アブダクション
アブダクションとは?
「アブダクション」とは、起きた結果からさかのぼって原因を推測する思考法です。米国の哲学者チャールズ・パースにより提唱され、日本語では「仮説的推論」とも呼ばれます。物事を考える際には「演繹(えんえき)法」「帰納法」が代表的なアプローチですが、アブダクションはこれらに並ぶ第三の推論法。未知の事象を観察して「最もありえそうな仮説」を立て、データや事例を手がかりに説明のつくシナリオを導き出すというアプローチです。複雑な事象への対処法として注目されています。
演繹法、帰納法、アブダクションの違いは?
VUCA時代に必要な、高速「仮説・検証」
「例年、自社の新卒採用へのエントリー数は500件程度。しかし今年は、4倍にあたる2,000件ほどエントリーがあった。求人票や採用HPはほとんど変えていないのに、何があったのだろうか?」
ビジネスシーンでは、このような想定外の事象が起こることがあります。多くの人はイレギュラーに直面したとき、まずはPV数など可視化されたデータを確認し、それらしい原因をいくつかピックアップするのではないでしょうか。これこそが「アブダクション」の考え方です。起きた結果から逆算して、もっとも妥当性のある仮説を立てる。そうすることで不確実な状況下でも、スピーディーに仕事を前進させることができるのです。
思考のアプローチ方法を、いくつか例を挙げてみましょう。先ほどのケースを演繹法で考えると「景況感が回復し、労働市場全体が盛り上がっているから応募が増えた」などと結論付けることができます。しかし、その結論が妥当なのかはわかりません。帰納法の場合、「数ヵ月間の応募推移を週ごとに分析し、業界全体のデータと照らし合わせて、あらゆる可能性を探る」といった方法が考えられますが、精密な分析はできても、時間と労力がかかりすぎてしまいます。
アブダクションでは、「インフルエンサーがSNSで自社を紹介したのではないか」「競合他社が採用を控えたのではないか」「求人サイトの特集に掲載されたのではないか」など、ひとまず複数の仮説を立てます。次にそれぞれの仮説に合致する情報を集めて検証します。採用サイトや求人サイトへのアクセス数を調べたり、SNSでの自社に関連する投稿をチェックしたり、競合他社の動向を追ったりと、素早くテストできる範囲で仮説を確かめます。これを繰り返しながら精度を高め、それらしい原因に行き着けば、その後の戦略策定や予算分配の最適化に生かせます。
このように、アブダクションは不確定要素が多い状況下での意思決定に役立ちますが、注意点もあります。設定した仮説が正しいとは限らないため、表面的な事実のみをみて判断すると、誤った方向へ進んでしまうことがあるからです。リスクを回避するためには、仮説をこまめに検証し、結果に応じて柔軟に修正することが不可欠。また、関係者を巻き込みながら客観性を担保することも大切です。
昨今のような複雑化する社会では、仮説を立てながら小規模に検証を繰り返すアブダクションが最適な手法になりうるでしょう。
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