確定拠出年金
確定拠出年金とは?
「確定拠出年金」は、加入者によって拠出された掛金を運用し、その運用結果をもとに将来の給付額が決定する年金制度です。確定拠出年金には、企業が拠出する企業型確定拠出年金(企業型DC)と、個人が拠出する個人型確定拠出年金(iDeCo)に分かれています。
近年は、従業員の定年後の備えとして、退職金の代わりに確定拠出年金を導入する企業が増えています。ただし、確定拠出年金は運用型であるゆえにメリット・デメリットがあります。企業には自社の状況や将来的な事業計画を踏まえて、確定拠出年金を導入すべきかどうかを戦略的に検討することが求められます。
1.確定拠出年金とは
老後の備えとして、各個人が資産運用する私的年金の一つ
確定拠出年金とは、国民年金・厚生年金といった公的年金とは別に給付を受けられる私的年金の一つで、2001年10月に制定されました。老後の備えとして、各個人が資産運用をするための制度です。
確定拠出年金は別名「日本版401k」と呼ばれますが、これはアメリカの確定拠出個人年金制度の一つである「401k」が由来です。401kとは、1978年に改正されたアメリカの「内国歳入法」の401条k項で、要件を満たす積立貯蓄に関して税制優遇措置が取られたことから名付けられました。日本の確定拠出年金はこの401kをモデルとしているため、日本版401kと呼ばれています。
確定拠出年金は、個人・企業が毎月一定の掛金を積み立てます。加入者がそれぞれ運用方法を選択できる点が特徴で、給付額は運用によって変動します。原則60歳から、年金または一時金として受け取ることができます。60歳の時点で確定拠出年金の通算加入期間が10年未満の場合は、受給開始年齢が65歳まで段階的に引き上げられます。
確定拠出年金が導入された背景
近年では少子高齢化がますます深刻化し、今後もあらゆる場面で影響を受けることが懸念されています。公的年金においても、給付水準の引き下げや年金支給開始年齢の引き上げなど、受け取れる年金額やタイミングが変わってきています。社会構造の変化が進むなかで老後の生活に備えるには自助努力が必要であり、これを支えるための制度が重視されるようになりました。
また、終身雇用が当たり前だった時代とは違い、現在ではスキルアップなどを目的に転職を重ねるケースが珍しくありません。さらに、正社員だけでなく契約社員や派遣社員、パート・アルバイトと雇用形態の多様化も進んでいます。こうした人材の流動化に対応できる年金制度を求める声が強くなったことも背景の一つです。
確定拠出年金が実施される以前は、企業年金制度として、将来の給付額をあらかじめ定めておく確定給付企業年金のみが認められていました。確定給付企業年金は企業が掛金を拠出し運用するもので、従業員は約束された額を受給できるというメリットがあります。一方で、運用結果が悪く不足分が生じた場合は企業が補填する必要があり、企業側の負担が大きいというデメリットが指摘されています。
これらの背景から、従来の年金制度を補完するものとして、日本に確定拠出年金が導入されました。
拠出と給付の違い
2001年にDC・DB法が制定されて以降、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と「確定給付企業年金(DB)」が企業年金の主流となっています。そもそも、拠出と給付にはどのような違いがあるのでしょうか。
「企業型確定拠出年金」は、会社が拠出する掛金が確定しており、従業員が運用の責任を負います。一方、「確定給付企業年金」は、従業員の受け取る給付額があらかじめ約束されていて、会社が運用の責任を負います。
●企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリット・デメリット従業員にとって | 企業にとって | |
---|---|---|
メリット | ・残高を確認できる ・勤続3年以上であれば減額されない ・自身の資産のみ管理・運用できる |
・退職給付会計の対象外となるため、 退職給付債務が生じない ・他社の企業型DCから資産の受け入れが 可能=人材確保につながる ・将来の掛金負担が安定的になる |
