短時間勤務
短時間勤務とは?
短時間勤務(時短勤務)とは、一日の労働時間を短縮して勤務することをいいます。育児・介護休業法の改正により、短時間勤務制度の導入が各事業主に義務づけられたのは、2009年のこと。以来、仕事と子育てや介護などの理由から、通常の勤務時間で働くことが難しい人たちを支える制度として、多くの人に利用されてきました。近年では、日本人の働き方に注目が集まる中で、改めて短時間勤務制度のあり方を見直す企業も増えています。
1.短時間勤務とは
働き方改革の影響により、ワーク・ライフ・バランスへの関心が高まっています。仕事と家庭を両立できるような仕組みをつくり、よりよい社会をつくろうという動きが進んでいるのです。労働時間を短縮して働く「短時間勤務」も、その取り組みの一つです。
短時間勤務の背景
もともと「短時間勤務制度」は、少子化問題への対策のために設けられた制度です。それまでの社会では、「就労」と「結婚・出産・子育て」の二者択一構造が出来上がっており、仕事と家庭を両立できる環境が整っていませんでした。子供をもうけ、豊かな家庭生活を送りたいと考える人が男女ともに多かったにもかかわらず、その余裕が持てないという問題があったのです。そこで、家庭と仕事を両立できる制度づくりに向けて導入されたのが、短時間勤務制度でした。
育児・介護休業法の改正内容
育児・介護休業法とは、労働者が育児や介護などと仕事を両立できるようにするため、休業などについて規定した法律のことです。看護休暇や介護休暇に関する制度を整備するとともに、事業主が行うべき手続きなども定めています。また、それらの制度を利用することで退職に追い込まれないよう、労働者を守る役割も担っています。
2012年7月には、それまで執行を猶予されていた100人以下の事業主にも、育児短時間勤務制度を設けることが義務付けられました。さらに、2017年1月の改正では、従業員からの請求があった場合、企業は介護のための労働時間短縮などの制度の利用を認めることが必要になりました。また、家族の介護を行う従業員への配慮として、残業免除制度を導入することも義務付けられています。
この他にも、「93日まで」と定められている介護休業を3回まで分割で取得できるようにしたり、介護休暇を半日単位で取得できるようにしたりといった配慮を行うことが、企業に義務付けられました。
さらに、短時間勤務とは関係がありませんが、2017年10月の改正では、育児休業が最長2歳までに延長されました。これにより、子供が1歳6ヵ月の時点で保育所へ入所させられない場合などには、子供が2歳になるまでの期間、育児休業を認めることが、企業に義務付けられたのです。また、事業主の努力義務として、育児休業制度を対象者に知らせることや、小学校に就学していない子をもつ労働者向けの休暇制度を設けることなどが追加されました。
2.短時間勤務制度の導入と注意点
短時間勤務制度はどのようなもので、どういった人たちが対象となるのでしょうか。また、企業は短時間勤務制度を導入するにあたって、どのような点に気を付けるべきなのでしょうか。
短時間勤務制度の内容
短時間勤務制度は、1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)とする制度です。特定の1日の労働時間を7時間とする措置や、隔日勤務にするなどの措置をあわせて行うこともできますが、あくまで原則としての労働時間は1日6時間となります。
短時間勤務制度の対象となる労働者
短時間勤務制度を利用するためには、以下のすべてに該当する必要があります。端的にいえば、3歳に満たない子を持ち、フルタイムで働く労働者ということになるでしょう。
- (1)3歳に満たない子を養育する労働者であること
- (2)1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- (3)日々雇用される者でないこと
- (4)短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと
- (5)労使協定により適用除外とされた労働者でないこと
(5)の労使協定とは、労働者と事業主との間で交わされた協定のことであり、労働基準法、育児・介護休業法、高年齢者雇用安定法などで定められている諸事項を、これによって免除することができます。つまり(5)は労働者と事業主との間で交わされた協定によって、短時間勤務制度の適用を除外されている労働者ではないことを意味しています。適用を除外するためには、以下のような一定の条件があります
「労使協定により適用除外とされた労働者」の条件
労使協定によって、短時間勤務制度の適用を除外することができる労働者は、次の通りです。
