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【ヨミ】セイカシュギ

成果主義

成果主義とは?

「成果主義」は、仕事の成果を評価基準として昇進や昇給を決める人事評価制度の方針です。もともと欧米に広く普及していた考え方で、日本ではバブル経済崩壊後の1990年代後半以降に普及しました。かつての「年功序列」から脱却し、「成果主義」へシフトすることが、企業間競争が激しい時代に合っているという見方が強まっていったのです。

更新日:2021/08/20

1.成果主義とは~年功序列から移行が目指される背景と問題

かつて日本では、広く年功序列が普及していました。労働力があれば成長が見込まれていた1960~70年代の高度経済成長期に、労働力を安定的に確保する必要があったことから生まれた制度です。企業は、社員とその家族を将来にわたって面倒を見るという終身雇用を打ち出し、年功序列によって、社員の長期勤続に対するモチベーションを維持してきました。

1970~80年代の安定成長期は、日本の人口構造はピラミッド型であり、企業では20代の社員の割合が多くなっていました。人件費を抑えるという経済的合理性の面でメリットは大きく、引き続き年功序列が主流でした。

1990年代、IT(情報技術)が普及する前は人手を介する業務がまだ多かったため、技能と勤続年数を結び付ける年功序列の考え方は、人事評価においてもマッチする制度だったといえます。しかし、1990年代以降、バブル崩壊後の経済低迷を機に「成果主義」が注目されるようになりました。

年功序列は、短期的な成果が求められる状況ではうまく機能しないといわれます。また、成果と給与が連動していないため、業績が低迷すると人件費の割合が増加するという問題もあります。

こうした年功序列の欠点を補うものとして成果主義に期待が集まり、1990年代以降、多くの企業で導入が進みました。しかし、導入したが成果につながらない、新たな組織課題が発生した、といった事例も多いのが実状です。

成果主義の失敗

成果主義と併せて導入された仕組みとして代表的なものにMBO(目標管理)があります。目標管理についての必要性や有効性はひとまず脇に置いて、目標を立てることそのものが難しいという声も聞こえます。

特に年功序列型の仕組みに慣れていた日本企業にとって、目標管理は難易度が高いようです。目標管理が形骸化したとしても、成果主義の名の下に評価は行う必要があり、格差が生まれてしまいます。不透明な目標管理による格差は、評価に対する不公平感を生み、従業員のモチベーションを下げることにもつながります。

また、行き過ぎた成果主義によって職場環境が悪化し、従業員のストレスが高まることで、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす例も散見されます。職場のメンタルヘルスも問題となり、2015年には労働安全衛生法でストレスチェックが義務付けられました。しかし、令和2年度(2020年度)の「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障がいによる労災請求件数は2,051件であり、2015年の1,515件から増加しています。

ストレスチェックは、従業員が定められた質問に自身の感覚で回答するもので、会社側は従業員の仕事の負荷や感じているストレス、職場環境などを把握することができます。回答次第では、産業医との面談の機会を設けたり、職場環境の改善を実施したりすることで、うつなどのメンタルヘルスの不調を未然に防止する仕組みとなっています。

厚生労働省の「平成25年版労働安全衛生調査」において、メンタルヘルス対策に取り組む企業の割合が、2012年には47.2%だったのに対して、2013年には60.7%と急増していることからも、職場におけるストレスが増加していることがわかります。

参照:城 繁幸さん~人事部が社員の評価をしてはいけない|日本の人事部

参照:ストレスチェック制度導入マニュアル|厚生労働省

参照:平成25年版労働安全衛生調査|厚生労働省

参照:令和2年度「過労死等の労災補償状況」を公表します

2.成果主義と年功序列の比較

現代の評価の現場では、成果主義と年功序列型の両方の評価軸が混在することも少なくありません。

その上で、成果主義と年功序列の特徴は、次のように整理できます。

成果主義 年功序列
評価基準 仕事の成果 勤続年数や年齢
評価の公平性 業績に連動する評価のため、公平性がある。ただし、成果が見えにくい業務では、評価が不透明になりやすい 職種によらない公平性はあるが、業績を上げても評価と連動しないことから、ハイパフォーマーが不公平感を抱きやすい
人件費 業績により増減するため、適切な再配分や削減が可能 社員の高齢化により増大
定着率 低い傾向 高い傾向
人事評価の負荷 個別評価が必要なため、負荷は大きい 評価基準が一律のため、負荷は小さい

