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【ヨミ】ジーエックス グリーントランスフォーメーション

GX(グリーントランスフォーメーション)

GX(グリーントランスフォーメーション)とは?

化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を図ることで経済社会システム全体を変革し、持続可能な経済成長を目指す取り組みです。日本で独自に発展し、企業や政府が一体となって推進。カーボンニュートラルを達成するためのアプローチとしても注目されています。DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティトランスフォーメーション)とも関連し、経済全体に変革をもたらすものです。
 
さまざまな企業がGXに取り組んでおり、エネルギー消費削減や新技術の導入が進展しています。同時に、GXを推進するためには新しいスキルや知識を持つ「GX人材」の育成が必要であり、今後の企業戦略においても重要な位置を占めることが予想されます。

掲載日:2024/09/24
GX

GXとは

定義

「GX」とは、「グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)」の略で、「グリーン」は「環境保護」、「トランスフォーメーション」は「変革」や「変容」を意味しています。化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を通じて、経済社会システム全体を改革する取り組みのことを言います。2022年ごろに登場した経済産業省の造語とも言われていますが、21年には東京大学のプロジェクト名(「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」プロジェクト)や、一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)の提言でも使用されています。

経産省は、GXを「化石燃料に頼らず、太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を進めることで二酸化炭素の排出量を減らそう、また、そうした活動を経済成長の機会にするために世の中全体を変革していこうという取り組み」と定義しました。GXがビジネスの場面で話題になる際は、この定義が前提とされることが多いようです。

一方、前述の東京大学のプロジェクトは、GXをより広く捉え、「地球という人類の共通財産を管理し次世代に引き継ぐための変革」および「持続可能な社会を地球容量の枠内で達成するためのシステム転換」としています。

以下ではGXと似ている言葉や関連のある言葉との違いを解説します。

カーボンニュートラルとの違い

「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、ゼロにしようという考え方です。

日本も批准する国際協定である2015年のパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」「そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」との目標が掲げられています。

これを受け、日本政府は2020年と21年に、「2050年にはカーボンニュートラルを達成すること」「2030年度には温室効果ガス排出を2013年度と比べて46%削減すること」を相次いで表明しました。

これらの目標を達成するための日本独自の言葉として登場したのが、GXです。カーボンニュートラルは長期的な数値目標ですが、GXはそれを達成するための社会の変化をさまざまな角度から目指す、総合的な戦略や方針の名称であると言えるでしょう。また、カーボンニュートラルは深刻化する環境問題への対策そのものであり、必ずしもGXのように経済発展との両立を考えるものではありません。

DX、SXとの関係

「X」は大きな変容を表す「トランスフォーメーション」の略で、先進技術によって経済社会を大きく変容させようという、考え方や取り組みを包括的に表している言葉です。

「DX」は「デジタルトランスフォーメーション」の略で、2004年にスウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「進化し続けるデジタル技術を使い、人々の暮らしを豊かにすること」という意味です。海外でも用いられていますが、日本と海外では意味合いが異なっている部分もあります。GXはDXを参考につくられた言葉であると考えられます。

DXは効率化などの観点で語られがちですが、ペーパーレス化などの取り組みが含まれていて、GXとも関係が深い概念です。GXは旧来的な経済社会を変えることで環境への負荷を下げながら経済発展を推し進めることを目指しているため、GXを進めるにはDXが不可欠とも言われています。

「SX」は「サステナビリティトランスフォーメーション」の略で、持続可能な社会と経営を目指すものです。経産省の検討会で、座長を務めた一橋大学の伊藤邦雄教授が提唱したとされています。環境への配慮などGXと重なる部分もありますが、多様性の推進などそれ以外の側面もあります。一方で、GXの取り組みのほとんどは自然環境の持続可能性を高めるため、SXに包含されると考えられます。

GXが求められる背景

気候変動の現実

GXという言葉が登場した背景には、深刻な気候変動の実態があります。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書は、地球の気温が1850年から1900年以降に約1.1度上昇していて、それが産業化による人間の温室効果ガス排出が原因であるという見解を提示。さらに、世界の気温は今後20年間で平均1.5度以上上昇する、と警鐘を鳴らしています。

