ディーセント・ワーク
ディーセント・ワークとは?
ディーセント・ワーク(Decent Work)とは1999年、ILO(国際労働機関)のフアン・ソマビア事務局長が就任時に掲げたスローガンです。「人間らしいやりがいのある仕事」「適切な仕事」などと邦訳されることが多く、具体的には「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会的保護が供与される生産的な仕事」を意味します。
ILOが目指す“まともな仕事”の実現は
日本社会にとっても喫緊の課題
ILOは21世紀の理念・活動目標として、「すべての人へのディーセント・ワークの実現」を提唱し、その達成に向けて<(1)仕事の創出(2)仕事における基本的権利の保障(3)社会保護の拡充(4)社会対話の推進と紛争の解決>の4つの戦略目標を掲げています。ILOといえば、設立以来、世界各国における労働基本権の確立と生活保障賃金の確保を活動の最優先課題としてきましたが、ディーセント・ワークはその次に実現されるべき、ILOの新たな使命として位置づけられているのです。
ディーセントは、日本語で「きちんとした」「社会通念上まともな」といった意味ですが、何をもって“きちんとした仕事”“まともな仕事”というかについては、提唱者のソマビア氏自身が、2000年に開催された日本ILO協会50周年記念式典における記念講演で、次のようにわかりやすく定義しています。
「世界の人々がいま最も望んでいるものは、基本的人権に次いで、ディーセントな仕事ではないかという結論に達しました。これは子どもに教育を受けさせ、家族を扶養することができ、30年〜35年ぐらい働いたら、老後の生活を営めるだけの年金などがもらえるような労働のことです」。こういうと、そう難しいことではない、途上国ならいざ知らず、日本社会ではすでに達成されている目標ではないか、と思う人がいるかもしれません。
はたしてそうでしょうか。09年10月に初めて日本政府が自ら算出・発表したわが国の相対的貧困率(従来は経済協力開発機構(OECD)が日本政府の資料をもとに算出)は15.7%、OECD加盟30ヵ国中ワースト4位でした。年収200万円以下の給与所得者は1000万人を超えているともいわれ、その一方で過重労働や長時間勤務の問題は、世論の強い批判にもかかわらず、遅々として改善されていないのが現実です。
ILOでは国際労働法として約200本の条約を採択していますが、そのうち日本が批准しているのは4分の1に過ぎない、わずか48本で、とりわけ労働時間や休暇に関連する条約には一本も批准していません。最低賃金の相対水準(その国の平均賃金と比べてどれくらい低いか)も、先進国中最も低いレベルです。
人間らしいやりがいのある仕事――ディーセント・ワークの実現は、“経済大国”日本にとっても、実は喫緊の課題といえるのかもしれません。
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