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『健康経営会議2016』開催レポート

講演3:三菱ケミカルホールディングスはなぜ健康経営に取り組むか株式会社三菱ケミカルホールディングス代表執行役社長 越智 仁 氏

越智氏は、なぜ健康経営に取り組むことになったのか、その経緯から語り始めた。2005年に三菱ケミカルホールディングスが設立され、そこで将来のあるべき姿についての議論があったと言う。

「10年~20年後にはAIやロボットが広く導入され、個人には創造性や活力がより強く求められる時代になります。それと同時に高齢化が進み、健康寿命をいかにして伸ばすかが重要なテーマになってきます。そこで“KAITEKI実現”というビジョンを掲げました。KAITEKIとは、時を越え、世代を超え、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態を指しています」

三菱ケミカルホールディングス代表執行役社長 越智仁氏による講演の様子

これらの問題に化学メーカーとして貢献するには、サステナビリティ(持続可能性)を追求することが重要ではないか。それが企業の責任ある行動に基づいた持続可能的成長につながると考えたと越智氏は語る。

「資本効率の向上、イノベーションの追求、サステナビリティへの貢献を通じて生み出す価値の総和を企業価値とし、この価値を高めるKAITEKI経営を推進したいと考えました」

三菱ケミカルグループでは、企業活動によるサステナビリティへの貢献度合いを測るために、あるべき姿から非財務分野の重要項目を独自に設定している。

「“地球環境負荷削減への貢献”“疾病治療への貢献”“社会からより信頼される企業への取り組み”を指標化し、定量目標を設定してPDCAを推進。その中で従業員を中心においた企業行動が、持続的企業価値の向上に直結すると考え、企業価値向上のスパイラルをつくっています。MOS指標の実績も上がり、それがSRI評価の向上につながるという好循環が定着してきました」

次に健康経営に関連するデータとして業種別・事故の型別死傷者数の推移が紹介された。体力機能の低下も原因として指摘される転倒災害は、2000年ごろまでは減少傾向だったが、2005年に最頻出災害となり、その後は増加傾向となっている。

「40代、50代、60代の事故発生件数が上がってきていて、いよいよ健康の大切さが要点となってきました。現在の社内の年齢分布は40代、50代の比率が大変高くなっており、これから10年でより高齢化が進むと思われます」

次に越智氏は、研究職と製造スタッフの一日における仕事の内訳を紹介。それを見ると会議と資料作りが多く、メールの時間も長くなっている。

「大きな影響を与えているのは、インターネットではないでしょうか。そのために生産効率が非常に下がってきている。インターネットは便利なようで、ある面では毒もあります。インターネットを効率的に使うことが、私たちはできていないのではないかと感じます」

個人を見ると、医療費が増え、メンタル不調も増え、一方で運動をしていない。決して健康とはいえない状態にある、と越智氏は語る。

「このように考えると、個人の健康と職場の健康は非常にリンクしています。この問題を解決するには、トップダウンとボトムアップの手法が必要ではないでしょうか。そうなると労働組合も会社も従業員も一体となってやらなければ意味がありません。そこで、私たちは健康宣言に踏み切りました」

宣言の内容には、従業員一人ひとりが心身の健康を保ちイキイキと働くことは、個人と家族だけでなく、グループ全体の生産性や創造性の向上、活性化のために必須であるという考えが反映されている。従業員、健康保険組合、会社が一体となり“従業員自身の健康”“職場の健康”“家族や地域の健康”の三つの健康を維持・増進を行う。すでに具体策として、三菱レイヨンでは転倒労災の対策としてKAITEKI体操を考案、実践している。

最後に越智氏は、これから健康経営に取り組む決意について語った。

「私も現場を回って感じましたが、今後企業には必ず何らかの健康投資が必要となります。最初に問題になるのは時間投資です。各社でより合理化を進め、工夫するための時間確保が先決。そして職場の課長クラスが全員コミットして、健康経営を支えないと前進できないのではないか。そのために会社として健康経営を宣言し、一丸となってやっていきたいと思います」

