コーチングとは|ティーチングとの違い、歴史、要素を解説
コーチングとは、指示ではなく対話によって相手に気づきや新たな視点を与えることにより、自己の成長や目標達成に必要な行動プロセスを導き出す人材開発手法のことです。変化の激しいビジネス環境において、自ら目標達成へのステップを描ける人材を育成するために活用されています。
1.コーチングとは
コーチングとは、対話によって相手の成長や自己実現、目標達成を助ける人材開発手法の一つです。コミュニケーションによって気づきや新たな視点を与え、目標達成に必要な行動プロセスを導き出す手法です。
コーチやコーチングという言葉を聞くと、指導によって人を動かすスキルをイメージされることが多いようです。しかし、コーチングは相手を指導し、動かすことが目的ではありません。コーチングには、相手への問いかけを通じ、自発的な行動を促すことが求められます。
ティーチング、カウンセリングとの違い
コーチングと混同されることが多いものに「ティーチング」「カウンセリング」があります。これらとコーチングの違いを見ていきましょう。
(1)ティーチング
ティーチングとは、その名の通り、自分が持っている知識や経験などを相手に教える人材開発手法です。コーチングが双方向のコミュニケーションを前提としているのに対し、ティーチングは、教える側から教えられる側への一方向的なコミュニケーションになることが多くなっています。
(2)カウンセリング
カウンセリングは、相手が抱える悩みや課題に対し、対話を通じて助言する指導方法です。双方向のコミュニケーションという部分ではコーチングと類似していますが、目的は異なります。
カウンセリングは、マイナスの状態を生んでいる原因にアプローチし、元の状態に戻すことを主な目的としています。これに対しコーチングは、目標達成に必要な思考やスキル、行動プロセスを導き出し、成果につなげることが目的となっています。
2.コーチングの歴史
コーチングはどのように生まれ、発展していったのでしょうか。その変遷を見ていきます。
1950~1970年代
コーチングは、アメリカで発展した人材開発手法です。スポーツのコーチングをビジネスの世界にも生かせるのではないか、と考えたのが始まりです。コーチングという概念がいつ生まれたのかは明確ではありませんが、1950年代にはマネジメントに必要な要素としてコーチングが認識されています。1970年代になると、ビジネスにおけるコーチングの研究が盛んに行われるようになります。そのなかで、現在のコーチングにつながる理論が体系化されていきました。
1980~1990年代
1980年代になると、アメリカではビジネスにコーチングを生かそうとする考えが一般に広がります。1990年代にはヨーロッパにも普及し、現在は広くビジネスに活用されています。1995年に国際コーチ連盟(ICF)が誕生し、1990年代後半には日本にもコーチングの考え方が伝わりました。
2000年代以降
2000年代になると、日本でも本格的にコーチングが普及します。ビジネスの世界で人材育成手法の一つとして受け入れられ、その後、教育現場でも活用され始めます。現在では、コーチングの考え方は広く定着しています。
3.コーチングの要素
コーチングができる人材を育てるには、まずコーチングがどのような要素から成り立っているのかを知る必要があります。ここでは、コーチングを構成する要素について解説します。
コミュニケーション
コーチングを行ううえで前提となるのが、コーチングをする人とされる人との信頼関係です。信頼関係ができていないままコーチングをしても、警戒心や緊張感を拭えず、十分な効果を得ることはできません。そのため、コーチングをする人は相手に合わせて会話をするペーシングスキル、安心感を与える振る舞い、場を和ませるアイスブレイクなどのコミュニケーションスキルが必要となります。
質問
コーチングがティーチングと異なる点の一つに、質問スキルの有無があります。質問スキルとは、質問を繰り返しながら相手に気づきを与えることです。質問をすることで、相手が自ら考え答えを導き出すよう自発性を育てていきます。
傾聴
傾聴も、ティーチングとコーチングを異なるものにしている要素の一つです。傾聴とは、相手の言うことに耳を傾けること。通常のコミュニケーションでは、お互いの意見や価値観を言い合うことで理解を深めていきますが、傾聴では自分の価値観で判断せず、聞き役に徹します。相手が何を伝えたいのか、それはなぜなのかを受け止める姿勢が求められます。
承認
コーチングでは、相手の自主性を引き出すことを目的の一つとしています。そのために大事な要素が「承認」です。相手が行った努力や行動、成長の一つひとつを承認することで、次の行動を促す効果を得られます。また、相手との良好な関係を築くうえでも重要なスキルです。
提案
コーチングでは相手の自発性を促すため、強制力を持った指導は行いません。ただし、提案という形で新たな気づきを促したり、発想の転換をはかったりすることは重要な要素です。自分の意見を押しつけないよう注意し、相手が受け入れるかどうか反応を見ながらコミュニケーションをとっていきます。
4.コーチングスキルを持つ人材を育てるメリット
