求職者が仕事を探す際、興味を持った企業についてインターネットで検索し、詳細な情報を確認した上で応募をするという流れが一般的になってきています。
また、求職者の仕事に対する考え方や働き方が多様化する中、給与や社会的地位だけでなく、働きやすさや社会貢献といった“意味報酬”を重視するというケースも見られます。
こうした情報リテラシーの上昇や、価値観の変化は、スマートフォンの普及や社会環境の移り変わりに合わせて徐々に進んでいましたが、2020年以降、採用活動のオンライン化が進行したことで、変化のスピードは加速しました。組織文化などの非言語情報が伝わりきらず、求職者が不安を残したまま入社したり、その後ミスマッチが発生したりといった課題を抱える企業が増加し、対策の重要性が増しています。
このような状況から、企業と求職者の双方が納得した採用を実現するために、企業側の情報発信力がますます求められています。変化に素早く対応し、適切な情報を伝えていくためにも、自社主体でコンテンツを作成して発信が行える「オウンドメディア」は欠かせません。
Indeed Japan株式会社では日本における採用のミスマッチをなくすことを目指して活動する「オウンドメディアリクルーティング プロジェクト」を通じて、求職者が自分に合ったより良い仕事を見つけられる世の中の実現に取り組んでいます。
その取り組みの一環として、「オウンドメディア」を採用に活用する先進的な企業の取り組みを表彰し、求職者と企業それぞれにとってよりよい採用のあり方についてより広く発信するべく、Owned Media Recruiting AWARDを2019年よりスタートしました。
2021年も第3回の開催が決定。9月のエントリー開始に合わせ、過去にグランプリを獲得したサイボウズ株式会社 人事本部 部長の青野氏と、株式会社ユーザベース コミュニケーションズチーム UB Journal編集長の筒井氏に、オウンドメディアリクルーティングの可能性について聞きました。
- 青野 誠さん
- サイボウズ株式会社 人事本部 部長
(あおの・まこと)2006年早稲田大学理工学部情報学科卒業後、サイボウズ株式会社に新卒で入社。営業やマーケティング、新規事業の立ち上げなどに携わった後に人事へ。現在は人事本部のマネジメントや採用・育成・制度企画などを推進。NPO法人やベンチャー企業の人事部門でも複業を経験するなど、自ら多様な働き方を実践している。著書(共著)「わがままがチームを強くする」(朝日新聞出版)。
- 筒井 智子さん
- 株式会社ユーザベース コミュニケーションズチーム UB Journal編集長
(つつい・ともこ)新卒で金融業界向けITコンサルタントとして働く。2006年にリクルートエージェント(現リクルートキャリア)に転職し、キャリアアドバイザーとして様々な職種・業界を担当。2014年、WEB系企業へ転職し、BtoBマーケティングに従事。その後フリーランスのライターを経て、2019年に株式会社ユーザベースへ入社。カルチャーエディターとしてUB Journalの執筆編集やインナーコミュニケーションの活性化を担う。2020年1月より現職。
求職者に刺さるオウンドメディア『サイボウズ式』と『UB Journal』
サイボウズは、複数のコンテンツを通じて、自社の魅力や目指す方向性を明確に打ち出されていることが高く評価され、2019年に初代グランプリを獲得されました。特にオウンドメディアの『サイボウズ式』は、会社の核となる「チームワーク」をさまざまな角度から取り上げていて、高い人気を誇っています。
青野:グランプリを獲得したことは、『サイボウズ式』編集部にとってかなり励みになっています。『サイボウズ式』は、コーポレートブランディングを目的に立ち上げたメディアです。当社が扱うグループウェアという商材は、組織にどんな効果をもたらすのかがなかなか伝わりづらいところがあります。そのわかりづらさが、採用や社内のモチベーション維持にも影響していました。そこで、「自分たちは何をしたいのか」を発信することが大事ではないかという思いから『サイボウズ式』はスタートしました。
