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「人のための組織づくり」への発想の転換 今、企業社会のあり方が問い直されている

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じっくり話しあって採用したはずの新入社員が「未来が見えない」といって早期退職していく。会社の主力であるべきミドルマネージャー層が疲弊して、社内に活力が感じられない。イノベーションが求められているのに、リーダーシップをとる人材がいない……。多くの会社が抱えるこうした課題は、それぞれの企業だけの問題ではないかもしれません。第1回『日本の人事部』HRアワードで教育・研修部門最優秀賞を受賞した、株式会社ジェイフィールの代表取締役・高橋克徳さんは、「『組織のための人づくり』を続けてきた20世紀型の企業システムが機能不全を起こしつつある」といいます。新しい価値観を持った若い世代の力を引き出し、激変する社会を生き残るには、「人のための組織づくり」へと発想を転換することが不可欠だと提言する、高橋さん。「人のための組織づくり」とはどういった考え方なのか。その背景から実践のためのポイントまで、詳しくお話をうかがいました。

プロフィール
高橋 克徳氏
高橋 克徳氏
株式会社ジェイフィール 代表取締役

(たかはし かつのり)野村総合研究所、ワトソンワイアットを経て、ジェイフィール設立に参画。2010年より現職。
2013年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、2018年より武蔵野大学経済学部経営学科特任教授を兼務。
榊原清則、野中郁次郎に師事し、組織論、組織心理学、人材マネジメント論、人材育成論を専門とする。
特に、人と人との相互作用が組織に与える影響、ダイナミズムを研究し、組織感情、リレーションシップなどの新たな切り口を提示し、組織変革コンサルティング、人材育成プログラムの開発などに力を入れている。
2008年に出版した「不機嫌な職場(共著、講談社現代新書)が28万部のベストセラーとなり、その後も数多くの書籍や講演活動を通じて働く日本人の心の再生への動きをリードしている。

若手が抱く違和感は企業社会への本質的な問いである

貴社が提唱されている「人のための組織づくり」という考え方は、どういうところから生まれてきたのでしょうか。

私たちは、時代が大きく変わるなかで、人がイキイキと働ける場としての組織はどうあるべきか、また、良い会社、良い組織とはどういうものかといったテーマに一貫して取り組んできました。さまざまな企業の課題と向き合うなかで見えてきたのが、20~30代の若い世代が企業という組織のあり方に覚えている「違和感」だったのです。

厚労省の「労働経済白書」でもとりあげられていますが、若い世代を中心に「管理職にはなりたくない」人たちが過半数を超えるようになりました。責任が重すぎる、ワークライフバランスを犠牲にしたくない、仕事が大変なのにそれに見あった給与がもらえそうにないなど、理由はさまざまですが、根本的には彼らの価値観と、今の企業の管理職の役割、位置づけがマッチしていないことが大きいように思います。かつては、責任と権限を持って組織をリードしていきたい、その仕事を通して自身も成長したい、といった上昇志向で管理職をめざす人が多くいました。それは企業が管理職に求める役割とも一致していました。しかし、今の20~30代の仕事に対するモチベーションを調査すると、「仲間と楽しく働きたい」という項目が上位にきます。つまり、企業社会と彼らとでは求めるものが違ってきているのです。

これまでは当然だったことが今の若い世代には疑問に思えるというケースは、ほかにもいろいろとあります。「この仕事の目的や意義は何なのか」「なぜ企業は成長が大前提なのか」「企業は自社の業績の前に、社会に必要とされる存在であるべきではないか」「残業や転勤は本当に社員の幸せを考えてのものなのか」。ところがそんな疑問を口にすると上司は「会社とは、仕事とはそういうものだ」「そんなことを考える時間があったら仕事をしろ!」という。そんな返答を聞いて、「この会社には未来がない」と若い世代は感じるのだというのです。

彼らがこうした違和感を覚える背景には、大きな「時代の価値観の変化」があると考えなくてはなりません。今の若い世代は、成熟社会で育ったため、右肩上がりの成長を経験できませんでした。同時に、自分だけの利益を追求しても社会全体、周囲がともに発展しなければ、結局は誰も幸せになれない社会が来ていると感じています。また、デジタルネイティブ世代でもある彼らは、自分たちのやりたい「全体を良くしていくような仕事」が、ネットの中ではスピード感を持って次々と実現していることも知っています。しかし日本の企業社会は、そういった変化に気づきながらも、スピード感のない非常に閉鎖的な世界にしか見えない。違和感の原因はそこにあるのではないでしょうか。