成果主義は仕事の成果が評価基準となるため、人件費を適切に配分しやすいことが特徴です。反面、成果重視のストレスに耐え切れなくなる社員や、より高い評価を求めて転職しようとする社員が増えるなど、人材の流動化が起こりやすく、定着率が低くなる傾向が見られます。その結果、採用コストの増大につながる可能性もあります。

これに対して、年功序列は社員の高齢化により人件費は増えますが、定着率が高い傾向があるため、採用コストを抑えやすいことが特徴です。

人事評価の負荷を見ると、成果主義は個別評価となるために運用の難度が上がり、かかる労力も増えます。対して年功序列は一律の評価基準となるため、負荷は小さいといえるでしょう。

3.成果主義と能力主義の違い

「成果主義」とよく比べられる言葉として「能力主義」があります。人事制度においては成果主義と能力主義は混在するのが一般的です。

(1)能力主義とは

能力主義とは、業務を遂行する上での「能力」を評価基準として昇進や昇給を決める人事評価制度の方針です。1960年代ごろから、それまで主流であった年功序列に代わり、従業員の能力向上や育成を目的として導入されるようになりました。

能力主義における「能力」は、知識・スキルのほか、仕事に対する姿勢など職務遂行に必要とされる能力全般のことを指します。さらには、業績や資格などの顕在的な能力に加えて、上司からの期待やポテンシャルといった潜在的な能力も評価対象となります。

能力主義の組織では、従業員は自分の能力を向上させるための自己研さんに励み、高い評価を受けるために意欲的な姿勢で仕事に取り組むことが増え、結果的に個人としての能力向上だけでなく、会社全体としての生産性や定着率を上げることが期待できます。

(2)成果主義と能力主義における評価基準の違い

成果主義と能力主義における評価基準はそれぞれ下記のとおりです。

  • 成果主義:仕事の成果が評価基準
  • 能力主義:成果に加え、成果を出すまでの過程や姿勢、知識・技術なども評価基準

成果主義は「仕事」、能力主義は「人」に主眼を置いて評価します。成果のみに着目する成果主義と異なり、能力主義は成果を出すまでの過程や姿勢も評価するため、努力の分だけ報われる制度と見ることもできます。

わかりやすい例を挙げて説明しましょう。保険会社の営業職のAさん・Bさんが、それぞれ下記のような成果を出したとします。

  • Aさん:人と話すのはそれほど得意でないが、毎日一生懸命で取り扱っている保険に関する知識も豊富。先月の売り上げは50万円だった。
  • Bさん:だらしなく、やる気はあまり見られないが口達者。先月の売り上げは100万円だった。

成果主義では、「100万円売り上げた」という成果を出したBさんのほうが評価されますが、能力主義では、Aさんの「一生懸命な姿勢」や「知識の豊富さ」も評価対象となります。

一見、能力主義のほうが良いことが多いように思われますが、能力主義では評価基準を設けるのが難しいという大きな課題があります。

(3)能力主義は評価基準を設けるのが難しい

成果主義で評価基準となる「成果」は、部署にもよりますが、数値や業績などを用いて公平性を保つことが可能です。対して、能力主義の評価基準となる「過程」や「姿勢」は、評価者によって判断が異なる可能性があります。

例えば、「部下が仕事に一生懸命かどうか」は、上司によって捉え方や基準が違います。同様に、部下が持つ潜在的な能力も上司の視点で評価するしかありません。さらには、自分のお気に入りの部下に高評価を付けてしまう可能性もあります。

こうした運用の難しさから、能力主義を導入したもののうまく機能せず、結果的に元の年功序列を踏まえた曖昧な評価方法に戻ってしまう企業が少なくありません。公正かつ客観的な評価制度の構築という観点では、成果主義のほうが導入しやすいといえるでしょう。

4.テレワークで注目される「ジョブ型雇用」や「時間当たり成果主義」

2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大は、暮らしだけでなく、働き方や人材採用、評価の手法などにも大きな影響を与えています。コロナ禍で大きな広がりを見せるテレワークで注目される「ジョブ型雇用」や「時間当たり成果主義」について解説します。

(1)大手企業も導入がすすむ「ジョブ型雇用」とは

企業のIT化促進やデジタルトランスフォーメーション(DX)に対するニーズの高まり、また働き方改革によって、新たに注目されているのが「ジョブ型雇用」です。成果主義と併せて議論されることも多いのですが、ジョブ型雇用とは職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて、人材採用や人事評価を行う仕組みのことです。