対話によって相手の成長や自己実現、目標達成を助けるのがコーチングです。コーチングスキルを持つ人材を育成することで、企業にどのようなメリットをもたらすのかを見ていきましょう。
社員の自発性
ビジネス環境の変化に対応するスピード感や多様化への対応力の向上は、多くの企業が直面している課題です。こうしたなかで求められるのは、自ら考え行動し、成果を生み出せる社員の育成です。
ビジネスでは、想定外のことが起きることが珍しくありません。こうしたときに、社員が自ら解決できるスキルを持っていれば、リスク回避や機会損失を防ぐことにつながります。コーチングは、こうした場面で臨機応変に対応できる社員を育てることに役立ちます。
生産性の向上
コーチングスキルを身につけることで、企業の生産性の向上が期待できます。コーチングは、社員の考える力を育てるほか、自発性や応用力、再現性を高めることにつながります。そのため、社員が成果を出すまでの時間を短縮でき、効率化を実現することが可能です。
また、目標設定と行動プロセスが明確になるため、社員は自主的に達成に向けてアプローチしていくことができるようになります。
組織の活性化
コーチングでは、質問、傾聴、承認のスキルが身につくため、社員同士のコミュニケーションが向上します。上司と部下、同僚といったさまざまな関係において信頼感が深まるため、課題解決やプロジェクトといった連携が必要な場面で、積極的に関わる姿勢が生まれます。
また、コーチングには個性を引き出す効果もあります。多くの個性を持った社員が意見を出し合うことで気づきが生まれ、組織の活性化や新たなビジネスに発展していくことも期待できます。
幹部・幹部候補生の育成
コーチングには、幹部や幹部候補生の育成に役立つというメリットがあります。幹部にはマネジメント能力が求められますが、コーチングでは、成果を導く行動を明確にするスキルが身につきます。行動プロセスを明らかにするスキルは、部署やプロジェクトをマネジメントするうえで必要不可欠な能力です。
また、コーチングではコミュニケーションによって相手の可能性を引き出していきます。リーダーとなる人材が部下との良好な関係を築きながら、成果につながるマネジメントを学べる有効な方法といえます。
コーチングする側のスキルの向上
コーチングでは受けた側だけでなく、コーチングをする側の成長も期待できます。他者にコーチングをすることで、コミュニケーション能力が向上します。また、他者の能力を引き出す方法を考えることで、高い判断力や行動力が身につきます。
とくに重要といえるのが、コミュニケーションによって他者から信頼を得る力が身につくことです。コーチングでは、質問・傾聴・承認・提案を通して、慣れあいではない本質的な信頼感を醸成できるようになります。
5.コーチングの課題
コーチングを取り入れる際には、課題も理解しておく必要があります。コーチングの課題には、以下のようなものがあります。
目的が形骸化しやすい
コーチングする側の人が陥りやすいのが、コーチング自体を目的としてしまうことです。コーチングによって得られた直接的な効果や成果を数値化するのは難しいものです。そのため、コーチングしている人を評価する体制がとられていないケースが多く、モチベーションの低下や目的の形骸化を招くという課題があります。
コーチングを取り入れる際は、コーチングする側の人をどう評価するか、基準を明確にすることが重要です。
感情面でのフォローが少ない
カウンセリングでは人の感情や精神面に重きが置かれます。これに対しコーチングでは、成果につながる自発性や行動に着目することが多くなります。そのため、思考面やスキルに偏りやすく、感情面のフォローが薄くなってしまう傾向があります。
しかし、感情面のフォローを行わないと、テクニックの誘導に留まってしまいます。コーチングの効果を得るには、人の感情と行動は強く結びついているということを理解しておく必要があります。
習得するのに時間がかかる
コーチング理論には心理学の要素が多く取り入れられています。そのため、専門的な知識や技術を習得する必要があります。正しく理解できていないままコーチングを行うと、過剰に相手を追い込んでしまうといったリスクが生じます。
また、知識を習得しても、実際の行動でこれを生かすのは容易ではありません。そのため、継続的に学んでいくことが必要となります。コーチングを取り入れるには、長期的なビジョンのもと、計画的に実施することが必要といえるでしょう。
6.現在のビジネス環境に有効な手法
変化のスピードが速い現代のビジネス環境では、正解がない中で成果につながる行動を続けていくことが求められます。また、組織の多様化が進み、リーダーに求められるマネジメント方法も変化しつつあります。
コーチングは、こうした環境に対応する社員やリーダーの育成に有効な方法といえます。また、イノベーションの創出や組織の一体感醸成にも大きく貢献するスキルです。しかし一方では、習得に時間がかかる、継続的に学ぶ必要があるといった課題もあります。コーチングを導入するメリットやデメリットを理解したうえで、計画的に実施することが重要です。
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