採用においてで効果を実感しはじめたのは、開設して数年経ってからです。今年で10年目に突入しましたが、「そもそも継続できていることがすごい」とよく言われます。
筒井:『サイボウズ式』は、企業のオウンドメディアを運営する人にとって、まさにお手本のような存在です。実はユーザベースでオウンドメディアを立ち上げたばかりの頃、『サイボウズ式』の編集長の藤村(能光)さんにブレストでご協力いただいたんです。
そんなご縁があったとは! ユーザベースは2020年の第2回でグランプリを受賞されました。採用サイトとジョブディスクリプション、オウンドメディアの『UB Journal』ではミッションやバリューを前面に提示し、求める人材像に届くような表現やサイトの構成が評価のポイントとなりました。
青野:第2回では審査員としてユーザベースのサイトを拝見しました。デザインや見せ方はシンプルでありながら、言葉や写真の選び方、UIに至るまでユーザベースらしさが行き渡っていて驚きましたね。審査員の間でも、「これは求職者に刺さるよね!」と話題になっていました。
筒井:ありがとうございます。以前から社内のメンバーはインタビューなどに協力的でしたが、受賞後はより社内の協力も得やすくなったと感じています。「この人にもインタビューして!」「ウチのチームを取り上げてほしい」といった声をいろいろな部門からもらえるようになりました。うれしい悲鳴とはまさにこのことです。
2020年のアワードにエントリーした直後に、『UB Journal』とは別に『UB note』というメディアを立ち上げました。『UB Journal』には主に役員やリーダーが登場し、全社的なチャレンジや事業の背景、ビジョンなど「コト」に向いた内容を中心に取り上げています。それに対して、『UB note』は社員の人となりや実際の働きぶりなど現場のリアル、いわゆる「ヒト」に向き合った内容にフォーカスする形で区別しています。
筒井:私は「どんなメンバーと働くか」を知ることは、「どんな仕事をするか」と同じくらい大事なことだと考えているので、できるだけ多くの社員を紹介したいんです。最近はチームの紹介や複数メンバーが登場する記事も増やしています。現場も協力的なので、とても心強いですね。
青野:当社も、各部門の採用に対する認識が変わってきているように感じます。人事に頼りきるのではなく、部門や職種単位で独自に情報を発信するケースが増えてきました。先日も営業本部が、営業本部用の採用サイトを立ち上げたんです。私の知らないところで動いていて、少々驚きましたが(笑)。
筒井:そこまで積極的とは!
青野:『サイボウズ式』はオフィシャルな発信をする場所なので、記事を掲載するための手順や内容の精度は、少しハードルが高い側面があります。もう少しカジュアルに発信したいと考え、事業部でブログやSNSを運用しようという流れになるのでしょうね。
自社のサービスまでもがメディアになる。
Webコンテンツに留まらない「オウンドメディア」の形
オウンドメディアとひと口に言っても、レイヤーがあるのですね。求職者の方からは、どのような反応がありますか。
筒井:『UB note』で社員や働き方について発信を始めてから、「記事を読んでエントリーしました」「入社意欲が高まりました」といった声を聞くことが多くなりました。
以前、青野さんが「採用者90人のうち30人は『サイボウズ式』がきっかけで入社した」と話されていたインタビューを拝読し、『UB Journal』や『UB note』もそういう媒体を目指していきたいと思っていたので、とてもうれしいです。
青野:内定者に応募のきっかけをたずねると、『サイボウズ式』は今でも変わらず1位です。最近の変化をあげると、書籍が3位に入るようになりました。代表の青野が書いたサイボウズの働き方やチームワークの考えをまとめた本『チームのことだけ考えた』を、応募するにあたって読み込んだという人が一定数おられます。ポイントが網羅されていて、会社について事前に理解を深めるにはちょうどいいと。