- (1)当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- (2)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
- (3)業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
つまり、就業1年以内の人や週に2日以下だけ出勤する人、また、業務の内容から短時間での勤務が難しい人ということになります。しかし、働きながら子育てをするために努めるという育児・介護休業法の趣旨を踏まえると、該当者にもできるだけ短時間勤務制度を適応することが望まれます。また、(3)に関しては、客観的に見て導入が困難だと認められなければ、除外の対象とすることはできません。
さらに、(3)「業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者」として適応除外とされた労働者に対しても、企業は代替措置をとらなければなりません。
その代替措置とは、「育児休業に関する制度に準ずる措置」、または「始業時刻変更等の措置」であるべきだとされています。「始業時刻変更等の措置」とは、次のような制度を指します。
- (1)フレックスタイム制度
- (2)始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ(時差出勤の制度)
- (3)事業所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
(1)フレックスタイム制度
フレックスタイム制度とは、原則的には労働者の自由な裁量で出社と退社の時刻を決めることができる制度を意味しています。多くの企業では、必ず会社にいなければならない時間を「コアタイム」として定め、出社と退社の時刻は労働者が自由に決めることができるようにしていますが、必ずしもコアタイムを設けなければいけないわけではありません。また、1日のほとんどがコアタイムで、フレキシブルタイムが極端に短いといった場合は、フレックスタイム制にはなりません。
(2)始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ(時差出勤の制度)
時差出勤とは、9時から18時の勤務を、対象者だけ10時から19時にするなどといった措置のことを指します。これによって、保育園への送り迎えや子供の登下校時間に合わせて、出勤・退勤の時間を調整することも可能になります。
(3)事業所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
事業所内保育施設の設置とは、会社の中に託児所を設けるなどの措置を指します。「その他これに準ずる便宜の供与」とは、例えば従業員にベビーシッターを雇うことを勧め、その分の費用を会社が負担するといったことを意味しています。また、これに加えて、短時間労働が業務上不可能な場合は、可能な部署に一時的に移動するなどの処置も可能です。
参照:短時間勤務制度|女性にやさしい職場づくりナビ(厚生労働省)
- 【参考】
- 「小1の壁」とは
短時間勤務を支援する助成金
企業が短時間勤などを推奨する際に利用できる助成金が、両立支援等助成金。これは、短時間勤務や育児休業などの整備を整えた事業主が申請できる助成金です。助成を受けるには、雇用保険適用事業所の事業主であることや、支給のための審査に協力することなど、さまざまな規定がありますが、仕事と育児の両立支援を行っている事業所を対象とした「育児休業等支援コース」や男性の育児休暇取得促進を目指す「出生時両立支援コース」、育児と介護の両立支援を行う「介護離職防止支援コース」など、その取り組みの目的によって複数のコースがあるので注意が必要です。助成金の内容をしっかりと理解し、活用することで、自社の働き方改革に役立てることができるでしょう。
短時間勤務制度導入の注意点
短時間勤務制度を導入する際には、次のことに気を付ける必要があります。
(1)短時間勤務制度の手続き方法を定める際の注意点
短時間労働制度の適用手続きは、基本的に事業主が定めることができます。しかし、手続きが複雑で、申請をあきらめてしまうような、労働者の過剰な負担になる方法は避けなければなりません。また、手続きを行う際には、育児休業や所定外労働の制限など他の制度の手続きの状況も踏まえ、調整する必要があるでしょう。
(2)不利益取扱いの禁止
「不利益取扱い」とは、事業主があえて労働者に不利益をもたらすことを意味します。例えば育児休業を申請した労働者に対して企業が降格をいいわたしたり、短時間労働制度を利用した労働者を解雇したりといったことがこれにあたります。この他にも、労働契約内容の変更や昇進に関して不利な状態に置くこと、減給なども不利益取扱いに含まれます。
