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【ヨミ】キュウヨデジタルバライ

給与デジタル払い

給与デジタル払いとは?

給与デジタル払いとは、賃金の一部または全額を、指定資金移動業者のアカウントを経由し、電子マネーとして従業員に振り込む仕組みのことです。労働基準法では、賃金の支払いが現金以外では銀行振込と証券総合口座への振込が認められているだけでしたが、労働基準法施行規則を改正する省令公布により、2023年4月から「給与デジタル払い」が解禁となりました。
 
給与デジタル払いは、希望する従業員に対してのみ可能です。運用を開始する際は、指定資金移動業者の選定、労使協定の締結、従業員への個別説明と同意の取得が必要となります。2023年4月1日から指定資金移動業者の申請・登録がはじまっていますが、厚生労働省の審査は数ヵ月かかると考えられるため、企業での運用開始は2023年秋以降となる見通しです。

更新日:2023/08/23

1. 給与デジタル払いとは

給与デジタル払いとは、従業員の銀行口座に賃金を振り込むのではなく、資金移動業者のアカウントを介して、電子マネー(デジタルマネー)を従業員に振り込む仕組みをいいます。

労働基準法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない(※)」とされていますが、例外として、従業員が同意した場合のみ、企業は銀行口座もしくは証券総合口座への賃金支払いが認められます(労働基準法施行規則第7条の2)。給与デジタル払いは、キャッシュレス決済の普及とさらなる利便性向上を図ることを目的に、賃金支払いの第三の手段として、厚生労働省を中心に進められてきた制度です。

2023年4月に労働基準法施行規則の改正省令が公布され、給与デジタル払いが「解禁」となりました。4月1日から給与デジタル払いに対応できる資金移動業者の申請が始まっています。審査には数ヵ月かかるとされ、実質的に企業が給与デジタル払いを行えるのは、早くても2023年秋以降と考えていいでしょう。

給与デジタル払いは、あくまでも賃金支払い・受取方法の選択肢の一つです。制度が解禁されたからといって、従来の銀行口座への振込による支払い方法がなくなるわけではありません。給与デジタル払いを行う場合、企業は事業場ごとに労使協定を締結する必要があり、従業員の同意も必要です。また、給与デジタル払いを希望しない従業員には、これまで通り銀行口座への給与振込(もしくは現金での支払い)を行い、デジタル払いを従業員に強制することはできません。

労働基準法第24条(賃金の支払)について|厚生労働省より引用

2. 給与デジタル払いのポイント

給与デジタル払い解禁によって、企業は従業員の賃金の一部または全額を指定資金移動業者の口座に振り込むことが可能となります。ここでは、給与デジタル払いの仕組みと、実施のための必要な手続きについて解説します。

指定資金移動業者とは

指定資金移動業者とは、厚生労働大臣が審査の上認定した資金移動業者のことです。いわゆる「〇〇Pay」などの電子マネーを扱う業者のことを指します。指定資金移動業者は2023年8月現在未公開であり、今後厚生労働省のWebサイトで公開される予定です。

給与デジタル払いの口座には上限額がある

給与デジタル払いでは、口座の上限額は100万円以下と設定されており、上限を超えた金額は、従業員の銀行口座に振り込まれることになっています。この際、銀行への振込手数料が従業員負担となる可能性もあるため、詳細について資金移動業者に確認することが必要です。

資金移動業者の口座からATMなどで現金化が可能

「〇〇Pay」のような電子マネーとして受け取った賃金は、ATMなどで現金化することが可能です。少なくとも、毎月1回は、従業員の手数料負担がなく、資金移動業者から賃金の支払いができるとされています。ただし、具体的な手数料や無料の回数については資金移動業者によって異なるため、自社で資金移動業者を選定する際に確認する必要があります。

3. 給与デジタル払いに必要な手続き

給与デジタル払いを行う際は、「(1)資金移送業者の選定」「(2)労使協定の締結」「(3)従業員への個別説明と同意」が必要です。資金移動業者の選定は、上述の通り厚生労働省が発表する指定資金移送業者の一覧から行います。以下、労使協定の締結と従業員への説明・同意について解説します。