デメリット | ・資産運用を自ら行う必要がある ・価格変動が生じる ・原則として60歳以降しか 受け取れない(中途退職時の 受け取り不可) |
・投資教育を継続的に実施する 義務が生じる ・勤続3年以上の退職者 (自己都合・懲戒解雇含む)の 減額が不可 |
従業員にとって | 企業にとって | |
---|---|---|
メリット | ・資産運用を自分で行う必要がない ・将来受取額がわかりやすい ・老後の安定的な収入源になる |
・給付額を明確に約束できる ・自己都合退職者や懲戒解雇者に 対して減額支給が可能 ・税制優遇措置があるため、 効率的に資金を準備できる |
デメリット | ・勤続年数にかかわらず 減額される可能性がある ・現在獲得している受給権が わかりにくい |
・資産運用の責任を負う ・積立不足が生じる可能性があり、 将来の掛金負担が不確定 |
確定拠出年金制度の位置づけ
確定拠出年金は、日本の年金制度の一部です。確定拠出年金の位置づけを知るため、日本の年金制度の全体像を把握しておきましょう。日本の年金制度は大きく三つに分けられ、3階建ての構造になっていると考えることができます。
1階部分にあたるのが国民年金(基礎年金)です。20歳以上の全国民が加入するもので、加入期間によって給付額が決定します。2階は会社員や公務員など(第2号被保険者)が加入する厚生年金、自営業者(第1号被保険者)が加入する国民年金基金で、基礎年金に上乗せするものと捉えることができます。国民年金基金は任意加入ですが、厚生年金については強制加入となっています。
3階部分は企業が独自に運用を行うなど私的年金に分類される制度で、厚生年金に上乗せする厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金が該当します。ただし、2014年4月以降は厚生年金基金の新規設立ができなくなったため、徐々に別の制度へ移行する企業が増えると想定されます。
企業の導入率
確定拠出年金を実施する事業所数は年々増加しており、運営管理機関連絡協議会の調査によると2022年3月末時点では42,669社が導入しています。厚生労働省による就労条件総合調査によれば、企業年金制度のある企業のうち、確定拠出年金を活用する割合は、2018年調査時点で5割に迫っており、企業任せから個人による年金運用が主流となっていることが伺えます。
導入の要因としては「確定給付」で運用がうまくいかなかった場合、企業が補填をしなければならないことが挙げられます。企業の財務負担を軽減するために確定拠出へ移行しているとみられます。
一方、企業は必ずしも確定拠出年金制度を導入する必要はありません。少子高齢化に伴う労働人口減少や昨今の景況感により、財政面の改善は企業にとって喫緊の課題となっています。負担を軽減するために、企業年金制度そのものを廃止する企業も増えています。実際に、企業年金を導入している企業の割合は年々減少傾向にあります。
従業員の多くが、将来の公的年金が先細りするのではないかという不安を抱えています。そのため老後の生活を支える企業年金の存在は、従業員のロイヤリティ向上につながると言えるでしょう。そのため、企業は従業員の将来設計も踏まえて、企業年金の導入を総合的に判断する必要があります。
退職金制度との比較
確定拠出年金も退職金も、退職時に受け取るお金という意味では同じですが、両者の特性は大きく異なります。
従来、日本企業の多くが退職金制度を活用してきました。しかし、近年では退職金制度から確定拠出年金制度へと移行する企業が増えています。その理由の一つは、景気変動や社会構造の変化により、退職金制度だけでは生活保障としての役割を十分に果たせなくなってきていること。さらに、企業側にとって財政面の負担が増えるケースが見られるようになったこともあります。こうした状況から、従業員の自助努力による資産形成のために、確定拠出年金への移行が進んでいるのです。
■企業型確定拠出年金と退職金の比較表企業型確定拠出年金 | 退職金 | |
---|---|---|
掛金・資金の拠出者 | 会社(個人による上乗せが 出来る場合もある) |
会社 |
従業員が受け取る金額の計算例 | 掛金(月)×運用期間 (月)×投資元本×利回り |
社内規定に基づく(一時金 または年金方式) 退職金 -退職所得控除 |