2019年に「サイボウズ式ブックス」という出版事業を立ち上げましたので、今後も書籍を通じて私達の考え方を継続的に発信していく予定です。
筒井:私も拝読しました。ユーザベースにはNewsPicksパブリッシングという自社書籍部門もあるので、いつか書籍化にもチャレンジしたいと考えています。
青野:サイボウズの場合、サービスのユーザーから応募をいただけるというケースもよくあります。サイボウズのグループウェアを使って自分のチームが変わっていくのを体験し、その価値をもっと世の中に広めたいと思ったと。そこから『サイボウズ式』や書籍に触れ、サイボウズが自社でもチームワークを大切にしていることを知って、働きたいと感じていただけているようです。製品自体がオウンドメディアのような役割を果たしています。
筒井:オウンドメディアというと採用の入口のような印象もありますが、先日「最後のひと押し」のところで効いた出来事がありました。複数の企業の選考を並行して受けられている求職者の方が、採用選考の終盤で、他社と迷っていたところ、当社で配属を予定しているチームのメンバーが出ていたインタビューを読んでいただいたらしく、「この人に直接話を聞きたい」と人事に問い合わせてきたんです。カジュアル面談の形で、記事でインタビューした本人と話す時間を設けたところ、それが決め手となって入社いただけました。
青野:それは興味深いですね。オウンドメディアがどこに作用するのか、運営側も柔軟な視点を持つことが大切ですね。
「カルチャーの言語化」と「キズを見せていく」が
オウンドメディアリクルーティングのカギ
自社のオウンドメディアのどの部分が、求職者に刺さっていると思いますか。
青野:各部門が運営するSNSも含めて色々な媒体がありますが、「チームワークあふれる社会を創る」という根幹のメッセージは一貫していて、そこに共感してくださる方は多いと感じています。
どのメディアのどの発信を見ても、「チームワーク」というキーワードがベースになっている。たとえば営業部門を紹介した記事では、個人にノルマを課すのではなく、チームで成果を上げていくという考えを取り上げていて、とても人気があります。事業の方針、組織のあり方、発信のトーンと、それぞれで軸がぶれていないところが、信頼性と納得感をもたらしているのかもしれません。
営業なのに「個人ノルマなし」「働き方も自由」でサボらないんですか?(サイボウズ式)
筒井:これから事業部別やエンジニア向けの採用サイトをつくろうと企画していたので、今のお話はとても参考になります。発信者や発信媒体が増えても一貫性を保つ秘訣はどこにあるのでしょうか。
青野:会社の核となる部分やカルチャーが組織に浸透するように、言語化を意識することでしょうか。結局、面接での社員の言動やSNSでの言葉遣いには、その企業の哲学のようなものがにじみ出てくると思っています。
言語化の例として、「風土セッションズ」という組織戦略室長と私のトーク番組を定期的に社内配信しています。実際に社内で起こったモヤモヤする出来事を社員から募って、サイボウズのカルチャーに照らし合わせてアドバイスし合う内容です。
筒井:なるほど、ありがとうございます!当社共通の価値観である「The 7 Values」をはじめとしたカルチャーが浸透しているので、一貫性は保てそうだと安心しました。採用ではスキル以上に、カルチャーフィットを重視しており、カルチャーにまつわる、さまざまなキーワードがあります。中でも特徴的だとよく言われるのが「オープンコミュニケーション」です。「コトに向かってストレートに伝え合う」「お互いの見えている景色を交換する」みたいな意味と捉えていただければと思いますが、解釈の幅が広い言葉なので、多くの人が入社直後に戸惑うところでもあります。
そこで、少しでも理解の助けとなるよう、記事ではエピソードを交えながら伝えるようにしています。たとえばチームのコミュニケーションがうまくいっていないときに、役員が「お互いが不満に思っているポイントをホワイトボードに書き出していこう!」と景色交換を促したエピソードを紹介したこともあります。
青野:それはすごいですね……!