講演4:健康経営の実現に向けて -超高齢社会への対応-経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長 江崎 禎英 氏

江崎氏の講演は、来場者への問いかけから始まった。

「人は何のために健康でないといけないのかと聞かれると、意外に答えられないのではないでしょうか。実は生きている間を健康でいられる人は少ないのです」

江崎氏は医科診療費の傷病別内訳を紹介した。生活習慣病が34.4%、老化に伴う疾患15.3%の二つでほぼ半分が占められている。次に全国の高齢者の状況を20年追跡したデータが紹介されたが、男性は72歳ころから19.0%の人が、女性は69歳くらいで12.1%の人が、自立して生活できない状態になっていることがわかる。ここで江崎氏は、今人類の歴史のうちで初のことが起きていると指摘した。

「それは平均寿命と健康寿命で差が生まれていることです。日本人ではこの差が約10年あります。実はこの10年で国のほとんどの医療費が使われています。ですから、いかに健康寿命を延ばし、平均寿命との差を小さくするかを考えないといけません。ただし予防対策で行われている特定健診は、現状で未受診者が約2790万人もいます。このうち病院にすぐ行ってほしい特定指導対象者は約472万人と推定されます。いかに早く見つけてもらうかが大事なのです」

江崎氏は、高齢化の現状について解説した。誰もが健康で長生きすることを望めば、社会は必然的に高齢化する。戦後豊かな経済社会が実現され、それにより平均寿命が約50歳から80歳に伸びたことによって起きた、現象がある。

「日本に一世代(30年)分の国民が出現したのです。そのため、国民の平均寿命の延伸に対応して、生涯現役を前提とした社会経済システムの再構築が必要になっています」

続いて江崎氏は、医療費の現状について語った。今、認知症が大きな問題となっているが、実はこの病気には家族の負担分を含め、15兆円もの医療費が使われている。

「もう一つ驚くべき事実があります。医療費は全体で40兆円と言われますが、その8割は人がなくなる直前の5年間に使われています」

経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長 江崎禎英氏による講演の様子

経済産業省は健康経営の推進に向け、平成27年3月から企業の健康経営度調査を行い、その中から健康経営銘柄を選定している。

「この試みは大変注目を集め、大学生は就職先選びの目安にもしています。平成28年度は健康経営度調査について、より企業が回答しやすくなるように質問数を約15%削減しました。結果報告についても、回答企業に送っている結果サマリー(フィードバックシート)をより充実したものに改定しました」

経済産業省は今年度から新たな顕彰制度として、「健康経営優良法人~ホワイト500」を立ち上げた。日本健康会議と共同で、上場企業に限らず大規模法人のうち保険者と連携して優良な健康経営を実践している法人について、2020年までに500社を「健康経営優良法人~ホワイト500」として認定・公表する制度だ。

「また、日本健康会議では、協会けんぽなど保険者のサポートを得て健康宣言などに取り組む企業を1万社以上とする宣言しています。これに連動して健康宣言に取り組む法人・事業所を顕彰する制度がより有機的・効果的に活用されるよう、基準の共通化などを整理して、わかりやすい制度としています」

経済産業省では、レセプト・健康データ活用による生活習慣病予防サービスの創出にも力を入れている。効果的・効率的な健康投資を行うためには、レセプト・健診・健康情報などを統合的に解析・活用して、従業員などに各個人の健康リスクに見合った健康サービスを提供することが肝要だ。

最後に、江崎氏はEBH(Evidence Based Health)による新たな健康管理について語った。EBHとは、科学的根拠に基づく健康を意味する。

「今後は日常生活で随時、健康情報を取得することで行動変容を起こし、その効果を見える化することで健康改善へと導かれるようにしていきたい。近年、EBHへの関心が高まっています。健康情報を得て、それを用いた効果検証を行うことで、明確な根拠(エビデンス)に基づく予防、ヘルスケアの実現が可能となると期待されています。今EBHの基盤の確立を目指しているところです」