ジョブ型雇用への関心度は高く、株式会社リクルートキャリアが2020年9月に実施した調査では、人事担当者の54.2%がジョブ型雇用を「知っている」と回答しました。

ジョブ型雇用においても成果主義で評価を行いますが、成果の評価方法についてはさまざまな議論がなされています。

参考:今さら聞けない「ジョブ型」雇用|日本の人事部

出典:「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020|株式会社リクルートキャリア

(2)時間当たりの成果とは

時間当たりの成果とは、定量化した成果を労働時間で割って得られる指標です。成果を半年や1年などの期間で区切ってしまうと、長時間労働を行う従業員に有利になる場合があります。働き方が大きく変化する中で、介護や育児などで時間が限られる従業員の生産性を正しく評価するための指標として注目を集めているのです。

経済産業省では「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」において「性別や年齢などの属性にかかわらず活躍するための人事評価制度」として「時間当たり成果主義」の項目を挙げています。

参考:ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ(p. 19)|経済産業省

5.成果主義を導入する目的

成果主義を導入する目的として、主に次の四つが考えられます。

(1)人件費の適切な配分・削減

成果主義は成果によって給与が変動するため、業績を伴わない場合は人件費の削減につながります。ただし、「労働条件の不利益変更(※)」には注意が必要です。

(※)労働条件の不利益変更……労働者との合意なしに、労働条件を労働者の不利益になるように変更すること。労働契約法の第9条に、「労働条件の不利益変更」を禁止する規定があります。

(2)優秀な若手社員の流出を抑止

業績を上げても人事評価と結び付かない場合、特に勤続年数が短い若手社員が不公平さを感じて、不満を抱える傾向が強くなります。成果主義は、業績と人事評価が直結するため、優秀な若手社員の流出を抑えることが可能です。

(3)仕事への意欲向上

努力を重ねて結果を出しても人事評価につながらなければ、負荷を増やしてまで業績向上に努める意味を見いだしにくくなります。すると、現状維持で満足する社員が増えるかもしれません。

これに対して、成果主義は仕事の成果が人事評価に直接的につながるため、意欲的かつ自発的に行動する社員を増やすことが可能です。ただし、「成果を求めて仕事をする」というモチベーションが高まるのであって、仕事をすること自体へのモチベーションが高まるとは限らないため注意が必要です。

(4)業務効率化の推進

仕事の成果を高めるには、プロセスを見直して効率化を図ることが重要です。そのため、自発的に業務効率化に努める社員が増え、組織全体のパフォーマンス向上につなげやすい、というメリットがあります。

近年では働き方改革が進み、残業時間を厳格に管理する企業が増えています。労働時間を増やしてでも成果を出すという考え方は推奨されないため、効率化を目指しやすいという背景もあります。

6.成果主義を導入する際に留意しておく課題

成果主義の導入に当たって注意すべき点は、主に次の五つです。

(1)評価基準の設定が困難

成果主義では、仕事の成果を客観的に評価できる基準を設定する必要があります。営業職のように数値で成果がわかる業務は比較的容易に設定できますが、企画職・事務職・研究職といった成果を数値化しにくい業務は、客観的な評価が難しくなります。また、成果を出すまでに長い期間を要するプロジェクトなども、どのように評価すべきかを検討しなければなりません。

(2)人事評価に対する負荷の増大

成果主義では、誰の目にも透明性のある基準を設けることが重要です。全社員に一律の評価基準を設ける場合と比べて、成果主義では個別評価が必要となるため、運用にかかる労力は大きなものになります。

人事評価の公平性を保つため、MBOに加え「360度評価」を取り入れる企業もあります。360度評価とは、上司のみの評価だけでなく部下や同僚も評価を行う仕組みです。被評価者が増えるため、評価業務の負荷は大きくなります。特に、評価シートの回収や記入のリマインドなど、評価業務を取りまとめる人事部門への負担が大きくなる可能性があります。

(3)定着率の悪化

仕事の成果が人事評価に直結する成果主義の下では、高いプレッシャーが常に社員へかかります。優秀な社員にとってはモチベーションを維持しやすい環境といえますが、業績が思わしくない社員には強いストレスとなることもあるでしょう。その結果、辞める社員が増え、定着率が下がるというデメリットが生じるかもしれません。

社員によって成長スピードは異なりますが、短期的に評価を受け続ける成果主義では、今後伸びるポテンシャルを持った社員が退職してしまう可能性もあります。

(4)個人プレーに走りチームワークが低下

成果主義では業績へのこだわりが強くなるため、個人プレーに走るケースも見られます。また、相対評価(※)の場合は同じチームであっても競争原理が働くので、顧客の奪い合いの発生、ノウハウの囲い込み、後輩を育成する意識の欠如が予想されます。その結果、チームワークが低下し、組織全体の連携が悪くなるなど組織力の低下を招くリスクもあります。