国際的潮流

こうした実態を受け、世界各国で気候変動に対するアクションがとられています。象徴的なのがパリ協定で、世界のほとんどの国が参加しています。パリ協定の目標達成のためには参加する各国の協力が不可欠です。なおアメリカはトランプ政権時代に離脱しましたが、バイデン政権になり復帰しました。

日本政府の動き

2020年のカーボンニュートラル宣言を受け、経産省は有識者による研究会を設置。研究会は21年12月、企業が集まり協力して温室効果ガスの削減に取り組む「GXリーグ」の基本構想を取りまとめました。22年2月にこの基本構想が公表され、賛同した440社が参加しました。

また6月には「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」が閣議決定され、その中で重点投資分野の一つとしてGXが挙げられました。これをきっかけにGXという言葉が広く認知されるようになったのです。「10年間で官民合わせて150兆円をGXに投資する」と掲げられるなど、経済界にとってインパクトが大きい内容でした。

GXに関する政府の動き

GXリーグ

前述のように、22年2月に基本構想が公表され、440社が参加することとなった、GXリーグ。GXリーグのWebサイトでは、「2050年カーボンニュートラル実現と社会変革を見据えて、GXヘの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長実現を目指す企業が同様の取組を行う企業群を官・学と共に協働する場が、GXリーグです」と説明されています。

また経産省のWebサイトでは、「経済産業省は、カーボンニュートラルへの移行に向けた挑戦を果敢に行い、国際ビジネスで勝てる企業群が、GXを牽引する枠組みとして、GX(グリーントランスフォーメーション)リーグを設立。2024年4月時点で日本のCO2排出量の5割超を占める企業群が参画」と紹介されていて、多くの大企業が参加していることがわかります。

参加企業は自社の温室効果ガス排出量の削減目標を掲げると同時に、社会全体で排出量を削減できるようなルール作りにも取り組んでいます。また、EUやアメリカ、韓国などでは実施されている削減量を売買できる取引制度も、GXリーグ内で試験的に始まっています。

GX実行会議

2022年に官邸に設置された、首相が議長で関係閣僚と有識者によるGX実行のための会議です。内閣官房のWebサイトには、「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を実行するべく、GX実行会議を開催します」と記載されています。

GXリーグが経済的な視点を主軸としているのに比べ、エネルギーの安定供給という国の安全保障が前面に出た議論が行われています。ウクライナ情勢を踏まえエネルギー資源をロシアからの輸入に頼れなくなっていることなどが背景にあります。

GX推進法

2023年に成立した法律で、正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」。GX推進戦略の策定と実行やGX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入などを定めています。

再生可能エネルギーの推進や原子力発電所の取り扱いについて定めた「GX脱炭素電源法」と合わせて、「GX関連2法」と呼ばれることもあります。こちらの正式名称は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」です。

企業がGXに取り組む理由

国の支援

前述の通り、政府は国を挙げてGXに投資する方針を宣言。具体的には「GX経済移行債」を発行し、10年間で20兆円規模を国が支援するとしています。それにより民間投資を呼び込み、合わせて150兆円規模の投資となることを見込んでいます。GX経済移行債は2024年2月から発行が始まっていて、技術開発や製造工程の転換などを対象に支援するものです。他にも関連補助金があり、GXに取り組むことで企業には経済的メリットが見込めます。

コスト削減

GXの肝は従来の化石燃料に依存しない社会への転換です。GXに取り組むことは資材や燃料の節約になり、コスト削減につながります。また、エネルギー高騰への対策にもなり、企業としてはリスクヘッジにもなります。

企業イメージの向上

気候変動の影響が実生活にも影響するようになり、消費者の環境保護意識も高まっています。GXに取り組む企業は今後ますます増えると予想され、取り組まなかった場合は、企業のイメージが悪化してしまうこともあるでしょう。

企業のGXの取り組み事例

GXは特定の業界に限らず、さまざまな企業に関連するテーマです。GXリーグのWebサイトでは参加企業の実際の取り組みを確認できます。以下でいくつかの事例を紹介します。

メーカー

自動車用タイヤの製造などを行う「日本ゼオン」は「省エネルギー」「プロセス革新」「エネルギー転換」の三つを掲げています。国内4ヵ所の工場において既に購入電力を100%再生可能エネルギーに転換。今後はボイラーなどで使用する燃料の低炭素排出燃料への転換を推進するとしています。