パネルディスカッション

最後に参加者全員によるパネルディスカッションが行われた。

高﨑: まず、岡田さんに健康経営でよく聞かれる質問をお聞きしたいと思います。健康経営に取り組むことで、企業の生産性は向上するのでしょうか。

パネルディスカッションの様子

岡田: これまで私も研究してきましたが、正直、結論は出ませんでした。そこで目安になるものは何かと考えました。企業利益というものは社会状況で変わってしまいます。では、ゆるぎないものは何か。それは社員が使った医療費や社員の休職率・休業率、そしてストレスに関するデータです。日々従業員の健康を確保することは、企業の生産性において未来への投資になります。これらは企業の底力を示しているといえ、これらの要素が健康経営につながっています。

高﨑: 次に大久保さんにお聞きします。これから健康経営を始める企業は、どこに注意すればよいでしょうか。

大久保: トップが健康経営に理解を示して、自らやっていくのだという気持ちを持つことが大事だと思います。そして、携わる部署の人間が本気になること。また、労働組合からも賛同の意思を確認することも大事です。私も働きがい推進委員会で話し合いを行っています。

高﨑: 越智さんにお聞きしたいのですが、今後、健康経営に関して、力を入れたいと思われていることはありますか。

越智: 組織の生産性は個人の影響を大きく受けます。健康経営について個人で納得感があること。そして仕事の進め方を左右するリーダーへの信頼感もないと、うまくいきません。また、健康経営は組織が強くなることも大事なポイントです。いかに会社と社員が互いに理解し合えるか。どこが問題なのかとディスカッションできるのか。私たちもボトムアップを重視しており、互いに問題点を話し合って何を優先して行うかを決めています。そうしないとうまくいきません。

パネルディスカッションの様子

高﨑: 江崎さんにお聞きします。ここまでの民間の取り組みを、行政から見てどう思われますか。

江崎: ||私が思うのは、健康経営が経営に影響することは、中小企業のほうがクリアで直接的ではないかということです。以前、リーマンショックで落ち込んでも復活した企業には共通点がありました。経営者が女性ばかりだったのです。話を聞くと、男性の経営者は昔の手法に捉われ、不況時にコストカットを行っていた。その点、女性はモノもサービスも世の中にあふれているから、これからは不満点を狙わないとうまくいかないと考える。そういった考えの違いは利益に表れており、これらの会社はみな利益率が二ケタです。健康経営も経営者がその意味を十分にわかっていて、社員に浸透させなければやっても意味はないと思います。その点では中小企業のほうが、健康経営を経営に結びつけやすいのではないでしょうか。大企業で社員の末端まで、その思いを浸透させることはなかなか大変だと思います。

高﨑: 最後に皆さまに、健康経営のポイントを一言ずつお聞きしたいと思います。

岡田: 健康経営は当初、トップダウンでないと始まらないと言っていましたが、10年の進歩で、すでにボトムアップまで進んできたように感じます。上からと下からの両方向から、切磋琢磨して進めていただきたいと思います。

大久保: 健康経営は社内の担当者など、推進する人の気持ちが他の社員にどう伝わるかが大事なのかと思います。そこで本気さが伝わらないと結果も出てこない。だからこそ最初の一歩が肝心だと思います。

越智: 健康経営は時間をかけてやらなければいけないと思います。私自身、強い信念として思っていることは、しっかりと社員と相互に何が問題なのかを理解して、そこから優先順位を付けて実践したいということです。

江崎: 健康経営を行うとは、社員を本当に大事にするということです。これは過去、日本企業が目指してきたことと同じであり、それが別の形で実現されるのだと思います。今後は高齢社会の中における医療のあり方を、会社と従業員が一緒に探していくことになるのではないかと、期待しています。

高﨑: ぜひ皆さんも今日の講演を参考に、自社の健康経営に積極的に取組んでいただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

パネルディスカッションの様子

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 健康経営

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