レガシーコスト
レガシーコストとは?
レガシーコスト(legacy cost)のレガシーとは「遺産」のこと。これにコスト(負担)がつくと、過去のしがらみから生じる負担、すなわち「負の遺産」という意味になります。狭義には、企業が退職者に対して支払い続けなければならない年金や医療費など、過去に設計され、温存されている制度に従って継続的に発生する金銭的負担を指します。
ビッグスリーもJALも対岸の火事ではない
右肩上がりの時代の“負の遺産”が経営を圧迫
日本と異なり、国民皆保険制度のないアメリカの企業にとって、レガシーコストの問題はとくに重い足枷となっています。記憶に新しいところでは、2009年、米大手自動車メーカーのクライスラーとゼネラル・モーターズ(GM)が相次いで米連邦破産法11条の適用を申請しました。フォードも含めたいわゆる「ビッグスリー」が苦境に陥った原因は、何といってもクルマの販売不振が一番ですが、経営破たんに至るまで追いつめられた背景に、膨大なレガシーコストがあったことは疑いがありません。
とりわけ大きいのが、退職者に支払う年金と医療保険の出費です。GMの場合は、過去十数年間に年金や医療保険費用で年平均70億ドルを支払い、08年度にはその負担額が約135億ドルにまでふくれあがったといわれます。かりに本業の販売不振が回復したとしても、「現役の従業員1人が約5人の退職者の年金と医療保険を支える」という過剰なレガシーコストが重荷になり続けるため、GMは破産法申請を選ぶほかありませんでした。「クルマも造る年金・医療保険管理会社」と揶揄されるゆえんです。
ビッグスリーに企業年金制度が導入されたのは、第二次大戦後の好景気で自動車が飛ぶように売れた約60年前のこと。以来、全米自動車労働組合の強大な力を背景に、退職者への年金や医療保険は拡充されることはあっても、抑制されることはありませんでした。企業側としては、当面の賃上げより将来の約束のほうが譲歩しやすかった上に、将来の事業収益や年金基金の運用益を過大評価して、肥大化するレガシーコストの問題を先送りし続けていたフシがあるようです。
これは、決して対岸の火事ではありません。事実、日本の企業年金にも行き詰まりが見えはじめています。09年10月、財務省の峰崎直樹副大臣は、会社更生法を適用した日本航空(JAL)の再建策に関し、日本政策投資銀行のつなぎ融資に政府保証を与える件について「レガシーコストの問題など十分な裏づけがないと簡単ではない」と慎重に対応する考えを示しました。その後JALは、すでに引退したOB世代にまでさかのぼって、企業年金の大幅削減(退職者で平均30%、現役社員で平均50%)を断行しています。
低成長・低金利の現状ではとても実現できない、高い利回りを温存している企業年金はJAL以外にも多く、それが経営を圧迫している企業も珍しくありません。企業年金問題の専門家であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所の沢崎敦一弁護士は、「いまの企業年金制度は右肩上がりを前提として作られており、安定的な継続性は崩壊している。長期の不況がいまの企業年金制度を崩壊させており、見直しは避けられない」と指摘します。
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