「競争心がない」「自らを前に押し出そうとしない」「自らリーダーになろうとは思わない」。でも一方で、「周囲との関係を大切にする」「フラットな関係性の中では力を発揮する」「これまでの概念にとらわれない発想ができる」。そうした若手世代が、10年後には組織や社会の中核になっていきます。彼らにこれまでの企業社会がつくってきた当たり前、常識を押し付けるのではなく、世代や性別、国籍を超えて、ともに未来のあるべき姿、働く人たちすべてが幸せになっていく新たな姿を探求する姿勢が、今、企業にとっても、個人にとっても求められているのではないでしょうか。

株式会社ジェイフィール 高橋克徳氏photo

「組織のための人づくり」が個人の創造性を奪っている

若い世代の変化を意識した「人のための組織づくり」が重要ということですね。同時に、企業としては効率や生産性も気になるところではないでしょうか。

そのためには、企業をとりまく「環境変化」を考える必要があるでしょう。経営陣が方向性を決め、それに従ってマネジャーが現場を動かしていく従来型の企業システムは、20世紀の大量生産社会を前提につくられたものです。それが今、問い直されています。ITによる情報革命によって、欲しい人に欲しいものをピンポイントで届けることが可能になり、ビジネス環境は大きく変化しました。いちいち上に意思決定してもらうのではなく、顧客にもっとも近い現場を起点に、新しいチャレンジにどんどん取り組むことが求められるようになっています。これからは、みんなで対話しながら自律的・自発的に動ける組織、走りながら現場で修正していけるようなシステムこそが望ましい。しかし、現状ではマネジメントの仕組みがその変化についていっていません。

会社とはそもそも、自分たちのやりたいことをやるための組織だったはず。しかし、規模が大きくなり、利益を追求していくと、会社の存続そのものが目的化していきます。そこでは効率的になろうとするほど、「組織の利益のために個人はどう動くべきか」という発想になっていきます。その結果として確立されたのが「組織のための人づくり」であり、新卒一括採用からはじまる日本的雇用慣行だったといえます。会社が決めた方向に向かって一斉に動けばいい時代なら、それでよかったでしょう。しかし、さまざまな方向感が生まれ、多様性があたりまえの時代になると、組織はより柔軟な対応を求められます。その変化に向き合わないと、企業は取り残され、淘汰されてしまう。すでにそういう事例も出てきています。これまでのシステムそのものが機能不全を起こしているのですから、かつては効率が良かった、生産性が高かったと捉われてしまうと、近い将来、必ず行き詰まることになるでしょう。

さらに「組織のための人づくり」を続けていくと、組織にあわせた同じ考えを持つ人ばかりを育ててしまうことになります。このような組織は変化に弱く、スピード感もありません。人の持つ自由意志を制限することで成り立っているので、個人の創造性や主体性を気づかないうちに奪っていきます。「新たなチャレンジやイノベーションが求められる時代と言いながら、一人ひとりのやりたいことをやらせてもらえない」。そういう声をあげることもできない組織は、若い人たちをさらに委縮させ、すでに働いている人の間にも諦めばかりが広がっていくことになります。不機嫌な職場が生まれたり、マネジャー層が疲弊したりするなどの課題は、まさに「組織が人のためのものになっていない」現状から生み出されているといえるのではないでしょうか。

むしろ現代においては、「人のための組織づくり」に切り替えない限り、企業は存続すらも危うい、ということでしょうか。

その通りです。そして、「人のための組織」をつくることは、決して効率や生産性を犠牲にするのではなく、むしろ人の思いや意思、そこから生まれる個人の創造性や主体性をより活性化させる大きな可能性を秘めている、と申し上げたいと思います。

職場において、給与や昇進といった外発的モチベーションを持続させるには、永遠にニンジンをぶらさげていなくてはなりません。しかし、それは一過性のものであって、続けているうちに「これさえやっていればいいんだ」と考えるようになり、個人の創造性を奪ってしまいます。

いま重要なのは、内発的モチベーションです。「本当にやりたいことはこれだ」「これが夢中になれることなんだ」という思いが個人を突き動かしはじめると、さまざまな制約を越えて行動を起こすようになり、周囲にも共感や応援してくれる人の輪が広がっていきます。創造的なビジネスやイノベーションにはこれが欠かせません。組織のために犠牲にされていた「人の思い」を生かすことが「人のための組織づくり」の発想なのです。