(※)相対評価……社員同士を比較して評価を決める方法。全社員の何割を高評価にするといった手法がある。反対の言葉として、社員同士を比較せず、絶対的な基準で評価する「絶対評価」がある。

(5)個人の短期的なメリットのみを優先

短期的な評価を受ける成果主義では、すぐに業績につながらない仕事や、リスクを抱えるような企画に対して、社員が消極的になりがちです。事業や組織への貢献よりも個人のメリットを優先する傾向があり、大局的な視点に欠けてしまう場合があります。

短期的な結果を出せる仕事をしたほうが社員のメリットが大きい状態では、中長期的な視点で事業の成長を考える機会が減り、幹部社員の育成が難しくなるデメリットも考えられます。

7.成果主義における評価方法と賃金設計

成果主義を賃金に反映させるには、評価方法と評価内容を明確にする必要があります。評価基準の設定に当たっては、以下の点に留意します。

参考:平成15年版労働経済の分析 第3節 賃金制度等の動向|厚生労働省

(1)具体的かつ客観的な目標を設定する

成果主義の評価方法において重要になるのが、何をもって「成果」とするのか、基準を具体化することです。基準が曖昧であれば、評価者によるぶれが生じる原因になります。特にバックオフィスの事務職の場合は、設定した目標を誰が評価しても公正さを担保できるかどうかを十分に検討する必要があります。バックオフィス部門であっても、可能な限り成果を定量化し、評価しやすい目標設定を意識しなければなりません。

例えば、総務部門であれば業務効率化によって「業務工数の削減」や「経費削減」などの目標が考えられます。削減だけでは曖昧なので、一歩踏み込んで「前年比10%の削減」など明確な数値を掲げるようにすると、評価者によるぶれが生じることはありません。また、成果が出たという状態を明確にすることも重要です。

「従業員全員が完全にテレワークに移行できた」といった具合に、達成の状態を明確に定義することが重要です。基準を明確にすることで、フラットな評価が可能になり、従業員にも評価基準について明確に説明できるので不公平を感じることもありません。

(2)目標の難易度が適切か検討する

目標の高さは期待値の表れともいえますが、高過ぎる目標は従業員のモチベーションを下げてしまうこともあるため、注意が必要です。実現可能な基準となっているか、従業員が納得して取り組めるかという観点から検討することが重要なポイントです。一方、低過ぎる目標は、成果主義による評価を形骸化させるリスクがあります。

また、従業員によって難易度にばらつきがあると、不公平感が生まれ、従業員満足度の低下にもつながってしまいます。目標設定のロジックを明らかにすることで、不公平と感じさせないようにする必要があります。

フラットな評価をするために評価の内訳を細かく点数化して設定したり、目標の難易度をランク分けして達成度だけでない評価方法を確立したりするなどの配慮が重要です。

(3)部署や職務の成果に貢献する項目を評価する

営業部門・生産部門・企画開発部門など、それぞれの部門・職種によって事業への貢献の仕方は変わります。評価基準を設定する際は、各部門・職種のどのような成果が事業への貢献度が高いのかを明確にする必要があります。また、個人ではなく、チームでの成果が重要になることもあるでしょう。

評価項目は事前に周知することも重要です。評価項目を設定した後は、評価シートの形式に落とし込んで事前に配布するなどして周知を図ります。評価する側・される側の双方がしっかり理解できるよう、説明の場を設けることも大切です。

(4)賃金への反映方法

成果主義における評価結果の賃金への反映方法を三つみていきます。

<1>給与に歩合制を導入する

毎月の給与に歩合制を反映させ、成果の達成度合いに応じて給与を増減させる方法です。成果分のみで給料を決定する「完全歩合制(フルコミッション)」と、一律の基本給に成果分を上乗せする「基本給+歩合制」の二つのパターンがあります。

一般に完全歩合制は、正規雇用ではなく業務委託契約などに用いられる賃金形態です。成果を出すほど高額な賃金を受け取れることになりますが、成果を出さなければほとんど収入を得られなくなるため、プレッシャーは大きくなります。

ただし、労働基準法第27条で「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定められており、完全歩合制であっても、労働時間に対する一定の賃金は支払う必要があります。

「基本給+歩合制」では、歩合率の設定が重要です。歩合率が低過ぎると従業員の意欲につながりません。逆に、高過ぎると労働基準法第27条の「出来高払制」に該当してしまうため注意が必要です。従業員のモチベーションと人件費率、また法律の観点も入れて検討を進める必要があります。

