M&A
M&Aとは?
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、2社以上の企業が合併(Mergers)したり、ある会社がほかの会社を買収(Acquisitions)したりすることで、事業の成長や効率化を図る戦略の一つです。M&Aによって、企業は市場シェアの拡大、新たな技術や人材の獲得、コスト削減などを実現できますが、成功させるためには計画的かつ慎重な対応が求められます。M&Aの目的の設定はもちろんのこと、M&A実施後の統合作業が重要です。
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M&Aの基本的な流れ
M&Aの基本的な流れは、「検討・準備」「マッチング・交渉」「契約・統合」の3段階に分けられます。
フェーズ | 買い手側の主な活動 | 売り手側の主な活動 |
---|---|---|
1. 検討・準備 | - M&Aの目的を明確化(例: 市場拡大、新技術の獲得) | - 売却の目的を明確化(例: 後継者問題の解決、資金回収) |
- 買収予算の設定と資金調達計画の策定 | - 自社の企業価値(バリュエーション)を確認 | |
- 対象企業の選定基準を設定(業界、規模、収益性など) | - M&Aアドバイザーや会計士、弁護士を選定 | |
- アドバイザー(M&A仲介会社や弁護士)の選定と協力体制の構築 | - 必要書類の整備(財務諸表、事業計画書、契約書類など) | |
- 対象企業のリストアップと初期リサーチ | - 売却先に関する基準の設定(資金力、事業方針の相性など) | |
2. マッチング・交渉 | - 意向表明書(LOI: Letter of Intent)の提出 | - 買い手候補との面談・協議 |
- デューデリジェンス(財務・法務・税務・事業リスクの調査)の実施 | - 必要に応じた事業資料の提供や説明 | |
- 買収条件の交渉(価格、支払い条件、譲渡範囲など) | - 買収条件の確認・調整(価格や従業員の待遇など) | |
- 基本合意書(MOU: Memorandum of Understanding)の締結 | - デューデリジェンス対応(買い手側の質問に回答) | |
- 最終的な売却条件の合意と契約書の作成 | ||
3. 契約・統合 | - PMI計画の策定(統合プロセスのスケジュールと責任者の明確化) | - 経営権移譲の準備(必要な資料やシステムの引き渡し) |
- 組織再編・システム統合(例: IT、会計システム) | - 従業員のケア(雇用契約の再調整や待遇確認) | |
- 従業員への説明と不安軽減の施策(例: ワークショップ、面談) | - 自社の解散や新たな経営方針の策定(必要に応じて) | |
- 新しい経営体制の確立と初期成果の追求 | - 売却完了後の事業または個人目標の再設定 | |
- 買収後の進ちょく管理と改善計画 |
検討・準備
第1フェーズの「検討・準備」では、買い手側の企業は市場拡大や技術獲得といった、M&Aの目的を設定。その後、目的と予算に合わせてM&Aの候補となる企業を選定します。業界、規模、収益性などの条件のほか、財務的な安定性や成長性が選定のポイントです。
売り手側は、事業承継や資金回収といった、売却の動機を整理し、目標を設定。売却・譲渡のタイミングのほか、従業員の待遇やサービスの引き継ぎといった具体的な条件を事前に準備しておくことで、より満足度の高いM&Aの実現につなげます。また、財務諸表や収益を基に、自社の価値を算定するバリュエーション(企業価値評価)を行います。バリュエーションの評価は、M&Aでの買い取り価格の基準となります。
さらに、買い手側・売り手側ともにM&Aプロセスを支援するアドバイザーを選定します。M&Aのアドバイザーは法律で義務付けられたものではありませんが、M&Aは高度で専門的な知識が必要なため、多くの企業が弁護士、会計士、M&A仲介会社、投資銀行などの専門家をアドバイザーとして依頼するのが一般的です。
マッチング・交渉
第2フェーズの「マッチング・交渉」では、買い手は売り手に対して買収条件などをまとめた意向表明書(LOI:Letter of Intent)を提出。LOIには、企業概要や買収スキーム、買い取り希望価格などをまとめます。また、後述するデューデリジェンスの実施スケジュールやLOIの有効期限を記載します。LOIは、法的拘束力を持ちませんが、提出することで売り手候補先にM&Aへの興味をもってもらえるでしょう。
LOIを提出したあと、対象企業の財務、法務、税務などの詳細を調査するデューデリジェンス(Due Diligence)を行います。リスクや課題を把握し、妥当な買収条件を再検討したうえで、本当にM&Aを進めるかを決定。交渉フェーズでは、買収価格、支払い方法、従業員の処遇などを交渉し、双方が納得する条件を整えます。
売り手は、交渉フェーズで自社の基本情報や事業内容を共有します。その際、秘密保持契約(NDA)を締結します。財務諸表や事業計画書を提出することもあります。売却価格や契約条件を交渉し、双方の合意を得た後、基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)を締結します。