労使協定の締結

給与デジタル払いを導入する前に、各事業場で労使協定を締結する必要があります。労使協定には、対象となる従業員の範囲や、指定資金移動業者の詳細を記載しなければなりません。企業は、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、労使協定を締結します。

従業員への個別説明と同意

給与デジタル払いを希望する従業員への説明では、資金移動業者の口座へ振り込む金額や賃金の範囲(毎月の給与、退職金、ボーナスなど)、資金移動業者の詳細(サービス名称や口座番号・IDなど)を伝えます。従業員は制度を理解した上で、給与デジタル払いを開始する時期などを会社と決定し、同意書を会社に提出します。同意書の様式については、厚生労働省がサンプルを公開しています。

4. 給与デジタル払いの導入に向けた検討事項

給与デジタル払いのメリットを従業員にきちんと説明する

企業が給与デジタル払いを導入したからといって、すべての従業員がその方式に従わなければならないわけではありません。給与デジタル払いは、従業員が希望した場合にのみ、行えます。もし給与デジタル払いを導入する場合、企業の対応としては、「会社として給与デジタル払いに移行する」というような一方的な発表ではなく、目的やメリットを伝え、従業員が自らの意思で自由に選択できるようにすることが大切です。

給与デジタル払いのメリットとしては、以下のことが考えられます。

キャッシュレス決済による日常の買い物や支払いの利便性向上

近年、オンラインショッピングでの電子マネーによる決済、コンビニやスーパーでのコード決済など、キャッシュレス決済の普及に伴い、電子マネーの利用率が上昇しています。とくに、スマートフォンで支払いが完結できるコード決済は20代の若手世代を中心に広がっており、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行ったアンケート調査によると、店頭でのコード決済の利用経験は、2018年調査時の5.2%から2022年調査時には64.2%と飛躍的に上昇しています。

日常的にキャッシュレス決済を利用している従業員にとっては、銀行口座からアプリにチャージする手間がなくなり、日々の支払いの利便性が向上します。

国を超えたお金のやり取りが柔軟にできるようになる

海外に駐在する従業員は、海外通貨で支払いが可能な電子マネーで給与を受け取れるようになります。電子マネーが海外で利用できれば、日本円から現地通貨に両替・送金する手間がかかりません。また、日本に滞在する外国人従業員が、海外に送金を行う際も、給与デジタル払いを活用できるでしょう。送金手続きが簡単なアプリで直接給与を受け取ることができれば、送金手数料を抑えられる可能性もあります。

ただし、給与デジタル払いでは、口座の上限額100万円以下という制限があるため、給与デジタル払いを行う場合でも、対象の従業員が銀行口座を有している必要がある点に注意が必要です。

手数料の削減

給与デジタル払いで、企業と従業員双方のメリットになると考えられているのが、手数料の削減です。電子マネーを扱うアプリでは、個人間の送金手数料が無料というものが少なくありません。また、PayPay銀行のようにATM手数料が無料というところもあります。手数料の少ないアプリで給与を受け取り、そのまま日々の買い物に利用できるのは従業員にとって大きなメリットといえます。

さらに、送金手数料が低く抑えられることは、企業側にもメリットをもたらします。たとえばLINEPayでは、企業からの送金は「1件50円または送金額5%」と設定しています。実際に銀行振込とデジタル払いを比較してどちらが安いかは、利用状況によって異なる(※)ため慎重な判断が必要となりますが、銀行の手数料と比較して安く抑えられることが期待できます。

※給与の銀行振込では、初期費用、月額手数料、同行支店内での振込手数料無料化など、コスト面で考慮しなければいけない要素が多く存在します。また、給与デジタル払いの導入を受けて、銀行が給与振込サービスの利用料金を変更するかどうかについても、注意が必要です。

企業側の運用負担の検討

給与デジタル払いは、従業員が希望した場合にのみ可能な支払い方法です。給与デジタル払いを希望しない従業員もいれば、一部または全部の賃金のデジタル払いを希望する従業員もいるでしょう。従業員の希望に合わせた柔軟な対応が必要です。

給与デジタル払いを導入することで、通常の銀行支払いとは異なる事務作業が発生します。賃金が期日に正確に支払われるよう、業務フローを整える必要があるでしょう。さらに、給与計算システムを活用している場合は、給与デジタル払いのフローにスムーズに対応できるかを確認する必要があります。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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