前提となる考え方

前提となる考え方

「個人の思い」を起点とした組織をつくる

では、具体的に「人のための組織づくり」を進めたいと考えた場合、何から取り組んでいけばいいのでしょうか。

出発点は、個人の思いや互いの思いへの共感です。個人の思いから出てきたビジネスを社会に問う、つないでいく、さらに大きなビジネスに育てていく。そういう流れをつくっていくことが「人のための組織づくり」です。ただし、これはちゃんとした「対話」のできる組織でなければ難しいでしょう。これまでの組織で行われてきた対話は、基本的に問題解決志向の対話だったといえます。本来大切な「どういう形になれば、誰がどんなふうに幸せになるのか」という理想を考えるのではなく、単に問題の原因を洗い出してつぶすことだけに終始しがちでした。まずは「理想のモデルに現状を近づけていくためには何をどう変えていけばいいのか」といった、本質的な対話のできる組織のプラットフォーム、メカニズムを作ることが重要です。

こうした対話のやり方、思考法を確立するためには経営者やマネジャー層の発想も変わっていかなくてはなりません。しかし、そういう人たちは既存の企業システムの中で育ってきたので、簡単に考え方が変わりませんし、自然に変わるのを待っていたら手遅れになってしまいます。かといって、現状に違和感や疑問を持っている20~30代の若い人たちに起点になってもらうのも容易ではありません。彼らの世代は周囲と違うことを言いたくない、出る杭になりたくない、と考えているからです。一歩引いて見ていようという人も多くいますから、自然と踏み出せるような仕掛けがなければ動いてはくれないでしょう。

発想の起点が変わってきている

発想の起点が変わってきている

八方ふさがりにも思えますが、どうやってこの状況を突破すればいいのでしょうか。

ここで考えるべきは、リーダーシップの本質を問い直すことです。リーダーシップとは、未来のあるべき姿に向けて変化をつくりだしていくことと定義されます。その第一歩は、誰もまだ目にしたことのないものを口にしてみること。それにみんなが共感したり、興味を持ったりしてくれる。そして一緒に一歩を踏み出してみたら、それがみんなの楽しさや喜びに変わる。ここにリーダーシップが生まれます。ここで大切なのは、最初の言い出しっぺになる人がいることはもちろんですが、それに賛同し、一緒に行動してみようというフォロワー、応援者が生まれるかです。リーダーシップは「そこに関わる人たちとの関係の中に生まれるもの」だからです。

20世紀型のリーダーは「強い意思を持って人を動かせる人」と考えられてきました。しかし、これはフォロワーの主体性や意思を軽く見すぎています。ともに進んでみようという仲間がいてこそ、リーダーは力を発揮できるのです。そう考えると、リーダーを固定する必要はなく、状況に応じて誰かがリーダーになり、つらくなったら互いに支えあえばいい、ともいえます。「人のための組織づくり」を進める際も、経営層、マネジャー層、メンバー層のどこか一つだけを起点にするのではなく、三つの層がそれぞれにリーダーシップをつないでいけばいいのではないでしょうか。それは「リフレーミング・リーダーシップ」「コネクティング・リーダーシップ」「オーセンティック・リーダーシップ」という3つのリーダーシップ革新という考え方です。

株式会社ジェイフィール 高橋克徳氏photo

三層のリーダーシップをつなぐことで変化を実現する

それぞれのリーダーシップについて教えてください。

「リフレーミング・リーダーシップ」は、今、組織のしわ寄せをもっとも大きく受けているマネジャー層に「本当にそれでいいのか」を考えてもらう取り組みです。そのためには違う世代との対話が効果的です。上の者が下の者に教えるという一方通行ではなく、お互いに支えあい、教えあう関係を作ります。具体的には、上司と部下のペア研修などがこの発想で行われます。上司は自分のマネジメントがどう受け止められているのかを率直に聞く機会が得られます。お互いに違う世代の考え方を知ることで気づきが得られ、尊重する姿勢も生まれます。リフレーミングとは、自分たちのあたりまえを問い直しながら、思考の枠組みを組み替え、新しくすることです。これはこの数十年間、日本企業がないがしろにしてきた部分でもあります。働き方改革で本来行うべきなのは、こうした取り組みではないでしょうか。