建設

「大成建設」は重機のハイブリッド化や電動化、代替燃料の使用などにより、直接的な排出量を抑えるとともに、再生可能エネルギー電源の保有などを推進。また、社員一人ひとりの活動として、環境目標達成のためにグループ全社員が参加する環境負荷低減活動にも取り組んでいます。

通信

「富士通」は再生可能エネルギーの利用拡大を掲げています。クラウドサービス「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud」の運用に必要な全電力を100%再生可能エネルギーで賄い、AIを活用した空調設備の制御や外気冷却による冷房効率の最適化など、消費電力の削減にも取り組んでいます。

GX人材とは

GX人材とは何か

「GX人材」とは、温室効果ガスの削減に関わる多種多様な人材を指します。環境問題の専門家はもちろんですが、社内の配属で携わることになった事務職の人材も含まれます。GXは新しい概念であるため、定義があいまいな部分があるのも事実です。2024年5月にはGXリーグが「GXスキル標準」を策定したため、今後はこの標準に基づいてGX人材が育成、定義されていくでしょう。

GX人材のニーズの高まり

GXは多くの企業にとっての関心事であり、GX人材のニーズが一気に高まっています。社員や求職者はGXに関連するスキルを身につけることで、自身の市場価値を高めることができるでしょう。企業には、社員がスキルを身につけることを支援したり、新たな人材の確保を視野に入れたりすることが求められています。

GXスキル標準とは何か

GXスキル標準はGX人材を育成する基準としてGXリーグが策定したものです。GXに関わるスキルが多岐にわたる中で、「標準」と呼べるスキルを広く浸透させる狙いがあります。その中で対象となる人材を大きく二つに分けています。

一つは「GXに関わる全ての人」です。この人たちを対象に「GXリテラシー」の標準化を行うことを目指します。中身としてはGXにまつわる体系的な知識を身につけることが中心で、経営層や人事部にとっても関係が深いでしょう。これは「GXスキル標準レベル」の「1」に相当します。

もう一つが「より直接的にGXに関わり、推進していく立場の人材」です。彼らに対しては「GX推進スキル」の標準化を目指します。このスキルを身につければGX人材として労働市場で高い価値を持ち、キャリアアップを目指すこともできるでしょう。「GXスキル標準レベル」は「2」から「4」に相当します。

図説:本年度検討したGXスキル標準(GXSS)
図説:GXスキル標準の対象と期待されること
図説:GXSSレベル標準の定義

上記三つのスライドは、GXリーグが作成した「GXスキル標準」資料の一部。
右記ページを参照 https://gx-league.go.jp/news/20240514/

GX推進スキルを持つ人材はさらに以下の4タイプに分類されています。

  • GXアナリスト
    基準に則り目的設定や方法設計、分析実施を行う部門
  • GXストラジテスト
    情報の分析を行い、環境指標と経済指標の両面を踏まえた計画立案ができる企画部門
  • GXインベンター
    環境と経済指標を大きく推進するビジネスや技術を発見・開発できる開発部門(※)
  • GXコミュニケーター
    ステークホルダーとの対話と交渉で自社の計画実現を推進する広報、人事、営業などの部門(※)
※GXインベンターとGXコミュニケーターの定義は2024年5月時点では未確定

GX関連の資格

GXに関わる資格として代表的なものは「脱炭素アドバイザー」です。環境省が認定する複数の民間試験のうち一つに合格することで、脱炭素アドバイザーを名乗る資格が与えられます。

また、脱炭素アドバイザーには三つのレベルがあり、一般的な試験で取得できるのは最もレベルの低い「ベーシック」の資格がほとんどで、その上の「アドバンスト」の資格が取れる検定は限られます。一番上の「シニアアドバイザー」の資格が取れる検定は、2024年8月現在ありません。

主な認定試験は「GX検定」「炭素会計アドバイザー」「サステナブル経営サポート」などがあります。

図説:「脱炭素アドバイザー資格の認定制度とは」

「脱炭素アドバイザー資格の認定制度とは」(環境省ウェブサイトより)

GX人材を育成する教育、研修制度

GX人材の需要の高まりにより、講座や研修制度も増えてきています。一例として「GX検定」を運営する「株式会社スキルアップNeXt」では、検定だけでなく、研修制度やeラーニングプログラムも実施。他にも東京大学が2021年から「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成プロジェクト」を開始するなど、教育機関によるGX人材の育成も進んでいます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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