(3)関連事項の明記と啓蒙
短時間勤務制度を開始する場合には、本人はもちろん、職場の上司や同僚にも事前にしっかりと説明しなければなりません。もし何も知らせずに短時間勤務をスタートさせてしまえば、その他の社員からの不公平感や、現場のトラブルにもつながりかねないからです。
事業主は、短時間労働制度に関して就業規則などに明確に記載し、社員に啓蒙する必要があります。制度があることは新人研修などの時にも周知したうえで、労働者の要望があった際には、改めて周りに説明するなどの工夫が必要です。
導入の具体例
<トヨタ>
トヨタ自動車では、子が小学校を卒業するまでの間、4時間、6時間、7時間労働の中から選び、短時間勤務をすることができます。介護の場合もこの時間から選ぶことになりますが、要介護状態の家族一人につき3年を越さない範囲で取得できるという規定が設けられています。
参照:愛知の「働き方改革」取組事例 トヨタ自動車株式会社|厚生労働省
<ソニー>
ソニーでは、社員それぞれがライフスタイルに合わせて能力を発揮できるよう、さまざまな取り組みが行われています。仕事と家庭の両立を支援するため、より柔軟な勤務を可能とする「育児期フレックスタイム制度」「育児短時間勤務」などの制度が設けられており、男女ともに子が小学6年の3月末まで利用することができます。その他にも、テレワークなどの在宅勤務を可能とする制度や、ベビーシッター利用時の費用補助制度、会社にいながら配偶者の赴任同行や修学のために休職する制度など、長期的で豊かなキャリアを支援するさまざまな制度が整備されています。
参照:人事制度 ライフスタイルや個人の特性に合わせた環境整備|ソニーグループ株式会社
<サントリー>
サントリーでは、子の中学校進学まで、1日2時間を限度とする短時間勤務制度を設けています。また、子供の年齢制限を設けないフレックス勤務やテレワーク勤務制度があり、さらに育児理由の特別有給休暇として、キッズサポート休暇などを設けています。1日1,700円のベビーシッターの利用補助の支給なども行っているそうです。介護などでも、最長3年間休業することができ、ホームヘルパー利用補助などを会社が負担しています。
3.短時間正社員とは?
短時間勤務制度に関連して、育児や介護に関係のない短時間正社員制度も注目を浴びています。短時間勤務制度は、主に育児や介護に関係した制度ですが、短時間正社員制度は個々のさまざまな理由を考慮した短時間勤務を推奨する制度です。
例えば定年後に時間を短くして働く高齢者や、キャリアアップのために修学している人、病気からの社会復帰を目指す人や、ボランティア活動に時間を割きたい人など、幅広い目的での制度の利用が考えられます。
短時間正社員の定義としては、所定労働時間がフルタイム正社員(1週間あたり40時間程度)よりも短いことに加え、通常の正社員と同様に無期限の雇用契約を結んでいることや、基本給や賞与、退職金などの算定方法などがフルタイム正社員と同じであることなどの決まりがあります。最近はリカレント教育などにも注目が集まっており、学業や研究と仕事を両立したいと考える、優秀な人材を確保するための制度としても期待できます。
4.短時間勤務を利用した環境づくり~まとめ~
女性活躍推進や働き方改革が進む中で、現在、多くの企業が従業員に対して、柔軟な勤務を認めています。育児・介護休業法で定められた短時間勤務をはじめ、時間差勤務やテレワーク、フレックス制度など、その取り組みはさまざまです。また、各企業の具体例で見たように、法定以上の期間で短時間勤務を認めたり、より柔軟に勤務時間を選択できる制度を整えたりするなど、それぞれの企業が工夫を行っています。現代では人材を獲得するのに苦戦している企業が多く、こういった制度を整えることで、人材確保につなげたいという狙いもあるようです。
近年、働くうえで、ワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えています。少し前には残業代を支払わなかったり、有給をとらせなかったりする、いわゆる「ブラック企業」が話題となりましたが、最近ではよりよい労働環境づくりをしている企業が注目を集めるようになりました。従業員の採用や定着のためにも、企業には労働環境の整備が求められています。
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「労働時間」に関する書式・テンプレート
勤務間インターバルの社内周知文
勤務間インターバルを導入する際に、社内に対象者や運用ルールを周知するための文例です。
勤務間インターバルの規定例
勤務間インターバル制度を就業規則に規定するための例です。
出張用旅行行程表
出張をする際に、その訪問先や交通手段、宿泊先をまとめる行程表です。