多様化、労働力人口の減少、「キャリア自律」の必要性、「ジョブ型」の導入、「働き方改革」など、組織・人事マネジメントの潮流は、個人が選択する場面を増やす方向に向かっています。そうであるならば、個人にとって魅力的であり、かつ組織にとっても有益な社内キャリアの選択機会を多くデザインすることが、企業人事がとるべき次の一手となりそうです。
本調査では、一つの試論として、「個人選択型のHRM」へのシフトについて検証しました。個人選択型のHRMとは本調査における造語であり、仕事、働き方、キャリアに関する従業員による主体的な選択の機会を増やすような施策群として考えたものです。回答を得た296社中、「社内公募制度」導入企業125社における運用の実態、「副業・兼業許可」導入企業74社と導入しない130社の課題認識の違い、異動・配置の運用など具体施策の詳細も尋ねました。
調査結果サマリー
個人選択型施策の導入実態
● 個人選択型施策の導入・活用状況
- 社内キャリアの選択、働き方の選択、その他の関連施策の3側面・23施策について、「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている」「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない」「導入検討中」の回答を得た。
- 多く導入されている施策(「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない」「導入しており、制度対象者に一定以上活用されている」の合算)は、「テレワーク・在宅勤務制度」(87.2%)、「目標管理制度」(86.1%)、「上司とのキャリア相談」(71.3%)、「フレックスタイム制」(67.9%)、「自己申告制度」(67.6%)、「手挙げ型研修」(60.1%)。
- 以降で運用実態を紹介する「社内公募制度」は42.2%、「副業・兼業の許可」は25.0%。
- 導入企業のうち「導入しているが、制度対象者に十分活用されていない」のは、「上司とのキャリア相談」(28.0%)、「自己申告制度」「目標管理制度 」(20.9%)。
- 「導入検討中」が多いのは、「ジョブ型人材マネジメント(職務記述書の整備・職務等級・職務給の導入など) 」(30.7%)、「複線型人事制度(管理職相当の処遇が得られる専門職キャリアの明示) 」(29.4%)、「メンターやカウンセラーとのキャリア相談」(29.1%)、「転勤の見直し(現地採用を増やす、家族の事情に配慮するなど)」(26.0%)、「高度専門人材の個別処遇(相場に合わせた条件提示)」(25.7%)、「副業・兼業の許可」(24.7%)、「360度評価・多面評価」(23.6%)。
- 「導入・実施されておらず、予定もない」が多いのは、「副業・兼業者(他社で雇用されている人材)の雇用による受け入れ」(69.9%)、「社内FA制度」(66.2%)、「副業・兼業者(他社で雇用されている人材)の業務委託などでの受け入れ」(65.9%)。
● 個人選択型施策の導入・活用を促進する要因
- 社員に仕事やキャリアの主体的な選択を求める度合いは、20代前半までの一般社員に「強く求める」企業は2割を下回るが、20代後半~30代前半では27.0%、30代後半~40代前半では32.1%まで上昇。
- 個人選択型施策との関係をみると、全年代で、キャリア自律を求める度合いが強いほど、施策が多く導入・活用されている。個別施策で見ると、5.社内公募制度、16.副業・兼業の許可などは、従業員規模を問わず、キャリア自律を求める度合いとの相関が高い。
- 「学習志向の評価」「他部署・経営情報の開示」の度合いが高いほど個人選択型施策の導入数が多い。
社内公募制度の運用と目的・効果実感・課題認識
● 社内公募制度導入の目的、効果実感、課題認識
- 社内公募制度導入の目的と効果実感が高いのは、「若手社員のモチベーション向上」(目的72.8%・効果実感55.2%)、「若手社員の自律的・主体的なキャリア形成支援」(同64.8%・40.8%)、「中堅社員のモチベーション向上」(同60.0%・39.2%)、「中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成支援」(同56.8%・34.4%)、「新規事業・新規プロジェクトを担う人材の発掘」(同55.2%・34.4%)。
- 社内公募制度導入企業における運用上の課題認識として、活用不十分群の選択率が高い課題は、「募集ポジションのバリエーションが少ない」「社内公募制度を後押しするキャリア相談の仕組みなどがない」「部署間の引き抜きとなり、部署間の関係性が悪化する」。一定活用群の選択率が高い課題は、「現状から逃避するための安易な異動希望がみられる」「上司に気兼ねして従業員が応募しにくい雰囲気がある」「不採用となった場合に、応募した従業員の意欲が低下する」など。
- 非導入企業の多くが導入しない理由として挙げた項目のうち、導入企業では課題認識が低いものとしては、「人材の壁」(社内公募制度を運用する人的リソースの不足)、「意識の壁」(部門を越えた社内キャリアについて考える気運や機会がないこと)、「杞憂の壁」(社内には中途採用に匹敵する人材がいない、異動前後の処遇調整が難しいといった懸念)。