「コネクティング・リーダーシップ」は、若手を中心としたメンバー層に「自分たちが幸せになれるのはこういうことだ」ということを発見してもらう取り組みです。単に企業システムへの疑問や違和感にもんもんとしているだけでなく、自分たちの理想形を言語化することで、周囲に共感してくれる人や一緒にやろうという人を増やしていく。そんな「つながる」リーダーシップの形を提案しています。このプロセスを経た目標は、個人の思い、本当の原点から生まれた目標です。よくある目標管理制度のような会社からの指示による「やらされ感」しかない目標とは、まったく異なるはずです。その意味では、若手に限らず全世代に取り組んでほしいワークショップです。

「オーセンティック・リーダーシップ」は、アメリカでのエンロン事件以降に広まった経営者のためのリーダーシップの考え方です。当時のアメリカは強いリーダーの全盛期でした。しかし、エンロン事件は、その強いリーダーが正しくない行いをすると会社そのものを壊してしまうという、手痛い教訓を生みました。そこから、ありのままで嘘のない、普遍的な人間の正しさこそが経営者に求められるリーダーシップだと意識されるようになったのです。そこでは、自分の言動や振る舞いを客観視し、周囲の目線で修正する力が欠かせません。人としてより良き姿を探求し、その振る舞いと仕組みによって、未来につながるより良い環境や文化をつくろうとする意思が求められます。

3つのリーダーシップ革新

3つのリーダーシップ革新

こうしたワークショップを行うことでどのような成果が生まれるのでしょうか。

1年くらい行うと、劇的な変化がありますね。今のところ大企業が中心ですが、大手のグループ企業で目に見える成果が出たケースもあります。グループ企業の場合、組織風土はどうしても親会社の影響を受けるし、むしろ「グループ会社独自の色は持つな」などと言われて、対話自体を避けているようなこともよくあります。しかし、そういう企業にも、中間層が疲弊しているなどの問題があるわけです。その問題にしっかり向きあってもらうことで、どんな企業であっても、あるいは一事業部からでも、いきいきとした職場はつくれると改めて確信させられました。

三層の研修は同時進行しながら、途中で意識的に共同セッションを組み込んでいきます。違う層が一緒になって、縦につながっていくことで、違う価値観に触れる場となります。その中で自分たちの役割を考え、それぞれの固定観念から抜け出して、効果的なアクションをとる力をつけていきます。三つのリーダーシップが、組織全体で連鎖反応をどう起こすのかを重視しています。もちろん会社によって、何からディスカッションしていくかという順番は大切で、相当な知恵が必要です。私たちからも提案しますし、顧客にもパートナーとして一緒になって考えてもらっています。

対話によってたえず更新しつづけていく組織

さまざまな組織課題と向き合っている人事の皆さんに、メッセージをお願いします。

「組織のための人づくり」から「人ための組織づくり」への変化は、今までの当たり前を問い直し、組織と人の幸せな関係性を再構築するということです。組織ありきではなく、多様な人ありきで、人々が幸せになれる組織とはどういうものかを考えていく。わたしたちジェイフィールでも各人にとって幸せな働き方、生き方を実現するプラットフォームとしての会社とはどうあるべきかを議論しながら、さまざまな取り組みにトライしています。

各人が自分の思いや事情だけを優先して、好き勝手できることがみんなの幸せになるわけではありません。でもそこに厳しいルールだけを当てはめると、結局は一人ひとりの主体性も創造性も奪っていくことになります。だからこそ、トライしながら修正していく、みんなで組織をつくり、育てていくという発想が必要になるのだと思います。会社はこうした自分たちの存在価値や組織づくりの基本観とそこに向かっていくための最低限の構造やルールだけを示す。現場はそれをもとに、対話しながら自分たちの力を最大限発揮できる仕事の仕方、働き方、関係のあり方、知恵の生み出し方をつくっていく。そういうことを続けていくことが、世の中の変化を取り込みながら自己革新できる「進化する組織」を生み出すことになるのではないでしょうか。

株式会社ジェイフィール 高橋克徳氏photo
協賛企業

ジェイフィールは、「仕事の面白さや職場の楽しさ」を堂々と語れる大人を増やしたいという思いで2007年にスタートした会社です。人と人との「つながり」を再生し、良い感情の連鎖を起こすことで、未来を切り拓く人づくり、組織づくり、社会づくりを支援しています。
組織成果のために期待する行動を求めるだけの人づくりではなく、今までの当たり前を問い直し、みんなで真の幸せを追求する組織づくりへ。「組織のための人づくり」から「人のための組織づくり」へという言葉は、そんな社会を目指そうと掲げているテーマです。

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