<2>賞与額を成果の達成状況に応じて決定する

成果に応じて賞与(ボーナス)の額を決める方法もあります。賞与に反映させる方法は基本的に毎月の給与に反映させる考え方と同様で、成果に応じた比率を設定するのが一般的です。評価結果を給与のみ、または賞与のみに反映させる方法もあれば、給与と賞与の両方に反映させる方法もあります。

<3>成果に応じてインセンティブ報酬を支給する

成果を出したときに、インセンティブ報酬を支給するという方法です。インセンティブ報酬では、下記の4点を検討する必要があります。

  • インセンティブ報酬の対象
  • インセンティブ報酬を支給する条件 (新規契約者数に応じて支給する、受注額に応じて支給するなど)
  • インセンティブ報酬の額 (新規契約者数〇人につき〇万円、受注額の〇%を支給するなど)
  • インセンティブ報酬の期間 (半年に1回、4ヵ月に1回、毎月など)

これらを考慮して成果に応じたインセンティブ報酬を定めるとよいでしょう。

<4>年俸制を導入する

賃金形態を年俸制にし、成果の達成度合いを翌年の年俸に反映させるという方法は、従業員にとって、あらかじめ1年間の収入がわかるため、計画を立てやすいという利点があります。半面、直近の成果が収入に反映されるまで時間がかかる点はデメリットといえます。

1年スパンでの報酬の変動は、月給に比べるとモチベーションを維持しにくい側面もあります。長期間で成果を生み出す職種には適していますが、1ヵ月単位など短期間に業績を上げる必要がある職種では不向きです。

8.成果主義を賃金制度に反映させる上での注意点

成果主義を賃金制度に反映させるには、いくつかの注意点があります。成果主義を正しく機能させる上でも、事前に確認しておくことが大事です。

(1)社内規定への反映

成果主義を賃金制度に反映させる場合、就業規則などの社内規定に内容を記載しなければなりません。現行の規則の改正または新規の規則として盛り込むようにしましょう。

また、賃金制度の変更は、従業員のモチベーションや生活に多大な影響を与えます。従業員によっては不利益になるケースもあるため、注意が必要です。これまで年功序列型の賃金制度を実施していた場合は、勤続年数の長い社員ほど不満を感じる傾向があります。

このことを十分に理解した上で、慎重に説明責任を果たすことが重要です。成果主義による評価の合理性や制度内容を周知し、規定改正について従業員に納得してもらえるよう努めなければなりません。

(2)評価者のトレーニング

成果主義の導入において失敗する要因の一つが、評価の不透明感です。評価基準を明確にしても、評価者が適切に評価できなければ公正さを保つことはできません。結果として、評価される従業員の不満が募り、制度がうまく機能しなくなります。

これを回避するには、事前に評価者のトレーニングや研修を行う方法が有効です。制度内容や評価方法についての理解を統一し、一定レベルでの評価ができるように指導します。人事異動や昇格などで評価者が入れ替わる場合もあるため、研修やトレーニングを定期的に実施するとよいでしょう。

(3)コミュニケーションの見直し

テレワークを導入する企業が増えるにつれ、既存の人事評価の課題が顕在化しています。同じ執務エリアで業務を遂行していれば、部下の仕事ぶりを見ることができますが、在宅勤務では難しい状況です。そのためテレワークの場合、特に「プロセス評価」について不公平感などの問題が生じる可能性もあります。部下・上司が目標に対する共通認識を持ち、質の高いコミュニケーションを行うことが重要です。

参考:「納得感」とは「目標の明確さ」「目標達成の意欲」そのもの――上司と部下と組織をつなぐリモート時代の人事評価|日本の人事部

9.成果主義が社員の不利益にならないように

成果主義が目指すべき本来の姿は、成果を上げた社員を適切に評価し、努力に報いることです。

しかし実際には、業績を出せないことへの罪悪感を植え付ける方向でマネジメントしているケースが少なくありません。「罰」によって社員をマネジメントしても、意欲的な行動にはなりません。パフォーマンスが上がらないだけでなく、組織への不満が募り、離職者が増える悪循環につながっていきます。

昨今では、成果を出さなければならないプレッシャーが引き金となって、メンタル不調を訴える社員も増加しています。

本来の成果主義の目的は、社員のモチベーションに働きかけることで、企業と社員の双方にメリットをもたらすことです。行き過ぎた成果主義で社員の不利益を生まないよう、導入・運用に当たっては十分に検討する必要があります。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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