● 社内公募制度の運用実態
- 制度が対象者に一定活用されているとした78社、活用不十分とした47社ごとに集計したところ、「募集ポジションを限定していない」の回答率が、一定活用企業では活用不十分企業より22.7ポイント高い。
- 応募資格の制約は一定活用企業群のほうが多い。
- 募集者数と応募者数、応募者数と異動決定者数をかけあわせてみると、一定活用企業群のほうが均衡水準を下回るケースが多く、制度活用が進むほど異動が不成立となる場面も増加している。
副業・兼業許可の運用と目的・効果実感・課題認識
● 副業・兼業許可の目的、効果実感、課題認識
- 「副業・兼業を認めている理由や目的」の選択率が高いのは、「従業員のスキル向上」「働き方改革の推進」(51.4%)、「優秀な人材の社外流出の抑制(離職率の低下)」「中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成支援」(47.3%)、「若手社員のモチベーション向上」(45.9%) 。
- 「効果として実感しているもの」の選択率が高いのは、「若手社員のモチベーション向上」(20.3%)「中堅社員のモチベーション向上」(17.6%)「従業員の収入補填」「働き方改革の推進」(16.2%) 。
- 副業・兼業許可企業のうち、一定活用群よりも活用不十分群の方が課題認識の高いのは、本業を疎かにする、ノウハウや機密情報の流出など。活用が進むと、従業員の労務管理上のリスク以外は、特に問題はないとする企業が多い。
- 副業・兼業許可の非導入企業が導入しない理由と、導入企業の運用上の課題認識を比較したところ、「副業・兼業をしている従業員が、本業を疎かにする/している」(非導入企業52.3%・導入企業10.8%:41.5%ポイント差)、「従業員の副業・兼業のせいで、社内業務に支障が生じる/生じている」(同46.2%・6.8%:39.4%ポイント差)、「従業員の労務管理の負担が大きい」(同41.5%・12.2%:29.4%ポイント差)などに差がみられた。
● 副業・兼業許可の運用実態
- 制度が対象者に一定活用されているとした34社、活用不十分とした40社ごとに集計したところ、活用不十分企業では、実際の副業・兼業者は0人とする回答も27.5%みられた。他方、一定活用企業では、11~20%が副業・兼業をしている企業も1割ほどあり、活用度合いに幅がみられる。
- 副業・兼業許可の適用対象については、一定活用企業では勤続年数や、雇用形態を条件としている場合が多い。その他の条件としては、労働時間に基準を設けている企業もある。
- 認められる副業・兼業の内容については、同業他社で働くことや、深夜業等の負荷の大きい仕事は認められない場合が多い。その他の内容については、一定活用企業において認める・条件次第で認めるとする割合が高い。
異動・配置ポリシーと組織の能力
● 異動・配置ポリシーの組み合わせ4タイプ
- 異動・配置ポリシーとして、4つ(選抜型・底上げ型・個人選択型・欠員補充型)を提示し、従業員区分(一般社員層:年齢層別、管理職層:役職別)ごとに適用の有無を聴取。その結果をクラスター分析を用い、ポリシーの組み合わせについて「底上げ中心」(92社)、「個人選択中心」(72社)、「選抜・底上げ・個人選択併用」(75社)、「欠員補充中心」(57社)の4タイプに分類した。
● 異動・配置タイプと組織能力の主観的・客観的指標との関連
- 異動・配置タイプは組織能力(「変革実行力」「現場力」「求心力」)に影響を及ぼしているのか、人材の引き留め(「正社員の離職率」)や多様な人材の活用(「部長クラスの女性管理職比率」「部長クラスへの最年少昇進年齢」)に効果があるのかを検証した。
- 分析の結果、3つの組織能力に対して、「選抜・底上げ・個人選択併用タイプ」のみが、有意な正の影響あり。同タイプは「正社員の離職率」にも負の影響あり。
- 「個人選択中心タイプ」は正社員の離職率が低く、女性管理職比率(部長相当職)が高く、最年少昇進年齢(部長相当職)が低くなる傾向がみられた。
■調査概要
調査目的
- キャリア自立およびタレントマネジメントの実現において、その成功要因や阻害要因についての示唆を得ること
- 個人選択型HRM(仕事や働き方の従業員による主体的選択)に関する施策の導入状況についての実態を把握すること
- 社内公募制度、副業・兼業許可の運用面における実態を把握すること
- 移動・配置に対する考え、促進要因や阻害要因になり得る組織の特徴を把握すること
実施期間
2022年1月18日~2月4日
調査対象
人事企画、人材配置・タレントマネジメントなどの責任者
調査方法
個別企業に対する Webアンケート回答
有効回答数
296社
調査内容
- 個人選択型HRM(仕事や働き方の従業員による主体的選択)に関する施策の検討・実施状況
- 社内公募制度の運用面における実態、目的・成果実感
- 副業・兼業許可の運用面における実態、目的・成果実感
- 移動・配置方針、仕事・キャリアの主体的選択を従業員に求める程度 など
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ/ 3月31日発表・同社プレスリリースより転載)