ポスドク
ポスドクとは?
“定職に就けない博士”が全体の4割
企業も採用に慎重で研究力劣化の危機
せっかく博士課程まで修了したのに、研究者としてのキャリアが見通せない。安定した職に就けるのは半数だけ――。2012年の文部科学省の調査結果は、日本の研究開発の基盤をも揺るがしかねない「ポスドク」問題の深刻な実態を浮き彫りにしました。
それによると、同年春の博士課程修了者1万6260人のうち、無期雇用の正規職員は全体の52%にあたる8529人でした。その一方で、1年以上の有期雇用の非正規職員は2408人(15%)、主に1年未満の「一時的な仕事」に就いている人は855人(5%)、「就職も進学もしない」状態で進路が決まらない人は3003人(18%)に上りました。つまり、非常勤のポスドクも含め、“定職に就いていない博士”があわせて全体の4割近くを占めているということです。
なぜ、こんなことになったのでしょうか。実は1991年からの15年間で、博士号取得者は2.6倍にも増えています。いわゆる「大学院重点化」政策が始まり、科学技術振興には博士人材の育成が不可欠との観点から、大学院の定員枠を拡大してきたからです。しかし、就職の主な受け皿となる大学や公的研究機関のポストは、ほとんど拡充されませんでした。91年には、博士課程修了者6201人に対し、全国の大学教員採用者は計8603人。09年には、教員採用者が1万1066人に増えたものの、博士課程修了者数は1万6463人とそれ以上に増え、とても吸収できなかったのです。
ポスドク問題が浮上して以来、大学や公的研究機関だけでなく、民間への就職をいかに開くかが懸案になっていましたが、現状では企業の動きはふるいません。政府が製造業を中心に主要企業へ尋ねたところ、新卒の博士を研究開発者として採用した企業は、全体のわずか7%のみ(2010年度)でした。07年度の同じ調査でも「過去5年間、博士を採用していない」企業は42%にも上っています。
野村総合研究所は、2010年に発表した博士の進路に関する報告書で「企業の博士に対する評価は低くはないが、修士より能力が特に優れているとみられず、『協調性』といったチームワークに課題があるとの指摘も多い」などと分析しています。民間企業は、文科省や大学側が期待するほど、博士人材の採用にまだ積極的になれないというのが現状でしょう。産・学の緊密な連携によって、若いドクターが技術開発の最先端を引っ張っている欧米とは対照的です。すぐれた“頭脳”が不安定な環境に置かれたまま活かされないのでは、やがて国内の研究水準は低下し、将来的に民間企業にも損失を招くとの声も聞こえてきます。
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