顧客企業の経営指標の改善にコミットする
定量分析をベースとした科学的人事コンサルティング
株式会社トランストラクチャ 代表取締役 シニアパートナー
林明文さん
日本の人事と人事コンサルティング業界に必要なもの
現在の人事コンサルティング業界の現状をどのようにご覧になっていますか。
単刀直入に言うと、日本の人事コンサルティング業界は、ほかの分野のコンサルティングと比較してとても遅れていると思います。教育系では比較的大規模な会社もありますが、制度設計を手がけるコンサルティングの市場はまだまだ未成熟です。当社が潜在市場と捉えている従業員数300~3000人の企業は相当数ありますが、需給で考えるとまったく市場開拓が進んでいないのが現状でしょう。
その理由はやはり、これまで人事がデータで語られてこなかったからだと思います。経理の財務諸表は経営会議で常に報告され、分析・検討されますが、同じくらい重要な経営資源と言われる人事には、統一された書式もなければ、経営にきちんと報告するタイミングもほとんどない状況です。退職者数や採用数くらいは数字で出しているでしょうが、人件費がどう変動していて、生産性やモチベーションはどうなっているのかを、数字でしっかりと把握している企業はほんの一握りでしょう。これでは経営者は人事に投資しようという気になれません。人材開発に投資すするとこれだけ生産性が上がって経営に寄与する、といった人事の価値を数字で示せなければ、人事コンサルティング業界の発展はありません。
貴社が掲げる定量分析をベースとしたコンサルティングが、ますます重要になるわけですね。
もう一つ挙げるとすれば、経営者が人事コンサルティングに求めるのは、自社のポートフォリオとパフォーマンスの改善に尽きるんです。具体的には、売上を伸ばしたい、経営を安定させたい、といったこと。それに対して、人事コンサルティング業界が提供しているのは、「人事管理システムを導入しましょう」「新しい人事制度を作りましょう」といった施策だけ。つまり、経営者が求めている大きな目標に対して、一つひとつの「パーツ」を提供する機能しかないのです。こういったサービスをすべて統合して、システムから制度設計、採用、アウトプレースメント、教育までをトータルに提供できる「人事サービス業界」になっていくべきだと思いますね。弊社が「アカウントマネジメント」に注力してサービスを提供しているのもまさにそれが理由なのですが、やはり業界全体が変わることが必要だと痛感します。
サービスを受ける経営者や人事も、変わる必要がありそうですね。
経営における人事管理にまで踏み込んで業務を捉えている人事、つまり自分たちの仕事が会社業績に寄与しているんだ、と実感を持てる人事部門がどれだけあるかでしょうね。効率的に事務処理を行うことだけが、人事の役割ではないはずです。経営がそこまで求めていないからかもしれませんが、私たちが客観的なデータに基づく事例をどんどん発信していかなければならないと思っています。
人事管理のレベルが上がるのは不況の時です。日本でもバブル崩壊後、そしてリーマンショック後には人事管理が大きく発展しました。業績が低迷すると、人件費をなんとかしたいといった課題が見えやすくなるからです。今は経済が好調に推移していますから、人事管理にあえて手をつけなくても何とかなっている状況。管理職が多すぎるとか女性活用が進まないとか、課題はありますが「まあいいや」という感じかもしれません。次は東京オリンピック後、おそらく2020年代前半にまた、大きな改革の波が生まれると予測しています。今はそれに向けての大事な準備期間ともいえますね。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。