契約・統合
第3フェーズの「契約・統合」では、買い手は売り手との合意に基づき、譲渡契約書(SPA:Sales and Purchase Agreement)を作成し、締結します。譲渡契約書には、譲渡範囲や支払い条件を明確に記載します。
また、統合では、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合作業を実施。経営統合や管理制度の再編成、組織内の信頼関係構築などが含まれます。売り手は、売却後に従業員や取引先への説明を行い、必要に応じて一定期間サポートを実施します。
M&Aは人材に多大な影響を及ぼす
M&A(企業の合併・買収)は、経営戦略の一環として実施されますが、従業員に大きな影響をもたらします。企業の統合後、働く環境やキャリアに変化が生じることで、不安や混乱を引き起こすことも少なくありません。
M&A後の従業員に生じる影響
まず挙げられるのが、働く環境の変化です。
M&Aによって、従業員の給与体系や福利厚生が変更になることがあります。また、組織文化の違いによるストレスも無視できません。たとえば、買い手の企業と売り手の企業の働き方や評価制度が異なる場合、従業員は新しい環境に適応する必要があります。
従業員にとっては、雇用が継続されるかどうかも不安要素の一つです。重複する業務やポジションがある場合、人員削減が実施されるケースも珍しくありません。また、キャリアの見通しが立ちにくくなることで、従業員のモチベーション低下につながることもあります。
こうした影響を適切に管理しなければ、「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」「相手先の従業員に不満があった」「相乗効果が出なかった」といった問題が発生し、M&A実施後の総合的な満足度を低下させる可能性があります。
PMIの重要性
M&Aを成功させるためには、PMI(Post Merger Integration)が極めて重要です。PMIとは、M&A成立後の経営統合プロセスを指します。PMIの目的は、異なる企業や組織の文化・プロセス・システムなどを統合して、M&A後の組織が一つの組織としてシナジーを発揮することにあります。
PMIの取り組みは、「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の三つの領域に分類されます。
【経営統合の例】
- 経営方針の明確化:統合後の企業のビジョンや戦略を明確化し、従業員に伝える
- 経営体制の再編成:役職や意思決定のプロセスを見直し、新しい経営チームを構築する
【信頼関係構築の例】
- 組織文化の統合:企業文化や働き方の違いを解消する取り組みを実施する
- 従業員とのコミュニケーション強化:透明性を高めるための情報共有や対話の機会を増やす
- トレーニングプログラムの導入:新しい業務環境に迅速に適応できるよう支援する
- リーダーシップ育成:統合後の新しい組織で求められるリーダーの育成を行い、組織全体の安定性を向上させる
【業務統合の例】
- 会計システムの再編成:異なる財務管理システムの統合を進め、効率化を図る
- 人事評価制度の見直し:統合後の企業に適した公平な評価制度を導入
- オペレーションの統一:業務プロセスの標準化を進め、効率的な運営を実現
M&Aは、買い手と売り手双方にとって、さまざまな心配事が発生します。
- 買い手の不安:期待する相乗効果を発揮できるか、相手先の従業員の理解を得られるか
- 売り手の不安:従業員の雇用維持、取引先との関係維持が可能かどうか
こうした不安を解消し、スムーズな統合を実現するために、PMIを適切に進めることが不可欠です。
M&A後のPMI実施事例
マルハニチロの事例
マルハニチロは、創業100年以上の歴史をもつマルハとニチロが2007年に統合して設立されました。長い歴史を持つ2社が統合することは、容易ではありません。
そこでまずは2014年に、旧組織の歩調を合わせることを主眼においた人事制度を構築。その後、事業展開の広がりや市場の変化を受け、人材投資を主眼においた新人事制度の実現に取り組みました。
新人事制度では、マルハニチロの経営方針を取り込みつつ、検討段階からプロセスを社内に発信。従業員からのフィードバックも募り、双方向コミュニケーションを心がけました。
また、各制度の導入では、本導入の前に部署でのテストを実施。現場の声を取り入れつつ、小さな成果を積み重ねながら、着実な変化を生み出しました。
三井情報
統合を重ね、最終的に7社が合併して2,000人を超える組織となった三井情報では、組織の統一を図るため人材基本方針を策定し、さまざまな施策を展開してきました。元の会社への帰属意識や愛着を強く持つ社員も少なくなかったため、組織全体を巻き込んで風土を醸成するためのアクションを重ねました。
一例として、全従業員が参加して討議するワークショップが挙げられます。1回あたり30人の従業員が参加。普段関わることのない部門の人と討議し、会社の将来を考えることで、従業員一人ひとりの意識が新しい組織に合わせて向上しました。
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