受け取る時期 | 原則60歳以降 | 退職時 |
税制上の扱い | ・掛金は全額所得控除の対象 ・利息・配当・運用益は非課税 ・受給時は退職所得控除、 公的年金等控除の対象 |
受給時は退職所得控除の対象 |
企業の導入義務 | なし | なし |
就業規則への記載 | 導入の場合必須 (相対的記載事項) |
導入の場合必須 (相対的記載事項) |
加入対象者となる 従業員の決め方 |
任意 | 任意 |
企業型DCの導入・運用手順
企業型DCを導入するには、労使間の合意や、外部の委託機関などとの連携など、さまざまなやり取りが発生します。手順の全体像を把握し、スムーズな運用をすることが大切です。
●導入・運用手順- 事業主が、労使合意による企業型年金規約の作成を行う
- 事業主が、運営管理機関の選定・委託を行う
- 事業主から資産管理機関に、掛金を拠出する(※)
- 運営管理機関から従業員に対し、運用商品に関する情報提供が行われる
- 従業員から運営管理機関に対し、個別の運用指図が行われ、金融商品が運用される
※規約に定めた場合は、拠出限度額の枠内、かつ事業主の掛金を越えない範囲で、加入者も掛け金を上乗せして拠出可能。これを「マッチング拠出」という。
2. 他の年金制度との関係
他の年金制度(公的年金・私的年金)も含めた、それぞれの違いは下記の通りです。
■企業型確定拠出年金と退職金の比較表厚生年金保険 | 確定給付企業年金(DB) | 企業型確定拠出 年金(企業型DC) |
個人型確定拠出年金 (iDeCo) |
|
---|---|---|---|---|
受け取るタイ ミング |
原則65歳以降 | 退職時 | 原則60歳以降 | 原則60歳以降 |
受け取れる金額 | 加入期間による | 加入期間による | 運用次第 | 運用次第 |
運用者 | 年金積立金管理 運用独立行政法人 |
会社 | 従業員 | 個人 |
対象者 | 民間企業や 公務員などに 所属して働く人 (第2号被保険者) |
DBを導入する 企業の従業員 |
企業型DCを導入 する企業の従業員 |
・自営業者( 第1号被保険者) ・厚生年金被 保険者(第2号 被保険者) ・専業主婦(夫) など(第3号 被保険者) |
実施主体者 | 日本年金機構 | 実施企業 | 実施企業 | 国民年金基金連合会 |
企業の従業員は、必ず厚生年金に加入しなければなりませんが、企業型DC、DB、そしてIDeCoの併用が可能です。
特に確定拠出年金では、企業型と個人型の二種類があるため、混同しないように注意が必要です。個人型(iDeCo)は国民年金連合会が実施する私的年金制度で、自営業者・厚生年金保険の被保険者・被扶養者が加入対象とされており、個人の資産形成手法として近年注目されています。
iDeCoは加入者本人が掛金を拠出し、掛金は全額所得控除の対象となります。自営業者(国民年金第1号被保険者)の拠出限度額は月6.8万円ですが、企業の従業員(第2号被保険者)は、所属企業の状況(企業型DC・DBを実施しているかなど)によって限度額が異なります。企業側にもあらかじめiDeCoの加入申告が求められるため、注意が必要です。
3. 企業型確定拠出年金の導入に関する注意点
社員向けの教育・情報提供が必要
企業型確定拠出年金を導入した場合、運用は加入者個人が行っていくことになります。しかし、企業側は加入案内をするだけでなく、資産運用に関する知識・情報を提供していくことが努力義務として規定されています。
仮に企業側が投資に関する教育をまったく行わなかった場合、従業員の損失につながることも想定されます。この点に十分に配慮し、教育の機会を継続的に設けることも企業の責務の一つとなっています。
手数料や人件費などのコストがかかる
企業型確定拠出年金の実施においては、掛金に加え手数料が発生します。あらかじめ規約に定めておけば加入者負担とすることも可能ですが、一般には企業側が負担するケースが多くなっています。また、制度の案内や従業員への教育にあたって労力とコストがかかる点も、事前に加味しておく必要があります。
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