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人事の解説と実例Q&A 掲載日:2026/02/02

社内結婚による異動・配置転換に問題はないか

従業員同士の結婚、いわゆる「社内結婚」の報告を受けた際、現場の人事担当者は祝福の気持ちと共に、「このまま同じ部署で働かせて良いのか」という現実的な悩みを抱くものです。かつて慣例的だった異動は、現代では法的なリスクや離職の原因となりかねません。本記事では、社内結婚に伴う配置転換の必要性を判断するための基準、法的留意点、人事がとるべき具体的な対応プロセスについて解説します。

社内結婚による異動・配置転換に問題はないか

社内結婚時の異動は「慣例」で行うべきではない

変化する時代背景と法的視点

かつての日本企業では、社内結婚を機に夫婦のどちらか(多くは女性側)が退職する、あるいは異動するといった「暗黙の了解」が存在することが少なくありませんでした。しかし、共働きが一般的となり、人材不足が深刻化する現在、こうした慣例的な対応は大きなリスクをはらんでいます。

法的な観点から見ると、企業には広範な人事権(配置転換命令権)が認められていますが、無制限ではありません。業務上の必要性が乏しいにもかかわらず、単に「社内結婚したから」という理由だけで不利益な配置転換を行うことは、人事権の乱用(権利乱用)とみなされる可能性があります。また、性別を理由に一方的に女性側を異動させることは、男女雇用機会均等法に抵触する恐れもあります。

現場人事が持つべき「目的意識」

現場の人事がまず持つべき視点は、「異動させるかどうか」ではなく、「組織運営上の公正さと適正な業務遂行が維持できるか」です。

私的な関係である結婚が業務に悪影響を及ぼす懸念がある場合に限り、その回避策としての異動を検討します。なんとなく気まずいから、といった曖昧な理由ではなく、合理的な説明ができる「業務上の必要性」が存在するかどうかが、判断の分かれ目となります。

異動を検討できる「三つの具体的ケース」

では、具体的にどのような状況であれば、異動を検討できるのでしょうか。現場レベルで判断に迷いやすいケースを整理します。

上司と部下の関係(指揮命令系統)にある場合

夫婦の一方が他方の考課者(評価者)となるケースです。たとえ本人が「公私混同はしない」と主張しても、周囲の従業員から見て「評価が甘いのではないか」「情報の優遇があるのではないか」という疑念を完全に払拭することは困難です。評価の公正性が担保できない状態は、他のメンバーのモチベーション低下を招きます。この場合、指揮命令系統を分けるための異動は、業務上必要である可能性があります。

不正リスクが生じる業務配置の場合

経理、財務、監査、あるいは機密情報を扱う部署において、夫婦がけん制しあうべきポジションに配置されている場合も注意が必要です。

例えば、一方が発注担当、もう一方が承認担当といった配置は、内部統制(コンプライアンス)の観点から望ましいと言えない場合があります。不正の事実がなくても、そのようなリスク管理ができていない状態そのものが企業としての落ち度となります。リスク回避のための配置転換は合理的と判断される可能性があります。

極端に小規模な部署やチームの場合

数人しかいない部署で夫婦が働いている場合、夫婦げんかや家庭の事情が職場の雰囲気に直結しやすく、周囲が過剰に気を使う状況が生まれることがあります。

また、冠婚葬祭や子の病気などで夫婦同時に休暇を取る必要が生じた際は、部署全体の業務が停止するリスク(業務継続性の欠如)も考えられます。この場合も、リスク分散の観点から異動を検討する余地があります。

人事担当者がとるべき具体的対応プロセス

実際に社内結婚の報告を受けた際、人事はどのように動くべきでしょうか。トラブルを防ぐための実務ステップを解説します。

ステップ1:事実確認とヒアリング

本人たちから報告を受けたら、祝福の意を伝えた上で、事務的なヒアリングを行います。ここで重要なのは、最初から「異動ありき」で話をしないことです。

  • 結婚後の就業継続の意思確認: お互いに仕事を続ける意思があるか
  • 居住地の変更: 通勤経路や時間の変更に伴い、現在の業務に支障が出ないか
  • 今後のキャリアプラン: 本人たちが今の仕事をどう考えているか

この段階で、「社内規定や慣例で異動が決まっている」といった断定的な言い方は避け、「会社としては、お二人のキャリアと組織の公正さを両立させる最適な方法を考えたい」というスタンスで臨みます。

ステップ2:異動対象者の選定(誰を動かすか)

異動が必要と判断した場合、最も悩ましいのが「どちらを異動させるか」です。「前例踏襲で女性を異動させる」といったことは絶対に避けなければなりません。以下の観点から総合的に判断します。

  • 業務への影響度: 代替要員の確保しやすさ、専門性の高さ
  • 本人の適性: 異動先候補の業務とのマッチング
  • 通勤や生活への影響: 育児や介護などの事情への配慮

夫婦双方と個別に面談を行い、「なぜ異動が必要なのか(公正な評価のためなど)」を丁寧に説明し、納得感を得るプロセスが不可欠です。

ステップ3:周囲への公表と配慮

異動の有無が決まったら、公表するタイミングとその範囲を調整します。基本的には本人たちの意向を尊重しますが、業務上名前が変わる場合などは周知が必要です。「私的なことなので触れてほしくない」という場合もあれば、オープンにしたい場合もあります。現場のマネジャーとも連携し、周囲が過剰に反応してハラスメント(「冷やかし」や「干渉」)につながらないよう、職場環境に目を配ることも人事の役割です。

実務上の落とし穴と今後の課題

最後に、現場で起こりうるトラブルや、今後の人事戦略として考えておくべきポイントについて触れます。

「辞令」ではなく「合意」を目指す重要性

会社は就業規則の規定に基づき配置転換を命じることができますが、その行使には「業務上の必要性」や「対象者の不利益への配慮」といった法的な要件を満たす必要があります。結婚を理由とした強引な辞令は、こうした法的正当性を欠くと判断されるリスクがあるだけでなく、組織への信頼を損なう原因となります。結果として、優秀な人材が夫婦そろって離職してしまうといった、企業にとって大きな損失を招く可能性もあります。

特に、専門職やハイパフォーマー同士の結婚の場合、人材流出は大きな痛手です。「異動」はあくまで選択肢の一つとし、場合によっては「部署は同じだが担当業務を分ける」「レポーティングラインだけ変更する」といった柔軟な措置も検討すべきです。

「社内結婚=異動」という固定観念にとらわれず、個々の状況、職務内容、そして本人のキャリアへの影響を精査し、最適解を導き出す。それが、従業員に信頼される人事が持つべき現場力と言えるでしょう。

この記事の監修

米倉 徹雄

米倉 徹雄
KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員

20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。

20年以上、一貫してHR(人事)領域の専門家兼マネージャー業務に従事。パーソルテンプスタッフ 人事管理室長、TBWA HAKUHODO 労務管掌ディレクター等のキャリアを経て、KIZASHIリスキリング社会保険労務士法人 代表社員に就任。

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この記事ジャンル 異動・配置関連制度

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