筒井:会社全体で、いいことも悪いことも隠さず伝えることを徹底しているんです。それは広報やIRも同じです。ですからインタビューでは、チームの課題やできていないところなども正直に話してもらっていますね。記事にするときの表現は多少工夫しますが、ネガティブに思われるかもしれない情報や泥臭いところも、隠さずリアルを伝えるようにしています。
青野:今のお話はとても共感できます。会社や組織が完全無欠であることはないから、いいところばかり発信して取り繕っても仕方がない。それに今の時代、会社が黙っていたって口コミサイトや個人のSNSでさまざまな情報が発信されます。むしろ、そうしたアンオフィシャルな発信を目にした求職者が感じた疑問を、うまく解消できる場を設けるほうが有意義だと思います。
その一環として、昨年「Q&Aライブ」というイベントを始めました。転職口コミサイトの辛辣な書き込みなど、採用にまつわる情報への疑問を参加者から受け付けて、「実際はこうですよ」とひたすら回答するものです。本当のところを生の声で届けることが、求められていると思います。
人と組織をつなげるオウンドメディアリクルーティングのさらなる可能性
これからの時代の採用活動を踏まえると、オウンドメディアではどのような情報発信が求められると思われますか。
青野:コロナショック以降、採用面接で「働く意義をあらためて考えた」と話す人が増えました。そうなると、会社が何を目指しているのか、そこで働く人がどのような思いを持ち合わせているのか、という部分に関心が集まるようになる。近年パーパスが注目されているのは、そうした流れも影響しているのだと思います。
美辞麗句で理念を表現したところで、誰にも響きません。どのように理念を体現しているのかという事例、また会社としてのパーパスと自己のビジョンとを重ね合わせる社員の姿を伝えていくことが、求められているのではないでしょうか。
筒井:新型コロナをきっかけに採用選考がオンラインで実施されるようになり、入社後もリモートワークが前提となりました。その結果、自チーム以外の人と交流する機会が限られてしまうなど、コミュニケーションの総量、特に仕事以外のコミュニケーションを取る機会が少なくなっているように感じます。特に一人暮らしの若手ビジネスパーソンなどは、孤独からメンタル不調に陥るといったニュースも見かけます。
先日、とあるインタビューを公開した直後に、記事を読んだ社員が「こんな人が社内にいたんだ!」と記事で取り上げた本人にDMを送り、オンラインで1on1をしたという話を聞きました。オウンドメディアというと採用などの外部向けの効果に注目しがちですが、実は社員間の交流やエンゲージメントを高めるなど、社内向けの効果も期待できます。
青野:オンボーディングでも効果がありますね。研修前から、オウンドメディアのいろんな記事を読んでいる人は、カルチャー理解がとても早い。ただ、たまに記事の内容を表面的に解釈され、「あれ? サイボウズって残業ないんじゃないの?」と入社後に聞かれることもあります。人事制度の方針は100人100通りの働き方なので、残業している人も多くいます。そこは表面的な内容だけでなく、制度ができた経緯やチームづくりの考え方を入社後に伝えていく必要があると感じています
筒井:先ほど媒体の多様化や社員個人の発信の話も出ましたが、そうしたさまざまな情報につながる窓口としても、オウンドメディアには存在価値があります。当社では『UB note』を事業部別にマガジン化したり、毎月「まとめ」と題してその月に出たプレスリリースや注目のコンテンツを紹介する記事をアップしたりしています。会社や組織について知りたい求職者が最初に訪れるエントランス的な役割を持った場所として整えることを意識しています。
最後に、Owned Media Recruiting AWARD 2021へのエントリーを検討している読者のみなさんに、メッセージをお願いします。
筒井:オウンドメディアを運営していると、その効果について、社内から疑問の声を耳にすることもあるかと思います。でも、外部から評価を受けると、社内への説明がスムーズにいくはず。当社も『UB Journal』立ち上げたばかりの頃、創業者の一人から「これって意味あるの?」と問われたことがありましたが、Owned Media Recruiting AWARDを受賞してからは、記事にいいね!やコメントをするなど、応援してくれています。エントリーして決して損はないと思います!
青野:アワードに参加するには、コンセプトや課題に対しての施策、運用の定量的効果など、エントリーフォームに記入する内容の準備が大変ですよね。それでも、言語化する作業を通じて総括が行えることは、オウンドメディアを運営するにあたり大きなメリットになります。自分たちのコンセプトやこれまでの活動を再確認する意味でも、エントリーする価値はあると思います。他の会社のオウンドメディアを見るなど、貴重な勉強の機会にもなります。ぜひチャレンジしてみてください!
Owned Media Recruiting AWARD 2021はこちら求職者に対して自社主体でメッセージを発信し、人材獲得につなげる採用手法、オウンドメディアリクルーティング。ニューノーマルが定着してきた昨今、オンラインでの情報発信はますます重要になっています。
本アワードでは、オウンドメディアリクルーティングを取り入れながら、求職者・企業双方が充足する採用を目指した企業を表彰します。
現在、絶賛エントリー募集中。10月12日(火)まで受付中です。