在職老齢年金制度
在職老齢年金制度とは?
在職老齢年金制度とは、年金の受給資格を持つ高齢者が厚生年金の被保険者として働き続ける際、年金月額と賃金の合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止される制度です。一定水準以上の収入がある高齢者は、年金制度の支え手に回ってもらうという考え方に基づいています。社会経済の変化や高齢者の就労意欲の高まりを受け、2026年4月からは支給停止調整額が引き上げられるなどの見直しが進められています。

1. 在職老齢年金制度の概要と目的
1-1. 在職老齢年金の定義と対象者
在職老齢年金制度は、老齢厚生年金を受給している人が、厚生年金保険の被保険者として引き続き勤務する場合に適用されます。年金を受給しながら働く高齢者に対して、一定額以上の報酬がある場合は年金の支給額を調整することを目的としています。
対象となる年金は老齢厚生年金です。老齢基礎年金や経過的加算額は支給停止の対象外となり、全額が支給されます。
70歳に達した人は被保険者資格を喪失するため、厚生年金保険料の支払いはなくなりますが、厚生年金適用事業所に勤務している場合は支給停止の対象となります。
1-2. 制度の背景
近年、平均寿命や健康寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者が増加しており、人材確保や技能継承の観点から高齢者の活躍を求めるニーズも高まっています。内閣府の調査(2024年)によると、65~69歳の約6割が66歳以降も働き続けたいと回答しています。
一方で、老齢厚生年金の受給資格を持つ65~69歳の3割以上が「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」と回答しています。在職老齢年金制度が高齢者の労働意欲をそぎ、労働参加を妨げているとの指摘もあるため、制度の見直しが行われています。
2. 支給停止額の計算方法と適用される基準額
2-1. 支給停止額の計算式
年金の支給停止、および支給停止額を決定するには、年金月額と賃金、そして「支給停止調整額」が用いられます。
◯支給停止額の計算式
支給停止額=(年金月額+賃金(総報酬月額相当額)-支給停止調整額)÷2
- 年金月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 賃金(総報酬月額相当額):その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足した額
- 支給停止調整額:年金月額と賃金の合計がこの調整額を超えると、年金が減額される金額のライン
2-2. 具体的な算出例
具体的な数値を用いて、計算方法を見てみましょう。
| 賃金(総報酬月額相当額) | 年金月額 |
支給停止基準額 (2024年度) |
|---|---|---|
| 45万円 | 10万円 | 50万円 |
この表の場合、支給停止額は
(45+10-50)÷2 = 2万5000円
となり、2万5000円が減額されます。
賃金と年金月額の合計が支給停止調整額以下の場合、老齢厚生年金は全額受給できます。賃金が支給停止基準額を超えている場合は、老齢厚生年金の受給はできません。
3. 2026年4月施行の制度改正
3-1. 支給停止調整額の引き上げ
2026年4月から、在職老齢年金制度の支給停止調整額が引き上げられます。
改正内容:支給停止調整額が月50万円(2024年度価格)から月62万円に引き上げられます。
施行後は、賃金と年金月額の合計額が62万円に達するまでは、支給停止や減額はされません。賃金45万円、年金月額10万円(合計55万円)の場合、現行制度では2万5000円が減額されますが、見直し後は全額支給されます。制度改正により、約20万人が老齢厚生年金を全額受給できると見込まれています。
3-2. 加給年金と他の給付との関係
配偶者や子がいる場合に上乗せして支給される加給年金も、在職老齢年金制度によって年金が全額支給停止になった際は支給停止となります。しかし、老齢厚生年金を一部でも受け取れれば、加給年金は全額支給されます。
雇用保険の「高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)」を受給する場合、在職老齢年金による調整に加えて、さらに老齢厚生年金が減額されることがあります(最大で標準報酬月額の6%相当分など)。
4. 在職中の年金額の改定について
厚生年金に加入している社員が老齢厚生年金を受給する場合、年金額は自動的に再計算されます。
4-1. 在職定時改定
65歳以上70歳未満の方が厚生年金に加入している場合、毎年9月1日(基準日)に前年9月から当年8月までの厚生年金加入期間の分が年金額に加算され、翌月(10月分)から年金額が見直されます。これを「在職定時改定」といいます。
4-2. 退職改定
70歳未満の方が退職した場合、退職日の翌日から1ヵ月が経過した月の年金額から見直されます。
退職改定により、年金額に反映されていない退職までの厚生年金加入期間が追加され、年金額の再計算が行われます。また、在職老齢年金制度などによる支給額の調整もなくなります。
4-3. 繰り下げ受給との関係
厚生年金加入中の人が老齢年金の繰り下げ受給を希望する場合、在職老齢年金の適用によって支給停止されるはずの年金部分は、繰り下げても増額の対象にはなりません。繰り下げ受給による増額の対象となるのは、65歳時点で受給手続きをした場合に実際に受け取れるはずだった部分(支給停止されなかった部分)のみです。
5. 関連する年金制度の改正動向
2026年の年金制度改正では、在職老齢年金制度の見直し以外にも、高齢期の生活安定を図るための措置が講じられています。
- 私的年金制度の拡充:個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の上限を70歳未満に引き上げます。
- 遺族年金の見直し:男女差解消のため、18歳未満の子のない20~50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし、60歳未満の男性を新たに支給対象とします。
- 標準報酬月額の上限引き上げ:厚生年金保険を算定する標準報酬月額の上限を65万円から75万円に段階的に引き上げます(2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円)。
この記事の監修
米倉 徹雄
KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員
20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。
20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。
- 参考になった0
- 共感できる0
- 実践したい0
- 考えさせられる0
- 理解しやすい0
用語の基本的な意味、具体的な業務に関する解説や事例などが豊富に掲載されています。掲載用語数は1,400以上、毎月新しい用語を掲載。基礎知識の習得に、課題解決のヒントに、すべてのビジネスパーソンをサポートする人事辞典です。
会員登録をすると、
最新の記事をまとめたメルマガを毎週お届けします!
無料会員登録
記事のオススメには『日本の人事部』への会員登録が必要です。

